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それが運命というのなら#9
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「あの時の事は、確かに事故のようなものだったかもしれない。けど……」
言葉を切り将星は真っ直ぐ理月に目を向けた。
「あの時、本気でおまえと番になってもいいって……そう思ったんだ」
理月を射抜くように、切れ長の鋭い目が自分に向けられている。
アルファのオーラなのか、それとも将星自身の目力なのかは分からなかったが、理月の体が一瞬その目に囚われたように動けなくなる。
「それはきっと……責任感じただけだなんじゃねえかな?」
この再会で理月が感じたのは、将星は優しい男だという事だった。三年前の事も、ずっと気にかけていたのが伝わってくる。
「俺は……オメガである自分が嫌いだ。オメガとして生きていく事も本当は死ぬほど嫌だ。けど、オメガの性を変える事はできない。生きていく為には、オメガの自分と向き合っていくしかない。そう思わせてくれたのは、将星……おまえだった。やっぱり俺はオメガなんだって、そう自覚してオメガとして生きていく覚悟をしたんだ」
「理月……」
責められていると思っているかもしれない。理月は決して将星を責めているわけではなく、オメガの自分と向き合うきっかけをくれた人間なのだと伝えたかった。
「だから、ああなった事は俺にとってはいいきっかけだった。相手がおまえだった事も、運が良かったと思ってる」
理月がこの三年、ずっと考えていた事をやっと将星に伝える事ができた。もう一生伝える事はできないと思っていた。だが、運命の再会のように、今こうして伝える事ができた事に、あの時、将星に自分を抱かせてしまったという罪悪感から少し解放された気がした。
そして将星が自分と番になってもいいと、そう思ってくれた事が素直に嬉しかった。
「それに、この特殊な体質のお陰でオメガだってバレずに生活できてるし、この分なら番を作らなくても、抑制剤の服用でなんとかなりそうだしな」
追加で頼んだウーロン茶がテーブルに運ばれ、それを一気に飲み干した。久し振りにたくさんの言葉を発した気がする。今日はそのせいか酷く喉が渇く。
「そう……か」
ポツリと言葉を溢した将星の目に、悲しい影がよぎったように理月は見えた。
そんな人生は寂しいとでも思ったのだろうか。オメガとして生きていく事の方が、理月にとっては酷な事だった。番を作り、オメガとして自覚しながら生きていかねばならない方が理月にとって、屈辱的であると言えた。
将星は理月の言葉を一言一句聞き漏らさぬよう、じっと静かに耳を傾けてくれているようだった。
「確かにアルファって言われれば、おまえならアルファに見えるしな。実際、最初見た時はアルファだと思ったし」
そう言って、将星は何もない天井を見上げる。初めて互いの存在を知った時の事を思い浮かべているのかもしれない。
「アルファ……とまでは言わないけど、ベータとして充分に誤魔化せてる」
「もし、何か困った事があったら、言ってくれ。おまえがオメガとして生きていく辛さは理解したつもりだ。だからこそせめて、一人くらい頼れる人間がいてもいいだろ」
「ああ……ありがとう」
今は素直に将星の言葉を聞き入れる事はできる。唯一頼れる相手が将星である事に、理月は少なからず安心している自分がいた。
その後は、たわいもない話に花を咲かせた。その話題の中心は当然、行徳学園とケルベロスの話だった。
一度、差しで勝負をしたかった、そう将星に伝えると将星は、俺が勝つに決まってる、そう断言されてカチンときた。それが余りにあからさまで、将星は初めて声を出して笑った。
互いにあまり口数が多い方ではなかったが、将星は酒が入ったせいなのか、理月と話している事でテンションが上がっているのか、随分と口数が多いように思えた。
将星と友情に近しいものが芽生えた瞬間だと思った。これから先、学生時代には叶わなかった、将星との友人関係が築けていけたらと思う。それでも、オメガとアルファである以上、いつ自分がヒートを起こすとも限らない。あんな過ちを二度と起こしてはならない。それは肝に銘じておく必要はあった。
「久々にこんなに飲んだな」
店を出ると、将星は外の空気を大きく吸い込んでいる。
夏も終わりに近付き、外の空気は少し肌寒いくらいで将星の酔いもすぐに覚めてしまいそうだ。
「家は? なんなら俺んち泊まるか? ここから歩いてすぐなんだけど……」
将星はタバコに火を点けながら尋ねてくるが、ハッとしたように動きが止まる。
「って、さすがにそれはまずいか」
そう言って空を仰いだ。
「どこにアパート借りてるんだ?」
「大学の近く。ここから自転車で十分くらいの所」
「そうか、じゃあ、またいつでも会えるな」
将星は喜ぶ顔を隠そうともせず、満面の笑みを浮かべている。
将星が自分との再会を喜んでいるのが、居酒屋にいる時から伝わってきていた。
(何をそんな子供みたいに喜んでんだよ……)
そんな将星の表情に理月は少し呆れつつも、腹の奥をぎゅっと掴まれたような感覚が襲う。
将星の勤め先であるバイクショップが見えると、
「俺のアパート、ここの二階なんだ」
そう言って指差した。
そこはバイクショップの真向かいのアパートだった。コンクリート打ちっぱなしのような外壁の洒落た外観で、自分のオンボロアパートと雲泥の差だ。
「じゃあ、またな」
将星は軽く手を上げ、階段を登ろうとした瞬間、階段に足を引っ掛けそのまま躓いてしまった。
「な、にやってんだよ……!」
慌てた理月は駆け寄ると、将星を抱き起こした。
瞬間、将星の香水なのか将星自身から発する匂いなのか、柑橘系の匂いが理月の鼻を掠めた。
「ハハッ……悪りぃ悪りぃ、結構足にきてるみてぇだ」
「カッコ悪ぃーな」
理月は苦笑を漏らし、将星に自分の肩を貸した。その時、僅かに左手首が疼いた。将星に噛まれた場所が、将星の存在と呼応するように熱を帯び初めている。違和感を覚えつつも、将星に肩を貸し将星の部屋の前までたどり着く。
部屋の電気が点いていた。
将星は一瞬、躊躇うように鍵を取り出し、鍵穴に鍵を差し入れる。
「楽しかった。また、飲もうぜ」
「ああ」
「また、連絡する」
理月は将星が中に入るのを見届けてから帰ろうと思っていたが、将星も理月が帰るのを見届けるつもりなのか、部屋に入ろうとしない。
「ショウちゃん? 帰ってきたの?」
不意に玄関の扉が開き、髪の長い女性が現れた。
「加奈子……来てたのか」
不意に将星の顔が引きつり、気まずそうにチラリと理月の顔を見た。
「お友達?」
こちらに目を向けられ、理月はぺこりと頭を下げた。
「ああ、地元が同じで偶然再会してな」
「じゃあ、俺、帰るな」
理月は踵を返し、将星に背中を向けた。早くこの場から離れたかった。
「また連絡する!」
その言葉に小さく頷き、自転車に跨ると勢いをつけてアパートまで走らせた。
将星の恋人の存在を目の当たりにし、自分が酷く動揺しているのが分かる。アルファでありあの将星だ、恋人がいてもおかしくはない。ただ、あの彼女をあの時、自分を抱いたように抱くのだろうかと考えると、無性に悲しくなってしまった。自分は将星しか知らない、だが将星は自分以外の人間を抱いていた、その事実が酷く自分を落ち込ませた。
そして、忘れようとしていないのは自分の方だった。将星はあの時の事を封印して、あんな綺麗な恋人まで作っていた。将星はあの日の事を忘れ、前に進んでいた。あの日の事に縛られ続けているのは、自分だけだったのだと思い知らされた瞬間だった。
言葉を切り将星は真っ直ぐ理月に目を向けた。
「あの時、本気でおまえと番になってもいいって……そう思ったんだ」
理月を射抜くように、切れ長の鋭い目が自分に向けられている。
アルファのオーラなのか、それとも将星自身の目力なのかは分からなかったが、理月の体が一瞬その目に囚われたように動けなくなる。
「それはきっと……責任感じただけだなんじゃねえかな?」
この再会で理月が感じたのは、将星は優しい男だという事だった。三年前の事も、ずっと気にかけていたのが伝わってくる。
「俺は……オメガである自分が嫌いだ。オメガとして生きていく事も本当は死ぬほど嫌だ。けど、オメガの性を変える事はできない。生きていく為には、オメガの自分と向き合っていくしかない。そう思わせてくれたのは、将星……おまえだった。やっぱり俺はオメガなんだって、そう自覚してオメガとして生きていく覚悟をしたんだ」
「理月……」
責められていると思っているかもしれない。理月は決して将星を責めているわけではなく、オメガの自分と向き合うきっかけをくれた人間なのだと伝えたかった。
「だから、ああなった事は俺にとってはいいきっかけだった。相手がおまえだった事も、運が良かったと思ってる」
理月がこの三年、ずっと考えていた事をやっと将星に伝える事ができた。もう一生伝える事はできないと思っていた。だが、運命の再会のように、今こうして伝える事ができた事に、あの時、将星に自分を抱かせてしまったという罪悪感から少し解放された気がした。
そして将星が自分と番になってもいいと、そう思ってくれた事が素直に嬉しかった。
「それに、この特殊な体質のお陰でオメガだってバレずに生活できてるし、この分なら番を作らなくても、抑制剤の服用でなんとかなりそうだしな」
追加で頼んだウーロン茶がテーブルに運ばれ、それを一気に飲み干した。久し振りにたくさんの言葉を発した気がする。今日はそのせいか酷く喉が渇く。
「そう……か」
ポツリと言葉を溢した将星の目に、悲しい影がよぎったように理月は見えた。
そんな人生は寂しいとでも思ったのだろうか。オメガとして生きていく事の方が、理月にとっては酷な事だった。番を作り、オメガとして自覚しながら生きていかねばならない方が理月にとって、屈辱的であると言えた。
将星は理月の言葉を一言一句聞き漏らさぬよう、じっと静かに耳を傾けてくれているようだった。
「確かにアルファって言われれば、おまえならアルファに見えるしな。実際、最初見た時はアルファだと思ったし」
そう言って、将星は何もない天井を見上げる。初めて互いの存在を知った時の事を思い浮かべているのかもしれない。
「アルファ……とまでは言わないけど、ベータとして充分に誤魔化せてる」
「もし、何か困った事があったら、言ってくれ。おまえがオメガとして生きていく辛さは理解したつもりだ。だからこそせめて、一人くらい頼れる人間がいてもいいだろ」
「ああ……ありがとう」
今は素直に将星の言葉を聞き入れる事はできる。唯一頼れる相手が将星である事に、理月は少なからず安心している自分がいた。
その後は、たわいもない話に花を咲かせた。その話題の中心は当然、行徳学園とケルベロスの話だった。
一度、差しで勝負をしたかった、そう将星に伝えると将星は、俺が勝つに決まってる、そう断言されてカチンときた。それが余りにあからさまで、将星は初めて声を出して笑った。
互いにあまり口数が多い方ではなかったが、将星は酒が入ったせいなのか、理月と話している事でテンションが上がっているのか、随分と口数が多いように思えた。
将星と友情に近しいものが芽生えた瞬間だと思った。これから先、学生時代には叶わなかった、将星との友人関係が築けていけたらと思う。それでも、オメガとアルファである以上、いつ自分がヒートを起こすとも限らない。あんな過ちを二度と起こしてはならない。それは肝に銘じておく必要はあった。
「久々にこんなに飲んだな」
店を出ると、将星は外の空気を大きく吸い込んでいる。
夏も終わりに近付き、外の空気は少し肌寒いくらいで将星の酔いもすぐに覚めてしまいそうだ。
「家は? なんなら俺んち泊まるか? ここから歩いてすぐなんだけど……」
将星はタバコに火を点けながら尋ねてくるが、ハッとしたように動きが止まる。
「って、さすがにそれはまずいか」
そう言って空を仰いだ。
「どこにアパート借りてるんだ?」
「大学の近く。ここから自転車で十分くらいの所」
「そうか、じゃあ、またいつでも会えるな」
将星は喜ぶ顔を隠そうともせず、満面の笑みを浮かべている。
将星が自分との再会を喜んでいるのが、居酒屋にいる時から伝わってきていた。
(何をそんな子供みたいに喜んでんだよ……)
そんな将星の表情に理月は少し呆れつつも、腹の奥をぎゅっと掴まれたような感覚が襲う。
将星の勤め先であるバイクショップが見えると、
「俺のアパート、ここの二階なんだ」
そう言って指差した。
そこはバイクショップの真向かいのアパートだった。コンクリート打ちっぱなしのような外壁の洒落た外観で、自分のオンボロアパートと雲泥の差だ。
「じゃあ、またな」
将星は軽く手を上げ、階段を登ろうとした瞬間、階段に足を引っ掛けそのまま躓いてしまった。
「な、にやってんだよ……!」
慌てた理月は駆け寄ると、将星を抱き起こした。
瞬間、将星の香水なのか将星自身から発する匂いなのか、柑橘系の匂いが理月の鼻を掠めた。
「ハハッ……悪りぃ悪りぃ、結構足にきてるみてぇだ」
「カッコ悪ぃーな」
理月は苦笑を漏らし、将星に自分の肩を貸した。その時、僅かに左手首が疼いた。将星に噛まれた場所が、将星の存在と呼応するように熱を帯び初めている。違和感を覚えつつも、将星に肩を貸し将星の部屋の前までたどり着く。
部屋の電気が点いていた。
将星は一瞬、躊躇うように鍵を取り出し、鍵穴に鍵を差し入れる。
「楽しかった。また、飲もうぜ」
「ああ」
「また、連絡する」
理月は将星が中に入るのを見届けてから帰ろうと思っていたが、将星も理月が帰るのを見届けるつもりなのか、部屋に入ろうとしない。
「ショウちゃん? 帰ってきたの?」
不意に玄関の扉が開き、髪の長い女性が現れた。
「加奈子……来てたのか」
不意に将星の顔が引きつり、気まずそうにチラリと理月の顔を見た。
「お友達?」
こちらに目を向けられ、理月はぺこりと頭を下げた。
「ああ、地元が同じで偶然再会してな」
「じゃあ、俺、帰るな」
理月は踵を返し、将星に背中を向けた。早くこの場から離れたかった。
「また連絡する!」
その言葉に小さく頷き、自転車に跨ると勢いをつけてアパートまで走らせた。
将星の恋人の存在を目の当たりにし、自分が酷く動揺しているのが分かる。アルファでありあの将星だ、恋人がいてもおかしくはない。ただ、あの彼女をあの時、自分を抱いたように抱くのだろうかと考えると、無性に悲しくなってしまった。自分は将星しか知らない、だが将星は自分以外の人間を抱いていた、その事実が酷く自分を落ち込ませた。
そして、忘れようとしていないのは自分の方だった。将星はあの時の事を封印して、あんな綺麗な恋人まで作っていた。将星はあの日の事を忘れ、前に進んでいた。あの日の事に縛られ続けているのは、自分だけだったのだと思い知らされた瞬間だった。
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