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Side:ヨアル
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愛し子の嘆く声が聞こえる。
眷属である闇精霊ノワールへ意識を向けると、愛し子が激しく侮辱され傷ついている姿の映像が送られてきた。
なるほど、愛し子はルメント王国を出たいとお望みか。
ならば闇精霊の森へ連れてくるがよい。ここならばかつて人間が暮らしていた道具もある。畑なども必要であれば整えてやろう。もとより光の精霊を強く信仰し、それ以外の精霊を光の精霊に劣ると見下すルメント王国は気に食わなんだ。
古の約定に基づき、ルメント王国にも加護を与えていたが、この際引き上げるか。
ルメント王国の人間どもは闇属性の魔法を、人を混乱させたり能力を引き下げたりする方法としか認識していないようだったが、闇属性の本質は沈静と癒し。夜闇に眠りにつけば魔力が全回復するのも、闇の加護の力だということさえ忘れ去って、精霊への感謝もない。
国同士の争いを避けるため、全ての国に平等に加護を与える。それがかつて精霊王同士で定めた盟約であった。だが、これほど図に乗ったルメント王国にまで加護を与え続ける必要があるか?
私は、他の精霊王たちに布告を回した。『ルメント王国から闇の加護を引き上げる』と。すると、光の精霊王以外のあらゆる精霊王から、同様の返事が返ってきた。『ルメント王国の傍若無人には耐えかねる。光に対しては敬意を払っているようだが、それ以外の精霊に対して、あまりに横暴がすぎる。我らも同様に加護を引き上げよう』
「ヨアル様、おはようございます」
闇精霊の森に来た愛し子は、はつらつと明るく日々を過ごしている。心清く美しいその娘を、どうしてルメント王国が冷遇していたのか、全く理解に苦しむ。
愛し子は毎朝畑の世話をして、土精霊からまでも懐かれていた。それに、水の精霊たちも泉でのんびりとする愛し子が気に入ったようだ。
愛し子は、それだけ精霊たちと相性がいい。
愛し子は覚えてはいないようだが、かつて生まれたての闇精霊ノワールの命を救ったのが愛し子なのだ。いや、それゆえに愛し子として加護を受けることになった、というべきか。
闇の精霊王である私の眷属として生まれたノワールは、特別な闇精霊だった。他の闇精霊と異なり、幼いうちはまだ力が弱い代わりに、いずれ代替わりの際には新たなる闇の精霊王となる器を持つ。そのノワールが消滅してしまえば、精霊王の代替わりの危機となりうる事態だった。
精霊王が不在となれば、世界の均衡が崩れる。
そんな折、子猫の姿で好奇心の赴くままに探検をしていたノワールが、泉に溺れた際に救ったのが愛し子であった。
闇精霊の恩人である愛し子が何不自由なく育つことができるように加護を与えたというのに、闇属性を差別する国のせいで不遇を託つことになろうとは。
いつの間に、ルメント王国がこのように変わってしまったのか、精霊王である私は時間の流れの概念が人とは違うゆえ、愛し子には不自由を強いてしまったと後悔するばかりだ。
しかし、精霊への感謝が強く、全ての精霊をきちんと尊重するリュクス王国に遊びに行かせてやったら、愛し子は嬉しそうに買い物をしたりしてはしゃいでいた。
リュクス王国では、私は闇精霊の強い加護を持つ賢者ということになっている。それでも差別を受けたことなど一度もない。もし森を出て市井で暮らしたいと愛し子が申し出たら、リュクス王国に家でも買ってやるか。
眷属である闇精霊ノワールへ意識を向けると、愛し子が激しく侮辱され傷ついている姿の映像が送られてきた。
なるほど、愛し子はルメント王国を出たいとお望みか。
ならば闇精霊の森へ連れてくるがよい。ここならばかつて人間が暮らしていた道具もある。畑なども必要であれば整えてやろう。もとより光の精霊を強く信仰し、それ以外の精霊を光の精霊に劣ると見下すルメント王国は気に食わなんだ。
古の約定に基づき、ルメント王国にも加護を与えていたが、この際引き上げるか。
ルメント王国の人間どもは闇属性の魔法を、人を混乱させたり能力を引き下げたりする方法としか認識していないようだったが、闇属性の本質は沈静と癒し。夜闇に眠りにつけば魔力が全回復するのも、闇の加護の力だということさえ忘れ去って、精霊への感謝もない。
国同士の争いを避けるため、全ての国に平等に加護を与える。それがかつて精霊王同士で定めた盟約であった。だが、これほど図に乗ったルメント王国にまで加護を与え続ける必要があるか?
私は、他の精霊王たちに布告を回した。『ルメント王国から闇の加護を引き上げる』と。すると、光の精霊王以外のあらゆる精霊王から、同様の返事が返ってきた。『ルメント王国の傍若無人には耐えかねる。光に対しては敬意を払っているようだが、それ以外の精霊に対して、あまりに横暴がすぎる。我らも同様に加護を引き上げよう』
「ヨアル様、おはようございます」
闇精霊の森に来た愛し子は、はつらつと明るく日々を過ごしている。心清く美しいその娘を、どうしてルメント王国が冷遇していたのか、全く理解に苦しむ。
愛し子は毎朝畑の世話をして、土精霊からまでも懐かれていた。それに、水の精霊たちも泉でのんびりとする愛し子が気に入ったようだ。
愛し子は、それだけ精霊たちと相性がいい。
愛し子は覚えてはいないようだが、かつて生まれたての闇精霊ノワールの命を救ったのが愛し子なのだ。いや、それゆえに愛し子として加護を受けることになった、というべきか。
闇の精霊王である私の眷属として生まれたノワールは、特別な闇精霊だった。他の闇精霊と異なり、幼いうちはまだ力が弱い代わりに、いずれ代替わりの際には新たなる闇の精霊王となる器を持つ。そのノワールが消滅してしまえば、精霊王の代替わりの危機となりうる事態だった。
精霊王が不在となれば、世界の均衡が崩れる。
そんな折、子猫の姿で好奇心の赴くままに探検をしていたノワールが、泉に溺れた際に救ったのが愛し子であった。
闇精霊の恩人である愛し子が何不自由なく育つことができるように加護を与えたというのに、闇属性を差別する国のせいで不遇を託つことになろうとは。
いつの間に、ルメント王国がこのように変わってしまったのか、精霊王である私は時間の流れの概念が人とは違うゆえ、愛し子には不自由を強いてしまったと後悔するばかりだ。
しかし、精霊への感謝が強く、全ての精霊をきちんと尊重するリュクス王国に遊びに行かせてやったら、愛し子は嬉しそうに買い物をしたりしてはしゃいでいた。
リュクス王国では、私は闇精霊の強い加護を持つ賢者ということになっている。それでも差別を受けたことなど一度もない。もし森を出て市井で暮らしたいと愛し子が申し出たら、リュクス王国に家でも買ってやるか。
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