それが運命というのなら

藤美りゅう

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それが運命というのなら#19

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「理月?」
 フラリと立ち上がり、フラフラと夢遊病者のように将星に向かって歩み寄って行く。
「しょう……せ、い……」
 将星はまだ理月の動きに気付いていないのか、地面に転がる男たちを容赦なく蹴りつけている。
「しょう、せい……」
 リーダー格の男を執拗に蹴り付けていた将星に近付くと、そのまま将星の背中に抱きついた。
「理月?」
「将星……」
 理月は甘えるように将星の背中に顔を擦り付けている。
「ああ……こんなに匂い漏らして……待たせて悪かった。帰ろうな……」
 そう言って将星は理月の肩を抱き寄せ、自分の胸に収めると理月のつむじ辺りに唇を寄せた。

 明らかに理月はこの修羅の如く凶暴な男に欲情している。
 (気が強くてプライド高そうな奴だと思ってたけど、こいつでもヒートを前にするとこんな風になってしまうんだな……)
 ガクトは理月に対して、普通のオメガとは違うものを感じていたが、やはりの理月も自分と同じオメガなのだと思った。

 ヒートを前にし、理月の理性はもうなかった。将星に抱いて欲しくて堪らない。将星を見た瞬間に、理月の目には将星しか映らなくなる。
 ヒートは誰振り構わずフェロモンを発し、アルファもベータをも誘惑する。オメガ自身も番を持たなければ、その相手は誰でも構わないはずだ。だが、理月は将星を目にした瞬間、まるで自分の居場所を告げるように激しく匂いを発した。
 三年前もそうだった。将星に激しく欲情した。
 その時と同じか、それ以上に今、将星を求めている。将星の熱い精を自分の腹に注いで欲しくて、自分の中が疼くのだ。そして、将星の噛み跡もまるで、そこに心臓があるかのようにドクンッドクンッと大きく脈を打っている。

 将星が着ていたブルゾンが肩にフワリとかけられ、フードも頭に被せられた。将星に抱えられ、通りに出た瞬間、理月のフェロモンに周囲が騒つき始める。将星は理月の姿を見られないよう、素早く通りに止めてあった黒いハイエースの後ろのスライドドアを開けた。そっと理月を座席に寝かせたが、理月は将星の首に腕を巻きつけたまま離そうとしない。
「理月、一回離して」
 そう言っても理月は首を何度も横に振るばかりだった。
「俺、運転しようか?」
 後ろから声がし、振り向けばガクトが手を出していた。おそらく鍵を寄越せということだろう。
「免許あるのか?」
「あるって! こう見えて俺、二十歳超えてっからね?」
「頼む」
 将星はデニムのポケットから鍵を取り出し、ガクトに投げた。

 ガクトは運転席に乗り込むと、二人が乗ったのをルームミラーで確認する。理月はまるで子供のように将星にしがみ付き、将星の首元に顔を擦り付けている。理月のフェロモンは更に強くなっている様に感じたが、将星は平然としていて、
 (アルファなのによくこんなキツイ匂いの中、平然としてられるな……)
 妙に感心してしまった。
「U大学の方に向かってくれ」
「分かった……ねえ、随分と冷静だけど、君は大丈夫なの?」
 ルームミラー越しに将星を見ると、将星は力なく首を振り、
「いや……かなりきつい……気を抜くと、理性が飛びそうだ」
 そう苦笑いを浮かべた。
 よくよく見れば、額から汗が噴き出ていた。
 (だよな……)

 自分は理月と同じオメガで理月のフェロモンには反応する事はない。おそらく、今の理月は通常のオメガのフェロモンより強い気がした。
「いいところに君が来てくれて、助かった」
 ルームミラー越しに将星を見れば、理月を正面から抱え込んでいた。まるで眠いと愚図る子供をあやす父親のようだ。
「将星……宝来将星」
「俺はガクト、水上楽人みなかみがくとで、将星くん、君があの場に現れたのは偶然なのかな?」
 そう確信めいた口調で楽人は言った。
 偶然にしてはタイミングが良過ぎると、楽人は思ったのだ。この男の禍々しいオーラが、理月に対しての執着心が相当なものであると物語っていた。
 将星はいやらしく口角を上げると、唇に人差し指を当てた。
 (こりゃ、GPSでも仕込んでるな……)
 おそらく将星は理月の携帯にこっそりGPSを入れ、理月の行動を把握しているに違いない。

 楽人は苦笑を漏らすと、エンジンをかけた。
 焦って事故を起こしてしまわないよう気を付けつつも、二人の為にも早く目的地まで急ごうとギアをドライブに入れ、後ろの座席に合わせてあるルームミラーを本来の位置に調整しようと手にかけた。ルームミラーに映り込んだ二人は、すでに激しいキスを貪り合っていて、楽人はそんな二人に苦笑を浮かべ、思わずルームミラーをあらぬ方向に曲げたのだった。
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