旦那様、本当によろしいのですか?【完結】

翔千

文字の大きさ
17 / 26

とどめを刺します

しおりを挟む
ファーガスのいきなりの手のひら返しの謝罪と離縁撤回の言葉に、ロザリアは思わず嫌そうに顔を顰めてしまう。

「明らかに絶対的に自分が不利だと今更思い知って、急に態度を変えて気持ちの悪いことを言わないで下さい。悪寒を通り過ぎて虫唾が走ります」
「な、なんだと!?!?」
「貴方の言葉だけの謝罪なんて、羽虫の足一本分の価値もありません」
「な、そ、そんな事言うな!!謝っただろう!?愛人とは縁を切るし、仕事もちゃんとやるし、お前の事もちゃんと可愛がる!!なんなら、子供だって作らせてやる!!これ以上何を求めるんだ!?」

明らかなロザリアの拒絶の言葉に声を荒げる。

「・・・・・ハァ」

あまりのファーガスの愚言にロザリアは思わずため息吐く。


「絶対に嫌です。お断りします」
「な!?」

確かに彼は自分が発端とは言え、借金が原因で私の夫になった。言ってしまえば、借金のカタに公爵家に売られたようなものだ。
今思えば、彼自身の気持ちの配慮が足らなかったかもしれない。
ロザリア自身仕事が楽しすぎて、ファーガスに寄り添う時間が思ったよりも少なかったかもしれない。
もっと親身になって寄り添っていればここまで事態は大ごとにならなかったかもしれない。

だけど、

「貴方が泣こうが喚こうが離縁。この決定は覆りません」

それとこれとは話は別です。

「貴方は私と離縁をして契約違反の慰謝料、5年間の浮気の慰謝料、私の精神的苦痛の慰謝料、ライド商会での横領の全額返金、デリー夫人が勝手に他の商会に持ち込んだドレスのデザインの損害賠償。その他諸々。
併せて152、800、000Gお支払いを要求します」
「は?」

ロザリアの言葉を聞いて頭が真っ白になった。

「い、いちお、く?は?・・・・・・な、何を、う,嘘を吐くな!!」
「嘘ではありませんわ。ちゃんと調べた正当な請求額ですわ。
契約違反の慰謝料が5、000、000G。浮気の慰謝料、5、000、000G。精神的苦痛の慰謝料2、000、000G。ライド商会の横領50、000、000G。損害賠償60、000、000G。大切な懐中時計を質屋に売った損害賠償8,000,000G後は、私の所有物を勝手持ち出してお金に換えていた分の弁償。秘密裏でアークライドの名使って借りた借金。そして、愛人さんと遊び、貢ぐために使い込んだお金。
合計、152,800,000G になります」

あまりの請求額の高さに、血の色さえも見えないほど顔面蒼白になるデリー伯爵一家。

「そ、そんな大金、払えるわけ無いだろう!!!」

情けなく震える声を張り上げるファーガス。

「払えますよ。デリー伯爵家の財産全て差押えてデリー一家が今後の人生ずっと働き続ければ、そうですね、55年後には全額返済出来ますね」

そう言いながら子供のようなあどけない笑顔をするロザリア。

この場にいない人間が見ただけなら、あどけない笑顔のロザリアに見惚れるであろう。
だが、目の前が真っ暗になるような現実を目の当たりにしているデリー一家はまるで恐ろしい悪魔を見ている気分だった。

「まぁ、無駄話はこれくらいにして、デリー伯爵卿、こちらに離縁確定状が有ります。こちらにサインをお願いします」
「・・・・・はい」
「ま、待て!!父上!!!」
「アナタ!!書いちゃ駄目よ!!!!」

デリー伯爵が震える手で手元の万年筆に手を伸ばすと、ファーガスと夫人が必死の形相で声を荒げる。

「ヨハネス。ルイス」
「「はい」」
「なっ!!んんぐぐ!!」
「ちょ、ま、んんんん!?!?」

ロザリアが2人に声をかけると、有能な2人は素早く口うるさいファーガスと夫人の口に猿轡を噛ませ、言葉を奪った。

そんな息子と妻を見たデリー伯爵は離縁確定状の上で万年筆を彷徨わせていた。

「んんん!!!!んんぐぐがぁ!?」
「んん!!んんーー!!」

口を塞がれていてもファーガスと夫人が何か喚いている。

そんな光景を見ていたら、

「デリー伯爵卿」

お父様が徐ろにデリー伯爵卿に声をかける。

「は、はい!?!?」

お父様の声かけに過剰な程肩を跳ね上がらせるデリー伯爵卿。
だけど、お父様の声はファーガスを責めていた時ほどの重圧感は無かった。

「私は貴殿を高く評価しているつもりだ」
「は?へ?」
「少々、デリー伯爵家について調べさせてもらった。
45年前、経営不振だったとある商人の息子だった貴殿は、資金を援助してもらう見返りにデリー伯爵家の一人娘と結婚、婿入りした。
御実家の家業は6年程前に畳んでしまっているようだが」
「・・・・・・・・・はい。両親がかなり高齢になってしまったので、」
「・・・・・・違うな。6年前の子息が作った借金を工面する為に畳むしか無かったのではないか?」
「・・・・・・・・」

お父様の質問にデリー伯爵卿は俯いてしまった。

「貴殿が実家の商家を救ったデリー伯爵家に未だに恩義を感じ、デリー伯爵家に尽くしているのであれば、もう既に、その恩義を果たしていると私は思うのだが?」
「・・・・・、」
「貴殿が、デリー伯爵家の一人娘を娶り、跡継ぎをつくり、先代のデリー伯爵家当主が亡き後も新たな当主として領地を立派に治めていた。それだけでも、十分デリー伯爵家への恩を返したように思える。子息の借金も本来ならば子息本人に片付けさせるべきだった。違うか?」

お父様の静かで重い言葉に、

「・・・・・・、分かって、いたんです」

デリー伯爵卿は嗄れた小さな声でポツポツと呟いた。

「息子が投資に失敗をして、莫大な借金を背負った時、もうデリー伯爵家は終わりだと思った。だが、妻が、
「当主として何とかしろ」
「潰れかけた商家を救ってやったのは誰だ?」
「父親として夫として息子と妻を守るのは当たり前の事」
「私達を路頭に迷わせるなど不甲斐ない以外何者でも無い」
ずっと、そう言われてきました」

万年筆握るデリー伯爵卿の右手が震えていた。

「ずっと、ずっと、頑張ってきた。結婚してから、何かミスをする度に妻や義理の両親から実家の商家を潰すと脅され、罵られ、嘲笑われ、家では私の居場所など無く、外に仕事出ることで成果を上げ、気を紛らわし、必死に居場所を作った。だが、もう!!」

今までの不満を吐き出すように叫ぶデリー伯爵卿。

「もう、どうしようもないんだ・・・・・。必死になって借金を返すべく奔走したが、それが、全て無駄になってしまった。この状況でデリー伯爵家の財産を全て差し出してもどんなに足掻いても、まだ、50、000、000G近い借金が残ってしまう・・・・」

そして、万年筆を手放し、絶望したように両手で髪を掻き乱し両手で顔を覆い、そのまま弱々しく机に肘を着いた。

「お義父様」

ロザリアはそんな義父に優しく声をかける。

「この離縁は、譲る事は出来ません。もちろん慰謝料も賠償金も譲れません」
「・・・・・・・」
「ですが、お義父様にささやかな贈り物を贈る事は出来ます」
「ぇ・・・・・?」

そう言いながら、ロザリアはデリー伯爵卿に再び数枚の書類を差し出す。

「ロザリア様、これは?」
「デリー伯爵卿の奥様の不貞行為の証拠をまとめた書類です」
「へ?」
「んんんーーーーーー!!!!???」

ロザリアの明るい言葉に伯爵卿は呆けたような声を出し、夫人は目がこぼれ落ちそうなほど目を見開き塞がれた口で叫んだ。

「バーバラの不貞、行為?」
「はい、随分と派手に遊んでいたようですね。それも、随分と前から」

私がそう言うとデリー伯爵卿は書類を取り目を通す。
その間、夫人が車椅子を壊さんばかりに身を捩り、汚く叫んでいた。
まぁ、皆無視していたけど。

「この書類はお義父様に差し上げます」
「ロザリア様・・・・・」
「デリー伯爵家が差し押さえられた後、これまでの事を全て水に流して、家族一丸となり再出発するのもよし。ご子息を愛の鞭でご子息自身に借金を返済させるのもよし。
・・・・・・・それぞれの負債をそれぞれ、きれいに分けるのも、また、よし。
離縁確定の後にご家族で、話し合ってください」

私がそう言うと、デリー伯爵卿は弱々しいがどこか吹っ切れたように小さく笑った。

「・・・・・・・・ロザリア様、ありがとうございます」
「はい」

弱々しいが小さく笑うデリー伯爵卿に私は笑顔で答える。

「お義父様、離縁確定状にサインをお願いします」
「はい」

デリー伯爵卿は再び万年筆を握り、今度は迷いなく離縁確定状にペン先を走らせた。

「んん!?んんんぐふん!?!?」
「ふんーーーんん!?んん!!!」

夫人とファーガスは往生際が悪く、渾身の力を込めて意味の分からない声を上げて暴れる。

その光景を見て、私の中でスッと何かが冷めていくのを感じる。

「これは、貴方が招いた結果ですわ。ファーガスさん」
「フンググ!?」
「楽しかったですか?」
「ッッ、」
「表面上で私との夫婦生活。お遊び程度の仕事をして、私が稼いだお金を夫人と一緒に湯水のように使い込み、愛人さん達と遊びまくった、この5年間。楽しかったでしょ?」
「ぅぅぅぅ、」
「貴方はそれだけの事をしたのです。それに私言いましたよね?
「旦那様、本当によろしいのですか?」っと、」
「っ、・・・・・!!」
「私を怒らせたのは、ファーガスさん、貴方自身です」
「っ、」
「自身の身の破滅なんて覚悟の上でしょう?」

自分にニッコリと笑いかける妻だった10歳年下の女にファーガスは、身動きすることさえも出来ない程、恐怖した。

「さて、お義父のサインももらえた事なので、私達は席を外しまししょう。お父様、お母様、お兄様」
「ああ、」

私がそう言うと、お父様達が席を立つ。

「お義父様、ご家族と話し合いの場にこのお部屋をお貸しします。どうぞ、存分に話し合って下さい」
「・・・・・・・・はい、お心遣い感謝します」

デリー伯爵卿も席を立ち、私達公爵家に深く頭を下げる。

「テオ、ルイス、ヨハネス、ラン。行くわよ」
「「「はい」」」

私達公爵家と使用人が部屋を出ようとしたその時、

「んんーーーーー!!!!!」

後ろから、こもった叫びが上がった。
後ろを振り向くと、もう、元夫となったファーガスが、縋ったような目で私を見つめている。

だから、私は、

「さようなら、元旦那様」

無邪気な笑顔で別れを告げた。

「んん!!ぐんんん!!ぐんんん!!!!!!」

閉ざされた扉の向こうで耳障りな叫びが響いた。

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

〖完結〗私を捨てた旦那様は、もう終わりですね。

藍川みいな
恋愛
伯爵令嬢だったジョアンナは、アンソニー・ライデッカーと結婚していた。 5年が経ったある日、アンソニーはいきなり離縁すると言い出した。理由は、愛人と結婚する為。 アンソニーは辺境伯で、『戦場の悪魔』と恐れられるほど無類の強さを誇っていた。 だがそれは、ジョアンナの力のお陰だった。 ジョアンナは精霊の加護を受けており、ジョアンナが祈り続けていた為、アンソニーは負け知らずだったのだ。 精霊の加護など迷信だ! 負け知らずなのは自分の力だ! と、アンソニーはジョアンナを捨てた。 その結果は、すぐに思い知る事になる。 設定ゆるゆるの架空の世界のお話です。 全10話で完結になります。 (番外編1話追加) 感想の返信が出来ず、申し訳ありません。全て読ませて頂いております。ありがとうございます。

婚約破棄されたので、もう誰の役にも立たないことにしました 〜静かな公爵家で、何もしない私の本当の人生が始まります〜

ふわふわ
恋愛
王太子の婚約者として、 完璧であることを求められ続けてきた令嬢エリシア。 だがある日、彼女は一方的に婚約を破棄される。 理由は簡単だった。 「君は役に立ちすぎた」から。 すべてを失ったはずの彼女が身を寄せたのは、 “静かな公爵”と呼ばれるアルトゥール・クロイツの屋敷。 そこで待っていたのは―― 期待も、役割も、努力の強要もない日々だった。 前に出なくていい。 誰かのために壊れなくていい。 何もしなくても、ここにいていい。 「第二の人生……いえ、これからが本当の人生です」 婚約破棄ざまぁのその先で描かれる、 何者にもならなくていいヒロインの再生と、 放っておく優しさに満ちた静かな溺愛。 これは、 “役に立たなくなった”令嬢が、 ようやく自分として生き始める物語。

【完結】陛下、花園のために私と離縁なさるのですね?

ファンタジー
ルスダン王国の王、ギルバートは今日も執務を妻である王妃に押し付け後宮へと足繁く通う。ご自慢の後宮には3人の側室がいてギルバートは美しくて愛らしい彼女たちにのめり込んでいった。 世継ぎとなる子供たちも生まれ、あとは彼女たちと後宮でのんびり過ごそう。だがある日うるさい妻は後宮を取り壊すと言い出した。ならばいっそ、お前がいなくなれば……。 ざまぁ必須、微ファンタジーです。

【完結】領地に行くと言って出掛けた夫が帰って来ません。〜愛人と失踪した様です〜

山葵
恋愛
政略結婚で結婚した夫は、式を挙げた3日後に「領地に視察に行ってくる」と言って出掛けて行った。 いつ帰るのかも告げずに出掛ける夫を私は見送った。 まさかそれが夫の姿を見る最後になるとは夢にも思わずに…。

双子の妹は私に面倒事だけを押し付けて婚約者と会っていた

今川幸乃
恋愛
レーナとシェリーは瓜二つの双子。 二人は入れ替わっても周囲に気づかれないぐらいにそっくりだった。 それを利用してシェリーは学問の手習いなど面倒事があると「外せない用事がある」とレーナに入れ替わっては面倒事を押し付けていた。 しぶしぶそれを受け入れていたレーナだが、ある時婚約者のテッドと話していると会話がかみ合わないことに気づく。 調べてみるとどうもシェリーがレーナに成りすましてテッドと会っているようで、テッドもそれに気づいていないようだった。

政略結婚だからと諦めていましたが、離縁を決めさせていただきました

あおくん
恋愛
父が決めた結婚。 顔を会わせたこともない相手との結婚を言い渡された私は、反論することもせず政略結婚を受け入れた。 これから私の家となるディオダ侯爵で働く使用人たちとの関係も良好で、旦那様となる義両親ともいい関係を築けた私は今後上手くいくことを悟った。 だが婚姻後、初めての初夜で旦那様から言い渡されたのは「白い結婚」だった。 政略結婚だから最悪愛を求めることは考えてはいなかったけれど、旦那様がそのつもりなら私にも考えがあります。 どうか最後まで、その強気な態度を変えることがないことを、祈っておりますわ。 ※いつものゆるふわ設定です。拙い文章がちりばめられています。 最後はハッピーエンドで終えます。

短編 政略結婚して十年、夫と妹に裏切られたので離縁します

朝陽千早
恋愛
政略結婚して十年。夫との愛はなく、妹の訪問が増えるたびに胸がざわついていた。ある日、夫と妹の不倫を示す手紙を見つけたセレナは、静かに離縁を決意する。すべてを手放してでも、自分の人生を取り戻すために――これは、裏切りから始まる“再生”の物語。

顔も知らない婚約者 海を越えて夫婦になる

永江寧々
恋愛
ある朝、ハロルド・ヘインズは祖父に呼び出されて告げられた。 「明日、お前の婚約者がここへ嫁いでくる」 生を受けて16年、婚約者がいることは一度も聞かされていなかった。 貴族の子供に婚約者がいるのはおかしな話ではない。衝撃ではあったが、一体どういう相手なのだろうと問いかけたハロルドの耳に届いたのは想像もしたくないほど最悪な言葉。 「美しい和の国の女だ」 和の国を愛してやまない祖父が決めた婚約者。 誰も逆らうことができない祖父の絶対命令に従うしかなく、ハロルドは婚約者ユズリハを迎える。 和女を婚約者にしたことがバレては笑い者になる。 和人に嫌悪するハロルドにとって人生終了のお知らせも同然。 ユズリハに感情も事情も全て正直に告白したハロルドは驚くことなくそれを受け入れ「愛し合えとまでは言われておらぬ」と笑う姿に唖然とする。 地獄の始まりだと婚約者を受け入れようとしない伯爵家次男は想い人と一緒になることを夢見ているが、自由に暮らす和の国随一の豪商の娘はそれさえも応援すると言い……

処理中です...