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40話
しおりを挟む「カズユキもコウも、来てくれたんだな!」
「セイゴウ、すまなかった迷惑を…」
「これ、なに? まじゅう?」
「うごく?」
「ここびしゃびしゃ…」
見知った大人の姿に不安から解放されて明るい表情になったミナトとケンリュウであったが。
倒れている魔獣たちに気がついて足を止める。
よく見ると足元には気持ちの悪いマーブル色の液体が広がっている。
子どもたちは顔を引き攣らせ、ミナトとケンリュウそれぞれの腕に改めて強く縋り付いた。
「魔獣はもう動かない。大丈夫だ。」
コウがトクオミを床に押さえつけているのを確認すると、カズユキはミナトたちの方へと足を進める。
その横を、セイゴウが素早く追い抜いていった。
白いズボンが汚れることも厭わず真っ直ぐにケンリュウの元へ駆けて行く。
「申し訳ございませんケンリュウ殿下。私が不甲斐ないばかりにこのようなことに…!」
血溜まりの中に片膝をついて頭を下げる姿に、ケンリュウが目を見開く。
一緒にいたミナトを含む子どもたちも目を瞬かせて銀の髪を見下ろした。
「せ、セイゴウ…すまなかった。顔を上げてくれ。今回は私が…」
セイゴウの張り詰めた態度を目の当たりにして、罪悪感でいっぱいになったのはケンリュウの方だった。自分が悪かったのだと伝えようと口を動かすが、珍しくセイゴウがそれを遮る。
「この度の責任はとらせていただきます。私の最後の仕事は貴方を無事王都へ……」
「セイゴウ!」
普段は物静かなケンリュウの悲痛な声が響く。
このままでは責任感の強いこの男は近衛騎士を、いや、騎士そのものを辞めてしまうだろう。
事態の重大さを、ようやくケンリュウは把握した。
2人のやりとりを見て、ミナトは思わず口を挟む。
「セイゴウさん待ってくれ! 話を聞いたけどどう考えても今回は」
「まぁ待て待て。そういう堅苦しい話はこの気色悪い場所から出てからにしようぜ。早く家に帰りたいチビたちを親のところに返さねぇとな。」
ケンリュウの気持ちを知るミナトの必死な声を、笑いながらゆっくり近づいてきたカズユキが遮る。
4人の子どもたちは遺骸とはいえ、大きな魔獣に怯えた表情で固まってしまっている。文字通り「早く家に帰りたい」という表情だ。
セイゴウはそんな子どもたちと目線を合わせると、重々しく頷いた。
拳を握りしめて俯いてしまったケンリュウの肩を隣にいるミナトが軽く叩く。泣きそうに揺れる紫の瞳に「後で一緒に謝ろう」と小さな声で笑いかけた。
ミナトは謝る必要はないのだが、叱られ慣れていないケンリュウは少し安心したような表情になる。
腰に手を当てて小さく笑ったカズユキは、振り返って相棒に声を掛ける。
「コウ、悪ぃけどそのサイコパス引っ張って…なんだ?」
その場にいる全員が違和感を覚えた。
何か、ガタガタと妙な音がする。
子どもたちはキョロキョロと周囲を見渡し、大人は即座にトクオミを見た。
「……おい。」
うつ伏せで魔獣の血まみれになっているトクオミを見下ろし、押さえつけているコウが低く短い声で説明を求めた。
トクオミは身動きできないまま肩を震わせる。
「ここを潰す方法が1つだと、言った覚えはないんだがね。」
体の下敷きになっている手が、腰のベルトに触れている。
ベルトに飾られていた魔石の中に、この建物を崩すためのものがあったらしい。
「せっかくだから、この子たちと一緒にここで埋まることにしよう。」
もう逃げられないと悟ったのだろう。
醜く暴れることもせず、ただ愛した魔獣と共に沈むことを決めたトクオミは、ひとりで満ち足りた顔をしている。
「だからそれならひとりで魔獣と埋まっとけー!!」
カズユキは怒鳴り声を上げて、近くにいた子どもを1人抱き上げる。
「すぐに脱出するぞ!」
同じくセイゴウも、ケンリュウの手を握っていた子どもを1人抱え上げた。
「え? え? 何? どうし……うわぁ!」
「せ、セイゴウ!?」
カズユキはミナトを、セイゴウはケンリュウをも軽々と抱き上げてしまう。
事態を把握しきれないミナトとケンリュウは混乱の声を上げる。
しかし、説明している時間も惜しかった。
「コウ! そのバカとチビ2人頼む!」
カズユキが呼びかけると、これ以上何かされたら面倒だとばかりにトクオミを気絶させたコウが、乱雑に重そうな体を肩に担ぎ上げて走ってくる。
「バカは置いてったらダメか。」
「ダメだ。他の監禁場所もあるはずだ。人身売買のルートもな。洗いざらい吐かせる。」
本心から言っているであろうコウに、セイゴウは釘を刺す。コウは溜息を吐きながら、小さい体の2人は優しく抱き上げた。
「よしさっさと行くぞ!!」
地震でも起きているかのように揺れる中、降りてきた階段へ向かって3人は駆け出した。
パラパラと天井からカケラが落ちてくる。
「これ大丈夫なのか!?」
「絶対脱出してやるから安心してろ!」
縮こまるミナトの声に、笑顔でキッパリとカズユキは言い切る。
本心では、ギリギリのところだったがそれは知られるわけにはいかない。
チラリとコウの方を見ると、コウもカズユキを見ていた。
互いに頷き合って再び前を向く。
階段を駆け上がり、なんとか扉を出たところで建物全体が崩れ落ちていった。
その音は、人が寝静まる前の夜の街に響き渡った。
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