それが運命というのなら

藤美りゅう

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それが運命というのなら#8

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 それから一週間後、理月は将星に連絡をした。

 結局、将星の希望で理月のバイト先である、居酒屋黒船で飲む事になった。
 待ち合わせの時間より十五分程前に着いたが、既に将星は店の中にいるという。万が一に備え、抑制剤は服用済みでその為、今日は酒を飲む事はできないのが残念であった。

 仕切りのある四人掛けの席に通されると、黒いTシャツ姿の将星が携帯を眺めていた。
「早かったな」
「ああ、もう来たのか。俺が早く着き過ぎた」
「先、飲んでれば良かったのに」
「そう思って、もう頼んではある」
「そうか」
 こうして将星と二人、改まって向き合うと気恥ずかしい気持ちが込み上げてくる。
「生、お待たせしました! って、りっちゃんか!」
 生ビールを運んできたのは、店長の笹沼だった。
「お疲れ様です」
「りっちゃんのお友達?」
 半袖姿の将星の腕には、手首までビッチリとタトゥーが入っている。そんな男と理月が一緒にいるのが、不自然に見えたのか、チラリと将星に目を向けている。
「ええ、地元が一緒で」
 将星はペコリと笹沼に頭を下げた。
「そう! りっちゃんは何にする?」
「俺は、ウーロン茶で」
「はいよ!」
 笹沼の姿が見えなくなると、
「りっちゃんって……」
 将星は笑いを堪えているのか、口元を抑えている。
「うるせー……」
 その呼び方は、止めてくれと言っても、もう皆の中で定着してしまったのか、誰も止めようとしてくれないのだ。
「飲まねえのか?」
 将星が一口ビールを口にしたところで言ってくる。
「薬、飲んでっから」
「薬って、抑制剤?」
 その問いに理月は無言で頷いた。
「だったら、居酒屋じゃないほうが良かったか?」
「いや、大丈夫だ。気にすんな」
「薬……ちゃんと飲んでるんだな」
 理月は将星の顔をまともに見る事が出来ず、将星の左手にあるタトゥーを見つめ、無意識に自分の手首にある黒いリストバンドに触れていた。この下には、同じ噛み跡がある、そう思うと体が熱くなるのを感じた。

「まさか、こんな田舎の地方都市で再会するとはな」
 将星はジョッキに口をつけ、そう言った。
「はい、りっちゃんのウーロン茶! あと、これサービスね」
 店長がウーロン茶とポテトフライをテーブルに置いた。
「ありがとうございます。あと、刺身の盛り合わせと……何か適当に今日のお勧めを」
「はいよ」
 店長がテーブルを去ったタイミングで理月は口開いた。
「将星は、なんでこっちに?」
「あのバイクショップのオーナーが俺の前のケルベロスの頭だった人なんだけど、声かけられて。元々バイクに携わる仕事したかったから、まぁ、ちょうどいいかと思ってな。おまえは? わざわざこっちの大学志望したのか?」
「ああ、レベル的にも勉強したい内容的にもちょうどいいのがあそこだったから」
「何の勉強してんだ?」
「翻訳家になりたくて、外国語」
「へぇー」
 将星は意外に思ったのか目を丸くしている。
「行徳の史上最強の頭って言われてた男がな……」
「別に頭はなりたくてなったわけじゃねえよ。あそこは、喧嘩が一番強い奴が頭っていう変な伝統があるだけだ」
 ウーロン茶のグラスに口を付けると、半分程飲み干した。思っている以上に緊張していたのか、その時初めて酷く喉が渇いていた事に気付いた。
「将星……」
 コトリと静かにグラスを置き、将星の名を呼ぶ。
「ん?」
「あの時は、悪かった」
 そう言って、頭を下げた。
 将星が息を飲んだのが分かる。
「俺……欲を発散させるためにおまえ利用して、挙句八つ当たりみたいな事言った。冷静になって考えたら、将星は巻き込まれただけなのに……」
「理月……」
 将星は理月の名前を呼んだだけで、暫し沈黙が流れる。
「俺さ、あれ以来ヒート起こしてないんだ」
 将星の切れ長の目が、大きく見開かれている。
「そんな事って……あるのか?」
「分からない。病院で言うには、抑制剤が良く効く体質なんじゃないかって。そういう人も、稀にいるらしい」
「そうか……」
「抑制剤を飲むようになったのは、あれ以来だから、多分そういう体質なんだと思う」
「なら、良かった……って言っていいのか分かんねえけど、普通のオメガよりは生活は楽って事だよな……おまえがヒートを起こす度に、誰かに抱かれているんじゃないかって……」
「それはない、絶対に。例え俺のヒートが強かったとしても、誰かに抱かれる事だけは絶対していなかったと思う」
 将星は安堵したのか、前のめりだった体を後ろの壁に付けると、タバコに火を点けた。釣られるように、理月もタバコを咥えた。
「ずっと、気になってた。将星にあんな姿見られて、事故みたいなものだと言え、挙句あんな事させちまって……」
 自分を抱いた事は、将星にしてみたら汚点のようなものではないかと、ずっと考えていた。
「俺も正直に話すと、オメガのヒートにあんな当てられたのは初めてだった」
 将星の意外な告白に理月の動きが止まる。
「俺、鈍いのか鼻が悪いのか分かんねぇんだけど、周りが騒ぐほど感じない体質らしい。おまえと似た体質なのかもな」
「オメガ・アルファと言っても、その人によって体質も色々だから、偶然俺たちはそういう体質の持ち主だったのかもしれない。今の俺は、おまえを前にしても体に変化はないし」
 周囲の視線を感じて目を向ければ、皆が将星を見てはコソコソと何やら話している。アルファとして人を惹きつける能力は充分にあると言える。
「今も一人なのか? 番は?」
 理月は首を振ると、
「いない。俺はこの先も番を作るつもりはない」
 そう言った理月の目に、強い意志を将星は感じた。
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