旦那様、本当によろしいのですか?【完結】

翔千

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愚かな人たちに

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お父様のマシンガントークに言葉も返せず、青い顔で俯くファーガス。

「アナタ、落ち着いて。この男を青二才だと言うには歳をいき過ぎていますよ」
「母上、要件がずれています」

のほほんとしたお母様にお兄様は呆れている。

「まあ、私が言いたい事の殆どはお父様が言ってくれたので、私は大分スッキリしましたわ」

そう言いながクスクスと笑うロザリアに、ファーガスと伯爵夫婦は背筋に寒いものを感じた。

「お父様、今回の事は慰謝料と離縁という形で責任を取ってもらうんですから」
「ふん、可愛い娘の過去に離縁という汚点を付けたのだ。離縁に関しては反対は無いが文句の一つも言いたくはなる」

鼻息を荒くファーガスを睨みつけるお父様。

お父様の文句は一つでは収まら無い様子ですが。

「ま、待ってくれ!!!」
「はい?」

先程までお父様に睨まれ、言われたままになって黙っていたファーガスさんがいきなり声を上げる。

「俺は離縁に賛成していない!!だから、この離縁は無効だ!!それに、サンドラ、サンドラはどうなる!?彼女は俺の子を身籠もっているんだぞ!?お前は、生まれて来る子供から父親を奪うつもりか!?」
「・・・・・・・・・・・・」

ファーガスのあまりにも身勝手な発言に、口元に手を当て困ったように笑うロザリア。
だが、

「この期に及んで、まだ悪あがきをするか。このクズ男は」
(あらあら、往生際が悪いですわよ?ファーガスさん)

発言した言葉と表情が合わなすぎた。

「・・・・・・は?」

目の前にいるロザリアの言葉に思考が追いつかずデリー一家の表情が目を見開いた顔で凍りついた。

「ロゼ、本音と建前が逆になっていないか?」
「あら?」

兄に指摘をされ、思わず小首を傾げる。
完全に無意識でした。

「ま、気持ちはわかるがな。ロゼとこの男の結婚はデリー伯爵家がアークライド公爵家の莫大な借金からの契約により成立したもの。それが、この男の明らかな有責で離縁確定なのに、今になって、離縁は無効だとか、愛人の子供がだとか、ふざけているとしか思えないな」
「流石にこの人の図々しさには呆れるしかありません」

あまりの図々しさと身勝手さと愚かさに、呆れを通り越して、最早哀れみさえも感じてしまう。
同情の余地は無いけど。
苦し紛れに愛しのサンドラの名前を出したところで、私の不快指数が増えるだけだと言うのに。

「図々しい、って、お前は俺の妻だろうが!?」
「あら、もうすぐ妻ではありません。私の父親と貴方の父上であり、デリー伯爵家当主である義父様が私達の離縁を認めているんですよ?本人の同意がなくとも両家の家長が離縁を認めれば離縁は成立する。
これはこの国の正当な法律ですわ」
「う、うるさい!!それでも、俺は、こんなの認めない!!離縁なんてしない!!俺が没落などしたらサンドラや生まれて来る子供が路頭に迷いう事になるんだぞ!!」


ギャンギャン騒ぐファーガス。
すると、

「あ、あの女妊娠していませんでしたよ」

後ろに立っていたルイスがサラッと落とした爆弾発言に、ファーガスは言葉を忘れ、固まる。
対するロザリアはさして驚いた様子もなく、

「ああ、やっぱり」
「なんだ、ロゼは気付いていたのか?」
「ええ、だってこの人と結婚して1年間は普通に夜の営みはありましたし、この人にはサンドラさんを含めて6人の愛人さんがいるんですよ?念の為にお医者様に身体を調べてもらいましたけど、私自身何処にも異常は見られませんでした。
それなのにこの5年間私にも愛人さんにも妊娠の報告はありませんでした。
サンドラさん以外は。そうよね、ヨハネス?」
「はい、お嬢様」

私がデリー夫人の後ろに控えるヨハネスに問いかけると、ヨハネスは頷く。

「ですが、実際は、アークライド公爵家の名を持つファーガス氏を奪うための虚言。
どうもサンドラはファーガス氏がアークライド公爵家の子息だと勘違いをしていたようで、子を宿したと言う嘘の既成事実で現妻であったロザリア様を追い出し自身がアークライド公爵家の妻に収まろうと目論んでいたようすです」
「まぁ、実際は寝取った男は借金の担保での入婿で、アークライド商会の権限を持っているのはロザリア様だと言う事を知った途端に顔面蒼白でしたけどね」

呆れたようにため息を吐くヨハネスと小馬鹿にしたように鼻で笑うルイス。

「な、なんで、」

信じられないと言った顔で後ろにいる2人を見るファーガス。

「本人に聞きましたからね」

ルイスはニヒルな笑みを浮かべながらファーガス拘束されている車椅子の横に立ち、懐から眼鏡を取り出し、かき上げていた前髪をクシャりと乱し前髪を下ろした。

「な!?!?」

ファーガスの目に写ったのは、ホテル・ヴェガ・クラウンで愛しのサンドラと喋っていた、アーノルドと名乗った青二才だった。

「き、貴様は!?」
「どーも、ルイス・アーノルドでーす」

ニヒルな笑顔のまま目の前で車椅子に拘束されているファーガスに笑いかけるルイス。

「いやー。なかなか面白かったですよ?アンタと一緒になってもアークライド公爵家を敵にまわすだけだと知った時の慌てようと、アンタを見限る切り替えの速さ。俺がちょっと「逃げたい?」って聞いたら、勝手にベラベラと喋ってくれましたよ。妊娠の事。アンタのアホさ加減も」

ルイスがとっても悪い顔をしていて、ファーガスさんが真実を受け入れられず、あんぐりと口を開けている。
逆に笑えますね。

「そ、そんな、う、嘘だ!!サンドラが俺を騙していたなんて!!」
「騙していたのはお互い様では?アンタだって愛人達に自分の事をアークライド公爵家の息子、ライド商会の跡取りだと言いふらしていたそうじゃないですか?」
「そ、それは、」

現実を受け入れ難いのか、反抗しようと口を開くファーガスだったが、ルイスの指摘に途端に俯き口籠る。

「・・・・・アークライド公爵家の人間なのは、事実だ。少しくらい話を盛るくらい誰でもやっている」

悔しそうに憎まれ口を開くが、その声はとても小さい。

「おいおい、私にこんな不出来で愚かな歳上の血縁者はいらないぞ?」
「こんな男が一時的にでも義理の息子だったとはな」

お兄様とお父様が傍目で見ても分かるほど侵害だと嫌そうな顔をしている。

「ファーガスさん。貴方は確かに私の婿になってアークライド公爵家とは義親子になりましたが、貴方個人に私の夫と言うだけで、跡取りでもなんでもありません。
と言うよりも、ライド商会はお兄様が後継者です。表面上の仕事を遊び程度にしかしてこなかった貴方に公爵家の後継者だと言う可能性が、万が一にもあるわけ無いじゃ無いですか」

呆れて、ため息が出てしまう。
と、その時、

「・・・・・・・・・った、」
「はい?」
「ッ、悪かったっと言っている」

ファーガスさんの絞り出すような声で、何かを言っている。
俯いていた顔を上げると、何故か熱っぽい視線で私を見つめて来る。

「俺が、悪かった。全部謝る。サンドラの事も諦める。心を入れ替えて真面目に働く。ロザリアの事もちゃんと愛する事をここに誓う。また仲の良かったあの頃に戻ろう。だから、離縁は無しにしよう」
「え?嫌です」

ロザリアは真顔で即答で答えた。




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