【本編完結】美女と魔獣〜筋肉大好き令嬢がマッチョ騎士と婚約? ついでに国も救ってみます〜

松浦どれみ

文字の大きさ
61 / 230
第二章 王都にお引越し! クラスメイトは王子様

62、リタの休日2−1

しおりを挟む
 オリビアの侍女、リタはエルと別れた後も王都の店をまわり、今後通いたい店をチェックしたり、主人への土産の品を購入して休日を満喫していた。

 ティータイムの時間も過ぎ夕方に差し掛かろうかというところで、先ほど助けたエルが経営する店に向かって歩き出す。

(さて、オリビア様への土産も買ったし、調べたい店のチェックも終わった。そろそろ行くか……)

 賑やかな王都の中心部にある繁華街は、飲み屋が開店するにはまだ日が高い。『閉店』や『準備中』と書いた看板が店のドアの前に掛けてあり、人通りも少なく街並は少し寂しい印象だ。

 さらに繁華街の奥へ進んでいくと、表の通りはより閑散としていて、ところどころにある横の細い中道は影に覆われ夜でもないのに暗かった。
 一般人は絶対に通ってはいけないだろうと、リタは気を引き締めた。

 繁華街の端のおそらくは治安の悪いエリアに程近い場所にエルの店はあった。

 看板は出ていなかったが店のドアは空いていて、アップルパイの甘くてフルーティーな香りが鼻先をくすぐる。
 リタは店の入り口を覗きこんだ。カウンターの奥にいる人物はリタの方を見ていなかったが、人の気配に気付いたのか話しながらゆっくりと入口に顔を向けた。

「あ、すみません。今日は休み……リタ様! いらっしゃいませ! カウンターへどうぞ!」

「お邪魔します」

 相手が客ではなくリタだと認識したエルがさっと右手でカウンター席をすすめた。リタは軽く礼をしてから店内へ入り、エルの目の前のカウンター席に腰を下ろした。買い物の荷物は隣の席に置かせてもらう。

「昼間はありがとうございました。あ、お飲み物は何にしますか? 紅茶かライムソーダがおすすめです」

「では、温かい紅茶をいただきたいです」

「かしこまりました!」

 にっこりと微笑んで紅茶を準備し始めるエルに、リタは昨夜からのジョージへのストレスが吹き飛んだのを感じた。

 彼は間違いなく、王都で見かけた男性の中で一番美しい。陶器のような白い肌にこの国では珍しい灰色の髪と瞳がミステリアスで魅力的だ。
 ジュエリトスの中ではクリスタル領が一番好きだが、王都に来てよかったと思ったのは彼のおかげではないだろうかとさえ考えてしまう。

「お待たせいたしました。紅茶とアップルパイです」

「ありがとう、いただきます」

 ソーサーと紅茶のカップが、次にアップルパイの乗った陶器の皿がリタの前に置かれる。どちらも端に葉っぱと白い花の絵が描かれている。リタはオリビアが気に入りそうだと目を細めた。

 そして、紅茶を一口飲んだ後、フォークを手に取りアップルパイに突き立てた。サクサクというパイの音が店内に響く。パイを口へ運ぶと、焼きたての温かいパイのバターの香りとリンゴのさわかな香りが口の中に広がった。

「おいしい! しかも甘くなくて……」

「よかった。リタ様はあまり甘すぎるのは好きではない気がして、甘さ控えめにしたんです」

 胸を撫で下ろし、安堵の表情を浮かべるエルを見て、リタは苦笑した。
 彼からの誘いは嬉しかったものの、アップルパイと聞いて若干身構えていたからだ。

「実は……そうなんです。全く受け付けない訳ではないけど、甘すぎるのは苦手で」

「やっぱり! この前来ていただいたとき、ジョージ様がデザートを「もっと甘くていい」と言っていたのに対して、ゴミでも見るような目で彼を見ていたのでもしかしてと思っていたんです」

 予想が当たったのが嬉しかったのかリタの言葉に食いつき、嬉々として当時の話をするエル。客観的にこう見られていたのかと、リタは居た堪れなくなり頬を赤らめて俯いた。

>>続く
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢は反省しない!

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢リディス・アマリア・フォンテーヌは18歳の時に婚約者である王太子に婚約破棄を告げられる。その後馬車が事故に遭い、気づいたら神様を名乗る少年に16歳まで時を戻されていた。 性格を変えてまで王太子に気に入られようとは思わない。同じことを繰り返すのも馬鹿らしい。それならいっそ魔界で頂点に君臨し全ての国を支配下に置くというのが、良いかもしれない。リディスは決意する。魔界の皇子を私の美貌で虜にしてやろうと。

田舎暮らしの貧乏令嬢、幽閉王子のお世話係になりました〜七年後の殿下が甘すぎるのですが!〜

侑子
恋愛
「リーシャ。僕がどれだけ君に会いたかったかわかる? 一人前と認められるまで魔塔から出られないのは知っていたけど、まさか七年もかかるなんて思っていなくて、リーシャに会いたくて死ぬかと思ったよ」  十五歳の時、父が作った借金のために、いつ魔力暴走を起こすかわからない危険な第二王子のお世話係をしていたリーシャ。  弟と同じ四つ年下の彼は、とても賢くて優しく、可愛らしい王子様だった。  お世話をする内に仲良くなれたと思っていたのに、彼はある日突然、世界最高の魔法使いたちが集うという魔塔へと旅立ってしまう。  七年後、二十二歳になったリーシャの前に現れたのは、成長し、十八歳になって成人した彼だった!  以前とは全く違う姿に戸惑うリーシャ。  その上、七年も音沙汰がなかったのに、彼は昔のことを忘れていないどころか、とんでもなく甘々な態度で接してくる。  一方、自分の息子ではない第二王子を疎んで幽閉状態に追い込んでいた王妃は、戻ってきた彼のことが気に入らないようで……。

転生したら、実家が養鶏場から養コカトリス場にかわり、知らない牧場経営型乙女ゲームがはじまりました

空飛ぶひよこ
恋愛
実家の養鶏場を手伝いながら育ち、後継ぎになることを夢見ていていた梨花。 結局、できちゃった婚を果たした元ヤンの兄(改心済)が後を継ぐことになり、進路に迷っていた矢先、運悪く事故死してしまう。 転生した先は、ゲームのようなファンタジーな世界。 しかし、実家は養鶏場ならぬ、養コカトリス場だった……! 「やった! 今度こそ跡継ぎ……え? 姉さんが婿を取って、跡を継ぐ?」 農家の後継不足が心配される昨今。何故私の周りばかり、後継に恵まれているのか……。 「勤労意欲溢れる素敵なお嬢さん。そんな貴女に御朗報です。新規国営牧場のオーナーになってみませんか? ーー条件は、ただ一つ。牧場でドラゴンの卵も一緒に育てることです」 ーーそして謎の牧場経営型乙女ゲームが始まった。(解せない)

そのご寵愛、理由が分かりません

秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。 幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに—— 「君との婚約はなかったことに」 卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り! え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー! 領地に帰ってスローライフしよう! そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて—— 「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」 ……は??? お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!? 刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり—— 気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。 でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……? 夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー! 理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。 ※毎朝6時、夕方18時更新! ※他のサイトにも掲載しています。

「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」

透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。 そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。 最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。 仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕! ---

【完結】後宮の片隅にいた王女を拾いましたが、才女すぎて妃にしたくなりました

藤原遊
恋愛
【溺愛・成長・政略・糖度高め】 ※ヒーロー目線で進んでいきます。 王位継承権を放棄し、外交を司る第六王子ユーリ・サファイア・アレスト。 ある日、後宮の片隅でひっそりと暮らす少女――カティア・アゲート・アレストに出会う。 不遇の生まれながらも聡明で健気な少女を、ユーリは自らの正妃候補として引き取る決断を下す。 才能を開花させ成長していくカティア。 そして、次第に彼女を「妹」としてではなく「たった一人の妃」として深く愛していくユーリ。 立場も政略も超えた二人の絆が、やがて王宮の静かな波紋を生んでいく──。 「私はもう一人ではありませんわ、ユーリ」 「これからも、私の隣には君がいる」 甘く静かな後宮成長溺愛物語、ここに開幕。

見た目は子供、頭脳は大人。 公爵令嬢セリカ

しおしお
恋愛
四歳で婚約破棄された“天才幼女”―― 今や、彼女を妻にしたいと王子が三人。 そして隣国の国王まで参戦!? 史上最大の婿取り争奪戦が始まる。 リュミエール王国の公爵令嬢セリカ・ディオールは、幼い頃に王家から婚約破棄された。 理由はただひとつ。 > 「幼すぎて才能がない」 ――だが、それは歴史に残る大失策となる。 成長したセリカは、領地を空前の繁栄へ導いた“天才”として王国中から称賛される存在に。 灌漑改革、交易路の再建、魔物被害の根絶…… 彼女の功績は、王族すら遠く及ばないほど。 その名声を聞きつけ、王家はざわついた。 「セリカに婿を取らせる」 父であるディオール公爵がそう発表した瞬間―― なんと、三人の王子が同時に立候補。 ・冷静沈着な第一王子アコード ・誠実温和な第二王子セドリック ・策略家で負けず嫌いの第三王子シビック 王宮は“セリカ争奪戦”の様相を呈し、 王子たちは互いの足を引っ張り合う始末。 しかし、混乱は国内だけでは終わらなかった。 セリカの名声は国境を越え、 ついには隣国の―― 国王まで本人と結婚したいと求婚してくる。 「天才で可愛くて領地ごと嫁げる?  そんな逸材、逃す手はない!」 国家の威信を賭けた婿争奪戦は、ついに“国VS国”の大騒動へ。 当の本人であるセリカはというと―― 「わたし、お嫁に行くより……お昼寝のほうが好きなんですの」 王家が焦り、隣国がざわめき、世界が動く。 しかしセリカだけはマイペースにスイーツを作り、お昼寝し、領地を救い続ける。 これは―― 婚約破棄された天才令嬢が、 王国どころか国家間の争奪戦を巻き起こしながら 自由奔放に世界を変えてしまう物語。

キズモノ転生令嬢は趣味を活かして幸せともふもふを手に入れる

藤 ゆみ子
恋愛
セレーナ・カーソンは前世、心臓が弱く手術と入退院を繰り返していた。 将来は好きな人と結婚して幸せな家庭を築きたい。そんな夢を持っていたが、胸元に大きな手術痕のある自分には無理だと諦めていた。 入院中、暇潰しのために始めた刺繍が唯一の楽しみだったが、その後十八歳で亡くなってしまう。 セレーナが八歳で前世の記憶を思い出したのは、前世と同じように胸元に大きな傷ができたときだった。 家族から虐げられ、キズモノになり、全てを諦めかけていたが、十八歳を過ぎた時家を出ることを決意する。 得意な裁縫を活かし、仕事をみつけるが、そこは秘密を抱えたもふもふたちの住みかだった。

処理中です...