神様の料理番

柊 ハルト

文字の大きさ
33 / 150
ミルクの優しさ

06 ー スイール村

しおりを挟む
 この村では冬の訪れが早いとレビに聞いたので、明日のメニューはホワイトシチューに決めた。肉屋で大量に鶏肉を買わなければならないと誠が考えていた頃、客室のドアがノックされた。
 ドアを開けると、アレクセイだった。
 もしかして来るかなと思っていただけに、予想が当たって嬉しいが、アレクセイの表情は曇っている。夕食前の会話が、まだ尾を引いているのかもしれなかった。
 誠はソファを勧め、自分もその隣に座った。

「酒でも呑むか?」
「いや、ありがたいが、今日はやめておこう。酔うと君に何をするか、分からないからな」
「どんだけ呑むんだよ。お前、夕食の時にワイン呑んでるけど、酔ったことないだろ?」
「酒には強い方だが、念のためだ。うっかり酔って、マコトに襲いかかりでもしたら困るのは君だろう?」
「まぁ、そうだけどさ」

 そう言いつつも、誠はアレクセイに体を寄せた。そして自分よりも長い指をいじる。

「マコト…誘っているのか?」
「そうとも言うし、違うとも言うかな」
「そうか。悪い男だな」
「初めて言われたよ、そんな言葉」

 誠は笑いながら、アレクセイにキスをした。
 確かにこの状況だけ見れば、自分は悪い男かもしれない。きっと先を望んでいるアレクセイに、期待だけ持たせて言外に拒絶しているのだから。

「アレクセイは、いい男だ」
「まさか。君に嫌われたくなくて、必死なだけさ」

 言いながらアレクセイは誠を自分の膝に乗せ、キスを繰り返した。
 ひとしきり唇を合わせて満足した後、アレクセイは本題を切り出した。

「マコト、相談なんだが…夜は客室ではなく、俺の部屋で寝ないか?」
「は?」
「何もしないと誓う。ただ、君をこの腕に閉じ込めてしまいたいだけだ。マコト、君も覚えているだろう?あの朝のことを」

 アレクセイの言うあの朝と言うのは、きっと先日のことだろう。
 誠は頬を染めた。
 あの後、いつの間にか寝落ちをしていて、気付いたら早朝になっていた。しかも目の前にはこの美丈夫の、どアップだ。二度寝をかましてしまって、起きたらアレクセイにしっかりと抱き込まれていた。
 俺は抱き枕じゃねえと思ったが、その腕の中の心地良さはとっくに知っていたので、許容できたが、それとこれとは話が違う。ただのハグならば良い。問題は、その場所だ。ベッドでだなんて、自分の心臓は保つのだろうかと誠は心配になった。
 それに、一緒に居る時間が長くなると、それだけアレクセイに余計な物を見られる可能性が高くなる。今でも段々とボロを出しているのだ。そのうち、何か決定的な物が見つかりそうで、少し不安になった。

「マコト…頼む」

 アレクセイは誠の頬を擽る。懇願しているように聞こえるが、その手は何だと誠はアレクセイを睨んだ。
 こうしてアレクセイは時々、持つ者としての傲慢さを見せる時がある。イタリア貴族かと思わせる誠への傾向っぷりだが、その振る舞いは確かに高位貴族なのだろう。
 普段から貴族なぞ目ではない客を相手にしている誠は、どうしてもそれを感じ取ってしまう。本来なら厭うはずのソレは、アレクセイにかかるとただの甘えに見えてしまい、ずるずると彼のペースにハマってしまっている。
 誠はそれを自覚していた。
 アレクセイもそれを分かっているのか、下手に出つつも少々強引にことを進めている。

「お前さぁ…」

 誠が口を開こうとした時、アレクセイの指によって邪魔をされてしまった。フニフニと自分の唇の感触を楽しんでいる犯人は、ふんわりと笑っている。
 誠は怒りのまま、アレクセイの耳を少しだけ引っ張ってやった。

「痛いぞマコト」
「痛くしてんだよ。っつーか、俺で遊ぶな」
「遊んではいない。君の感触を確かめているんだ」

 真面目な顔で言う狼に、誠は更に怒った。

「そんな顔で言ってもダメだっつーの。ったく…お前のその顔は、反則だろうが」
「俺の顔か?マコトに気に入って貰えているのなら、僥倖だな」
「……」

 愉快そうに揺れる尾を目にした誠は、目を細めた。



 狼の巣穴は、客室とそう変わらない大きさだった。さっさと風呂に入ってゆるい部屋着に着替えた誠は、自ら寝床に潜り込む。
 それを見ていたアレクセイは我に返ると急いで隊服のジャケットを脱いでスクエアポーチをベッドサイドに置くと、誠の隣に潜り込んだ。

「着替えねぇの?」
「ん?ああ。遠征中は何が起こるか分からないから、基本的にいつでも隊服のままだ」
「そうなんだ。気が抜けない仕事だな」
「そうだな。遠征中は特にな」

 そうは言いつつも、アレクセイは早速その腕に誠を囲っている。そのどこが気が抜けない仕事だと思いながら、誠はその腕をペチリと叩いた。

「まあ、せいぜい気ぃ抜いとけよ。いざとなったら、ここに戦力が居るんだからな」
「何とも頼もしいが、君は俺に守らせてはくれないんだろうな」
「もちろん。それが遠野だよ。売られた喧嘩はもれなく買うし、懐に入れた奴に助けを求められたら、全力で力を貸すんだ…」

 誠は喋りながら、段々と瞼が重くなっていっていた。アレクセイの声が聞こえていたが、分かるのはその声の響きと、彼からする、ミントとジャスミンのほんのりとした香りだけだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【8話完結】いじめられっ子だった僕が、覚醒したら騎士団長に求愛されました

キノア9g
BL
いじめられ続けた僕は、ある日突然、異世界に転移した。 けれど、勇者として歓迎されたのは、僕を苦しめてきた“あいつ”の方。僕は無能と決めつけられ、誰からも相手にされなかった。 そんな僕に手を差し伸べてくれたのは、冷酷と恐れられる騎士団長・ジグルドだった。 なのに、あいつの命令で、僕は彼に嘘の告白をしてしまう――「ジグルドさんのことが、好きなんです」 それが、すべての始まりだった。 あの日から彼は、僕だけをまっすぐ見つめてくる。 僕を守る手は、やさしく、強くて、どこまでも真剣だった。 だけど僕には、まだ知られていない“力”がある。 過去の傷も、偽りの言葉も超えて、彼の隣にいてもいいのだろうか。 これは、いじめられっ子の僕が“愛されること”を知っていく、嘘と覚醒の物語。 全8話。

拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件

碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。 状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。 「これ…俺、なのか?」 何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。 《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》 ──────────── ~お知らせ~ ※第3話を少し修正しました。 ※第5話を少し修正しました。 ※第6話を少し修正しました。 ※第11話を少し修正しました。 ※第19話を少し修正しました。 ※第22話を少し修正しました。 ※第24話を少し修正しました。 ※第25話を少し修正しました。 ※第26話を少し修正しました。 ※第31話を少し修正しました。 ※第32話を少し修正しました。 ──────────── ※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!! ※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。

神は眷属からの溺愛に気付かない

グランラババー
BL
【ラントの眷属たち×神となる主人公ラント】 「聖女様が降臨されたぞ!!」  から始まる異世界生活。  夢にまでみたファンタジー生活を送れると思いきや、一緒に召喚された母である聖女に不要な存在として捨てられる。  ラントは、せめて聖女の思い通りになることを妨ぐため、必死に生きることに。  彼はもう人と交流するのはこりごりだと思い、聖女に捨てられた山の中で生き残ることにする。    そして、必死に生き残って3年。  人に合わないと生活を送れているものの、流石に度が過ぎる生活は寂しい。  今更ながら、人肌が恋しくなってきた。  よし!眷属を作ろう!!    この物語は、のちに神になるラントが偶然森で出会った青年やラントが助けた子たちも共に世界を巻き込んで、なんやかんやあってラントが愛される物語である。    神になったラントがラントの仲間たちに愛され生活を送ります。  ファンタジー要素にBLを織り込んでいきます。    のんびりとした物語です。    現在二章更新中。 現在三章作成中。(登場人物も増えて、やっとファンタジー小説感がでてきます。)

小悪魔系世界征服計画 ~ちょっと美少年に生まれただけだと思っていたら、異世界の救世主でした~

朱童章絵
BL
「僕はリスでもウサギでもないし、ましてやプリンセスなんかじゃ絶対にない!」 普通よりちょっと可愛くて、人に好かれやすいという以外、まったく普通の男子高校生・瑠佳(ルカ)には、秘密がある。小さな頃からずっと、別な世界で日々を送り、成長していく夢を見続けているのだ。 史上最強の呼び声も高い、大魔法使いである祖母・ベリンダ。 その弟子であり、物腰柔らか、ルカのトラウマを刺激しまくる、超絶美形・ユージーン。 外見も内面も、強くて男らしくて頼りになる、寡黙で優しい、薬屋の跡取り・ジェイク。 いつも笑顔で温厚だけど、ルカ以外にまったく価値を見出さない、ヤンデレ系神父・ネイト。 領主の息子なのに気さくで誠実、親友のイケメン貴公子・フィンレー。 彼らの過剰なスキンシップに狼狽えながらも、ルカは日々を楽しく過ごしていたが、ある時を境に、現実世界での急激な体力の衰えを感じ始める。夢から覚めるたびに強まる倦怠感に加えて、祖母や仲間達の言動にも不可解な点が。更には魔王の復活も重なって、瑠佳は次第に世界全体に疑問を感じるようになっていく。 やがて現実の自分の不調の原因が夢にあるのではないかと考えた瑠佳は、「夢の世界」そのものを否定するようになるが――。 無自覚小悪魔ちゃん、総受系愛され主人公による、保護者同伴RPG(?)。 (この作品は、小説家になろう、カクヨムにも掲載しています)

花屋の息子

きの
BL
ひょんなことから異世界転移してしまった、至って普通の男子高校生、橘伊織。 森の中を一人彷徨っていると運良く優しい夫婦に出会い、ひとまずその世界で過ごしていくことにするが___? 瞳を見て相手の感情がわかる能力を持つ、普段は冷静沈着無愛想だけど受けにだけ甘くて溺愛な攻め×至って普通の男子高校生な受け の、お話です。 不定期更新。大体一週間間隔のつもりです。 攻めが出てくるまでちょっとかかります。

落ちこぼれ同盟

kouta
BL
落ちこぼれ三人組はチートでした。 魔法学園で次々と起こる事件を正体隠した王子様や普通の高校生や精霊王の息子が解決するお話。 ※ムーンライトノベルズにも投稿しています。

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

【8話完結】帰ってきた勇者様が褒美に私を所望している件について。

キノア9g
BL
異世界召喚されたのは、 ブラック企業で心身ボロボロになった陰キャ勇者。 国王が用意した褒美は、金、地位、そして姫との結婚―― だが、彼が望んだのは「何の能力もない第三王子」だった。 顔だけ王子と蔑まれ、周囲から期待されなかったリュシアン。 過労で倒れた勇者に、ただ優しく手を伸ばしただけの彼は、 気づかぬうちに勇者の心を奪っていた。 「それでも俺は、あなたがいいんです」 だけど――勇者は彼を「姫」だと誤解していた。 切なさとすれ違い、 それでも惹かれ合う二人の、 優しくて不器用な恋の物語。 全8話。

処理中です...