旦那様、本当によろしいのですか?【完結】

翔千

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パーティーの準備

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アークライド公爵家令嬢ロザリアがデリー伯爵家子息ファーガスが離縁した話は瞬く間に貴族達の間に広まり、色んな憶測や噂話が飛び交ったか。

だけど、人の噂もなんとやら。
話題にはなるが、貴族同士の離縁はそこまで珍しい話ではない為、半年もすれば風の噂程度にしか囁かれなくなっていた。


初夏の陽気が気持ちがいい午後。
アークライド公爵家では使用人達総出で慌ただしい。

今夜、アークライド公爵家自慢の庭園でライド商会主催のパーティーが開かれる。
その為、数日前から使用人達が慌ただしく準備に奔走していた。

「お嬢様!!そろそろ、お支度をしないと、」
「待って、アンナ!!これだけ、この決済だけ終わらせさせて!!あと、出来れば、この企画の確認を、」
「その二つの案件は明日でも明後日でも十分間に合います!!」
「でも、出来れば終わらせて置きたい、」
「お嬢様は仕事が終われば新しく仕事を持ち出すじゃないですか。キリがありません。
さあ!!早くそのデスクから離れて、パーティー用のドレスにお着替えしますよ!!」
「ア、アンナ~~」

困ったように眉を下げるロザリアを遠慮なしに作業用のデスクから引き剥がすアンナ。

アンナをはじめとして、数人のメイド達にバスルームに連行され、体を洗われた。その後、着替える為、衣装部屋に連行され、ドレスを着替えさせるロザリア。

ライド商会が考案した新作のドレスはコルセットでお腹周りを絞めるのでは無く、専用のベルトを使う事で動きやすく苦しくない。
オアシスのスレンダータイプのドレスと同色のアーム・ロングを着付けされ、次はメイクヘアーアップする為に鏡台の前に座る。

「パーティーの主催はお兄様が取り仕切っているから、妹の私はパーティーに出なくても、」
「今回のパーティーはライド商会のお嬢様が発案した新企画の発表パーティーです。発案者が不在でどうするんですか」
「私は、パーティーで目立つ為に、今回の企画を発案したわけじゃないんだけど・・・・」

パーティーにあまり乗り気では無いロザリアは憂いた面持ちでため息を吐く。

すると、

コンコンコン

「お支度中、失礼します。ロザリアお嬢様、今宜しいでしょうか」

衣装部屋のドアをのっくする音と聞き慣れた声が聞こえた。

「キノ。ええ、入って」
「失礼します」

数枚の書類手に持ったキノが衣装部屋に入ってきた。

「キノ、仕事の話ならパーティーが終わってからに、」

また、仕事の事でロザリアの気が向かない様にキノを止めようとするアンナ。

「あ、いいえ、これは報告書です」
「報告書?」
「アンナ、私がキノに頼んでいた物よ。キノ、ありがとう」

鏡台の椅子に座ったまま、キノから報告書を受け取る。

「それと、お嬢様、これを」
「あら?お手紙?」
「はい、デリー氏からです」
「まあ!!ロバートさんから?」

ロザリアは報告書よりも先に、手紙から開封する。
送り主は元義父であり、今はもう無いデリー伯爵卿からだった。

「・・・・・・・まぁ、うふふ!!」

手紙を読むロザリアは朗らかに笑う。

「お嬢様、どうかなされましたか?」
「ん?いいえ、ロバートさんが引っ越した農産地で新しい出逢いがあったみたい。その女性と今年の秋に再婚するんですって」
「まぁ、それはおめでたいですね」
「ええ、デリーさんは農業に向いていたみたいだし、素敵な出逢いがあって良かったわ。『本当の家族』が出来たって書いてある」
「本当の、『家族』ですか、」
「ええ、35年間実子だと思っていた息子が、実は血のつながりが無かったんですから、今度こそ本当に幸せになって欲しいわ」

嬉しそうに手紙を読み返すロザリアに対してアンナやキノ、他のメイド達は少し複雑そうな顔をする。

半年前、デリー伯爵家との離縁の際にロザリアがデリー伯爵卿、ロバート氏に渡したのはロバート氏の妻であったバーバラの不貞の証拠だった。

バーバラの不貞行為はロバート氏との結婚当初から始まり、相手は複数人いたと見られた。

結婚当初、ロバート氏は当時デリー伯爵当主であったバーバラの父親に領地の一部を丸投げされ、領地の改善の為、一年以上、多忙により家を空けることが頻繁にあったらしい。
しかし、バーバラはその一年の間に懐妊をした。
それが、ファーガスだった。
実際のファーガスの父親は複数人いた愛人の誰かだと考えられた。

だが、バーバラはファーガスの父親はロバート氏と宣言した。

デリー伯爵の血を引いているのは母親であるバーバラ。
ファーガスがデリー伯爵家の子息としてロザリアと結婚したのは、大きな問題は無かった。

実家の借金の工面の為に気性の激しい伯爵令嬢と結婚。
実家の商会の為にと身を粉にしてデリー伯爵家に尽くしてきたロバート氏。
挙げ句の果てに、ロバート氏にとって実子だと思い、愛情を注ぎ育てて来た息子に血縁関係が無い事にとてもショックを受けていたらしい。

だが、そこ事がキッカケになったのか、ロバート氏は吹っ切れた。

その後、かなり揉めたようだが、ロバート氏はデリー伯爵家の私財、家具家財の全てを売却、6年前にアークライド公爵家から借りた借金を全て完済させたのち、バーバラと離縁した。
そして、今回の騒動で新たに生まれた借金と賠償金と慰謝料はバーバラとファーガスが支払う事が決められた。

「デリー氏は、借金返済後ライド商会が契約している農家へ就職が決まった時は、少し心配でしたけど、今では元気に農業に励んでいるようです」
「ロバートさんは元々、領地の改善に農業や産業に力を入れていたお方ですから、その知識が役に立っているんでしょう」

ロバートからの手紙を読み終え、今度は報告書に目を通す。

「うーん。元義母さまと元旦那様はまた脱走を試みたようね」
「またでございますか?」
「懲りない人達。あれだけ払えない、払わないって言っていたから、働き口を用意したのに」

まあ、逃げ出したい気持ちも分からなくは無いけど。

ロザリアはこっそりと心の中で呟く。

「・・・・・・・お嬢様、何故、あの2人に働き口を用意したのですか?」
「え?」

キノは以前から気にかかっていた事をロザリアに問うた。

「あの2人は、お嬢様を侮辱し、あの男に至っては長きにわたる不貞行為を繰り返して。正直、生かしておく価値は無いと思います」
「わぁ、キノったら過激ね」

キノの問いにロザリアはクスクス笑った。

あの人の結婚生活期間、キノはよくファーガスに陰湿だの無愛想だの言われていたからなぁ。
もちろん、他の使用人達にも何かと文句や、横柄で高圧的な態度をとっていた。

キノの気持ちも分からないではない。

「でもね、人間誰にでも生きる価値はあるわ。だから、軽々しくそんな事を言ってはダメよ」
「お嬢様・・・・・・」
「それに、もったいないでしょ?」
「え?」

目を細め、小さく微笑むロザリア。

「ちゃんと、使える手足があるのに、早々に潰してしまったら、もったいないわ。
多少、傷だらけになっても、使えるものは、使ってあげないと、ね」

だが、その笑みはどこか、薄暗いナニかを感じせ、

「ッ、」
「ッ、」

キノとアンナは息を飲み、周りに控えていたメイド達は顔を青くした。

「ッ、・・・お嬢様。終わりました」

だが、アンナの手は止める事なく、ロザリアのメイクと髪を綺麗にセットを終わらせた。

メイクは少し控えめに仕上げ、ロザリアの長い髪は綺麗に纏め、小さな白い花と赤い宝石がついた髪飾りで飾りつけたシンプルな仕上がりだった。

「まぁ、素敵。ありがとう、アンナ」

仕上がりに満足したのか、先程の薄暗い笑みが消えて満足そうに微笑むロザリア見て一同、密かに安堵の息を吐いた。

「そう言えば、例の愛人さん方は大人しく働いてくれているの?」
「ッ、はい。今は北の小さな町で苦労しているみたいです」
「そう、ならよかった。その様子なら、愛人さんは問題は無さそうね」

キノの返答に満足そうに微笑む。

例のファーガスの愛人さん、サンドラはアーノルドこと、ルイスからファーガスの事実を聞かされた。
真実を知ったサンドラはホテル・ヴェガ・クラウンで隠し持っていた睡眠薬を使いファーガスを眠らせた。
その後大急ぎでファーガスの所持金と不倫旅行で買った金目の物を持ち逃げした。

そこで、予め予想をしていたルイスがサンドラの前に現れ、ファーガスの追手から逃れさせる為、サンドラに北の小さな町に行くように指示をした。
そして、大金と大荷物を抱えて移動するのは目立って危険だと言う理由で、持ち逃げした荷物を『預かり』北の町への片道分の移動費を渡し、サンドラを北の町に行かせた。

恐らく、サンドラはルイスを自分の危機を救ってくれる救世主かなにかと勘違いをしたのだろう。
自分を気にかけ、逃してくれる。早くも新たな養い主を見つけ有頂天になっていたのであろう。

着いた北の町で事実を知らされ、不倫の慰謝料を払う為に、労働者にされるとは知らずに。

一ヵ月前の報告書では、サンドラが慣れない労働にヘロヘロになりながら仕事をしていたと報告を受けた。

この分だと、あと一年以内には自由の身になれるでしょう。

「まぁ、彼女の場合は、慰謝料さえ払ってもらえれば、それで十分なんですけどね」

そう呟きながら、姿見の鏡の前でくるりと周りにドレス姿の全体を確認をする。

「うん。とっても素敵。みんな、ありがとうね」

ロザリアは満面の笑みで身支度手伝ってくれたアンナをはじめとするメイド達にお礼を言った。

すると、

コンコンコン

「失礼します」

またノックの音と今度はヨハネスの声が聞こえた。

「お嬢様、そろそろお時間でございます」
「あら、もう?分かったわ」

ロザリアは最後の仕上げにジュエリーボックスから小さな白い花が添えられた赤い宝石のネックレスを取り出し、身につける。

「うん。完璧」
「大変お似合いです。お嬢様」
「素敵です」
「うふふ、ありがとう。アンナ、キノ」

控えていたメイドが衣装部屋のドアを開けてくれる。

「さて、お仕事、お仕事」

ロザリアは楽しそうに微笑みながら、歩き出した。
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