旦那様、本当によろしいのですか?【完結】

翔千

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ライド商会の新商品お披露目パーティー

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夕焼けの茜色の空が薄紫色に染まっていく。

その頃、アークライド公爵家では豪華絢爛なパーティーが開かれていた。
立食式のパーティースタイルで、招かれた来賓客達は素晴らしい音楽をお供にダンスを楽しみ、用意された美食と美酒に舌鼓を打ち、談話に花を咲かせていた。

特に、テーブルの上に並べられた小皿に綺麗に盛り付けられた料理に皆表情を蕩かせながら味わっていた。

「いやー!!流石、ライド商会!!今回も楽しませて下さいますなぁ!!」
「ええ、貿易、服飾、特にドレスブランドで名を馳せていたライド商会がまさか食品ブランドを立ち上げ、新しいブランド肉を作り上げてしまうとは」
「特に、この豚肉料理は正に絶品だ。こんなに分厚く、脂身も多いのに、刺したフォークが貫通してしまう、驚くほど柔らかい。それなのに、口に入れた途端脂身がサラサラと溶け出す。驚くほど胃もたれしない!!今までに味わったことの無い美味です」
「こちらの薄切りにしたモノも絶品ですよ。最初は些か物足りなさを感じましたが、この熱々のスープに潜らせ色が変わったところでこのビネガー風味のタレに浸して食べると、さっぱり食べれます」
「他にも、ベーコンにハムを使ったサンドイッチ。テリーヌにレバーパテ。このスープに浸かった麺料理も変わっているがなかなかいけますな」
「私は歳のせいか豚肉は火を通すと固くなって、脂身が多く、臭いも有りあまり食べれなかったけど、これは、臭いも無く、とても柔らかく脂身が甘い。従来の豚肉と違い、まったく、しつこく無い」
「これほど、上質な豚を短期間で用意するとは、豚に与えている餌が違うのか?それとも育てている豚の種が特別なのだろうか」
「まぁ、美食通と名高い、グルマン伯爵様とサマンド子爵様にそう言って貰えるなんて私も兄も光栄ですわ」

美味な豚肉料理を味わいなが談笑していたグルマン伯爵とサマンド子爵の背後から若い女性の声が混じってきた。

「ッ!?」
「ッ、こ、これは、ロザリア様!!」

驚いた2人が後ろ振り向くと、そこにはオアシスカラーのスレンダーなドレスに身を纏ったアークライド公爵が溺愛する愛娘、ロザリア・アークライド嬢が柔かな笑みを浮かべていた。

グラマン伯爵とサマンド子爵は手に取っていた料理の小皿をテーブルの置き、二回り以上も歳下の公爵令嬢に姿勢を正す。

「本日は素晴らしいパーティーにお招きいただき、感謝します」
「私も、このような素晴らしい御披露目に立ち会えて光栄で御座います」
「うふふ、このパーティーの主催者は次期当主である私の兄ですので、私自身は何も、」
「いやいや、ご謙遜を、主催者は兄君であるアレックス様と伺っていますが、考案者はロザリア様だともっぱらの噂ですぞ?」
「あら、やっぱりバレてしまっています?」

小さく首をくすめ、小さな悪戯がバレた子供のような仕草をする公爵令嬢は、どこか幼く、愛くるしく見える。

とは言え、自分の娘と歳の変わらないアークライド公爵令嬢に邪な感情を持つ事は、社会的にも倫理的にもよろしく無い。
ましてや、眼前の令嬢の逆鱗に触れる様な事をする事は、アークライド公爵家を敵に回す事とになる。
実際に、ついこの間まで令嬢の元旦那は妻の逆鱗に触れ、実家の伯爵家は借金のカタに取られ、一家は離散したと、話の噂だった。
嘘か誠か気にはなるが、爵位を持つ当主たる者、無闇に藪を突いて蛇が出てくる、そんなリスクは簡単には負わない。

もっとも、

「ところで、本日の本命であるこのブランド豚、一体何処から見つけられたのでしょうか?」
「ええ、私にも是非知りたい所ですなぁ」

ビジネスの話となるとまた少し変わってくる。
利益になりそうな話には貪欲に食い付いていくものだ。

「あら、別段、特別な種ではありませんよ」
「またまた」
「これほどの上質な豚、他の国でもお目にかかれ無い。特殊な種との交配生み出した新しいブランドでしょうか?」

静かな口調だが、グイグイと食い付いてくる伯爵と子爵にロザリアはクスクスと笑う。

「いえいえ、この豚は、ワイルドピッグ、野豚と言われる種類ですわ」
「はっ?、野豚?この肉がですか!?」

特殊な養豚を使用していると思っていたが、ロザリアの言葉に、美食家として名を知られているグルマン伯爵が目を見開き我が耳を疑った。

当然の反応だ。

この国でワイルドピッグは山岳地帯や農村地帯に生息する強大な野豚。
悪食で食欲旺盛、一山に50頭のワイルドピッグが生息すれば1カ月も待たずに山の草木、木の実、きのこ、動物が全滅すると言われている。
唯一、ワイルドピッグは生命力はとても強いが繁殖力が低く、一度に一頭か二頭までしか子供を産めない。
それでも、近年、気候が安定しているせいか、ワイルドピッグの大量に発生し、目撃情報が多く、その大半は農村地帯の農作物の被害報告だ。
多くの農村地で罠を張りワイルドピッグを捕獲して駆除しようとしているが、なまじ、体が大きく力も強いワイルドピッグの捕獲は難しく、仮にワイルドピッグを捕獲しても毛皮が硬く、脂身は臭いがキツイ。そして肉は筋肉質で硬く、臭いがキツイ。
一部の部族では食用として食べられているが、あまり好まれない肉とされてきた。

それが、今、自分達が食べていた料理に使われている豚肉とはグルマン伯爵はとても信じられなかった。

「本当にこれが、ワイルドピッグの肉なのですか?あの野豚の肉は以前食べた事はありますが、焼いた肉は硬く、脂身の臭いもキツく、味も大ぶり、皿に盛られた肉を食べ切るので精一杯でしたよ」
「食べ切りはできたのですね」
「私の舌を信頼し、招待され、出された料理に敬意を払い完食するのが私の食としてのポリシーですから」

そう言いながら、ムフンと胸を張るグルマン伯爵。

「しかし、この肉は肉質がとても柔らかく、脂身が甘く、熟成された甘く芳しい匂い、とてもワイルドピッグの肉とは、いや、悪食であるワイルドピッグに特定の餌を与え続ければ、ここまでの上質な肉に仕上がるのでしょうか」

なかなか目敏いところを突いてくるサマンド子爵。

流石、食に関してはこの人達は、信頼出来る。

新しい仕事のコネクションの予感に、ロザリアは笑みを深める。
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