それが運命というのなら

藤美りゅう

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それが運命というのなら#18

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「いたぞ! 待て、コラ!」
 その声に理月とガクトはすぐさま立ち上ると、走り出した。
 ──が、目の前に数人の男が立ち塞がっていた。
 二人分程の路地裏の狭い道。両側にはビルの壁に挟まれ、逃げ道はない。
 (体がこんなんじゃなければ……)
 自分たちを囲んでいる人数は五人ほどだ。体がいうことを効けばきっと、それなりに戦う事はできたはずだ。

 理月は、フラフラになりながらもガクトの腕を引き自分の背後に引っ張ると、自分と壁でガクトを挟んだ。無意識に自分よりも小柄なガクトを守ろうとしているようだった。
「理月……」
 後ろから不安そうなガクトの声が聞こえた。
 一人の男が理月の顔を覗き込む。
「へぇ、結構綺麗な顔してんじゃん。外人?ハーフ?」
 そう言って顎を掴まれ、顔を無理矢理あげさせられると熱で虚ろになった目で睨みつけた。
 男たちの動きが一瞬、止まった。
「こいつオメガか?」
「かもな。妙に色気があるから、オメガかもしんねぇな」
「触んな……」
 理月は男の手を振り払い、その男に目掛けて右の拳を突き立てた。力が入っていない分攻撃力はないが、不意を突かれた相手が崩れ落ちるくらいの威力は充分あった。

 しかし、下半身に熱が集まり始めていて意識が混濁し始めているのか、目の前の男たちに犯されたいという欲望が思考を掠める。
 (こんなヤツらのでも欲しいと思うなんて……)
「コノヤロー!!」
 そう拳を掲げ、向かってくる男の腹に蹴りを入れた。
 狭い路地の為、一気に攻められないのは運がいいと言えた。一対一なら体が思うように動かなくとも負ける気はしない。だが、相手はいつの間にか増えており、十人程になっていた。耐えられるのも時間の問題だ。

「やめろよ!」
 ガクトが一人の男にしがみつき止めようとしている。
「うるせー! 離せ!」
 華奢な体のガクトではすぐに振り払われてしまい、小さい体が宙を浮いた。
「何やってんだ! おまえは逃げろ!」
 理月の口からそう言葉を発していた。
 次の瞬間、腹部の鈍い痛みと共に、一瞬息が止まった。
「うっ……! ぐっ……」
 胃から込み上げてくるものを、寸でのところで飲み込む。膝から崩れ落ち、蹲ると男たちはここぞとばかりに何度も腹を蹴られ続けた。

 ヒートのせいかなのか痛みの感覚があまりなく、殴られる衝撃だけが理月の体を駆け巡っていく。理月にとって、ヒートで苦しい思いをするのなら、殴られて痛い思いをしている方が余程マシだと思える。だが、体は痛みよりもヒートを優先しているのか、体の熱は冷める事がなかった。

「理月!」
 どうやらガクトは逃げる事はできなかったようだ。一人の男に押さえつけられている。
「さてと……」
 体への衝撃がなくなり、理月は薄らと目を開けると、リーダー格らしい男がニヤリと不気味な笑みを浮かべていた。男は理月の横にしゃがみ込み、髪を掴むと自分の顔の前まで頭を引き寄せた。
 左手で髪を掴み、空いている右手が理月のTシャツを掴んだと思うと、そのまま勢い良く引き裂いた。
「おいっ、こいつ抑えとけ」
 リーダー格の男が言うと、二人の男に両側から腕を掴まれた。少し暴れてみるが、さすがに振り払う事は不可能だった。

「へえー、綺麗な肌してんな。真っ白で女みてえだ」
 そう言って、理月の胸の中心に触れた。
「!!」
 ビクリと体が反応してしまう。理月の白い肌は、朱色にどんどんと色を付けてていく。
 男は理月の艶かしい体に反応したのか、喉が大きく動いたのが目に入った。周囲の男たちも、そんな理月の姿に息を飲んだ。

 (もう……どうにでもしてくれ……)
 目の前の男たちに犯されてヒートが治るのなら、それでもいいと諦めに似た思いがよぎった。
 理月の体の力が抜け、無抵抗になったのをいい事に、男の手が理月の体を触っていく。瞬間、体全身にゾワゾワと鳥肌が立っていく。
 (気持ちわりぃな、くそ……!)
 顔を背け、やり過ごそうときつく目を閉じる。
 男の手がベルトにかかり、デニムを膝まで下げられてしまった。下着に手が触れようとした時、急激な吐き気に襲われた。
「触ん……な! 気持ち、わりぃ……」
 体全身がこの男を拒んだ。無抵抗だった理月が不意に暴れ出し、男たちは面食らっているようだった。

 (違う……コイツじゃない……触られたくない……俺に触っていいの……は……) 

「暴れんじゃねえよ!」
「触んな……!くそ!触るな……!」
 理月は更に押さえ込まれると、理月の左のこめかみ辺りに鈍い痛みが走る。脳が揺れたように、目の前がブラックアウトし、意識が一瞬飛んだ。
 (しょ……せ、い……)
 意識が薄れていく中で、将星の顔が浮かんだ。


 瞬間、理月からオメガの甘いフェロモンが漏れ始めた。徐々に周囲が理月のフェロモンで満ちていく。その匂いは、通常のオメガのフェロモンよりきつく強い匂いだった。
「こいつ、やっぱりオメガだったのか……!」
 リーダー格の男が鼻と口を抑え、匂いを嗅がないようにしたが、その強い匂いには無意味だった。
 別の男が理月のフェロモンに反応し、息を荒げ理月に襲いかかってきた。一人の男の顔が理月の鼻先まで来たと思うと、寸でのところで男の体が物凄い勢いで横に吹っ飛んだ。

「おい、こら……汚ねえ手で理月に触るな……」

 掠れながらも、腹から搾り出すような低い怒気を含んだ聞き覚えのある声。
 (将、星……)
 将星が襲いかかろうとしていた別の男の髪を掴むと、右の拳を顔面を叩きつけた。
「理月……!」
 ガクトが駆け寄ってくると、理月を抱き起した。
「本当にヒートだったんだ……」
 そう言っては目を丸くしている。
「なんで、急に匂いが……」
 その事に首を傾げたガクトは、目の前で暴れている将星に目を向けた。
「もしかして、彼に反応した?」
 理月は辛うじてガクトの声が耳に入ってくるが全身が熱く、その熱は下半身に集中している。おそらく理月の中心はガクトにも分かるほど張り詰めているのだろう。通常なら羞恥に思う事だが、今は羞恥心やプライドより早く抱いて欲しくて堪らないのだ。大人数相手に次々容赦なく殴りつけている将星の姿だけは、周りから切り取られたように、ハッキリと理月の目に写る。

「つか、あのアルファくん、強過ぎじゃね? 何者?」
 将星は一人の男の顔を片手で掴んだと思うと、コンクリートの壁に容赦なく叩きつける。グシャリと嫌な音がしたが、将星は顔色一つ変えることはない。後ろから将星の動きを止めようとする男にすぐ反応すると、その腹に勢い良く肘を入れる。今度は前からリーダー格の男が殴りかかってきたが、それをあっさりと避けるとそのまま右腕を掴み、その腕を捻り上げると背中に押し当てた。
「い、いてぇ!!折れる!折れる!や、やめろ!!」
 喚いている男の声に、将星は耳に入っているのかいないのか、更に腕を捻り上げた。
 そして──、
「う、ぎゃ──っ!」
 断末魔のような男の声が響き、そこでやっと男を解放した。リーダー格の男は地面で転げ回り、痛みで泣き叫んでいる。それを将星は顔色一つ変えず、見下ろし残っていた残党たちは、そんな将星の姿に顔を真っ青にし逃げて行った。
 その姿に怯えたのは残党たちだけではない。ガクトもまたその将星の姿にゾッとし、背筋が凍った感覚を味わった。
 ふいに、ガクトの腕の中にいた理月が、ゆっくりと体を起こしガクトの腕から離れて行く。理月の匂いはより一層強くなっているようにガクトは感じた。
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