【完結】元騎士は相棒の元剣闘士となんでも屋さん営業中

虎ノ威きよひ

文字の大きさ
41 / 46

40話

しおりを挟む
 
「カズユキもコウも、来てくれたんだな!」
「セイゴウ、すまなかった迷惑を…」
「これ、なに? まじゅう?」
「うごく?」
「ここびしゃびしゃ…」

 見知った大人の姿に不安から解放されて明るい表情になったミナトとケンリュウであったが。
 倒れている魔獣たちに気がついて足を止める。
 よく見ると足元には気持ちの悪いマーブル色の液体が広がっている。
 子どもたちは顔を引き攣らせ、ミナトとケンリュウそれぞれの腕に改めて強く縋り付いた。

「魔獣はもう動かない。大丈夫だ。」

 コウがトクオミを床に押さえつけているのを確認すると、カズユキはミナトたちの方へと足を進める。
 その横を、セイゴウが素早く追い抜いていった。
 白いズボンが汚れることも厭わず真っ直ぐにケンリュウの元へ駆けて行く。

「申し訳ございませんケンリュウ殿下。私が不甲斐ないばかりにこのようなことに…!」

 血溜まりの中に片膝をついて頭を下げる姿に、ケンリュウが目を見開く。
 一緒にいたミナトを含む子どもたちも目を瞬かせて銀の髪を見下ろした。
「せ、セイゴウ…すまなかった。顔を上げてくれ。今回は私が…」
 セイゴウの張り詰めた態度を目の当たりにして、罪悪感でいっぱいになったのはケンリュウの方だった。自分が悪かったのだと伝えようと口を動かすが、珍しくセイゴウがそれを遮る。
「この度の責任はとらせていただきます。私の最後の仕事は貴方を無事王都へ……」
「セイゴウ!」

 普段は物静かなケンリュウの悲痛な声が響く。
 このままでは責任感の強いこの男は近衛騎士を、いや、騎士そのものを辞めてしまうだろう。
 事態の重大さを、ようやくケンリュウは把握した。
 2人のやりとりを見て、ミナトは思わず口を挟む。
「セイゴウさん待ってくれ! 話を聞いたけどどう考えても今回は」
「まぁ待て待て。そういう堅苦しい話はこの気色悪い場所から出てからにしようぜ。早く家に帰りたいチビたちを親のところに返さねぇとな。」
 ケンリュウの気持ちを知るミナトの必死な声を、笑いながらゆっくり近づいてきたカズユキが遮る。

 4人の子どもたちは遺骸とはいえ、大きな魔獣に怯えた表情で固まってしまっている。文字通り「早く家に帰りたい」という表情だ。
 セイゴウはそんな子どもたちと目線を合わせると、重々しく頷いた。
 拳を握りしめて俯いてしまったケンリュウの肩を隣にいるミナトが軽く叩く。泣きそうに揺れる紫の瞳に「後で一緒に謝ろう」と小さな声で笑いかけた。
 ミナトは謝る必要はないのだが、叱られ慣れていないケンリュウは少し安心したような表情になる。

 腰に手を当てて小さく笑ったカズユキは、振り返って相棒に声を掛ける。
「コウ、悪ぃけどそのサイコパス引っ張って…なんだ?」
 その場にいる全員が違和感を覚えた。

 何か、ガタガタと妙な音がする。

 子どもたちはキョロキョロと周囲を見渡し、大人は即座にトクオミを見た。
「……おい。」
 うつ伏せで魔獣の血まみれになっているトクオミを見下ろし、押さえつけているコウが低く短い声で説明を求めた。
 トクオミは身動きできないまま肩を震わせる。
「ここを潰す方法が1つだと、言った覚えはないんだがね。」
 体の下敷きになっている手が、腰のベルトに触れている。
 ベルトに飾られていた魔石の中に、この建物を崩すためのものがあったらしい。

「せっかくだから、この子たちと一緒にここで埋まることにしよう。」

 もう逃げられないと悟ったのだろう。
 醜く暴れることもせず、ただ愛した魔獣と共に沈むことを決めたトクオミは、ひとりで満ち足りた顔をしている。

「だからそれならひとりで魔獣と埋まっとけー!!」

 カズユキは怒鳴り声を上げて、近くにいた子どもを1人抱き上げる。
「すぐに脱出するぞ!」
 同じくセイゴウも、ケンリュウの手を握っていた子どもを1人抱え上げた。
「え? え? 何? どうし……うわぁ!」
「せ、セイゴウ!?」
 カズユキはミナトを、セイゴウはケンリュウをも軽々と抱き上げてしまう。
 事態を把握しきれないミナトとケンリュウは混乱の声を上げる。

 しかし、説明している時間も惜しかった。

「コウ! そのバカとチビ2人頼む!」
 カズユキが呼びかけると、これ以上何かされたら面倒だとばかりにトクオミを気絶させたコウが、乱雑に重そうな体を肩に担ぎ上げて走ってくる。
「バカは置いてったらダメか。」
「ダメだ。他の監禁場所もあるはずだ。人身売買のルートもな。洗いざらい吐かせる。」
 本心から言っているであろうコウに、セイゴウは釘を刺す。コウは溜息を吐きながら、小さい体の2人は優しく抱き上げた。
「よしさっさと行くぞ!!」
 地震でも起きているかのように揺れる中、降りてきた階段へ向かって3人は駆け出した。

 パラパラと天井からカケラが落ちてくる。

「これ大丈夫なのか!?」
「絶対脱出してやるから安心してろ!」

 縮こまるミナトの声に、笑顔でキッパリとカズユキは言い切る。
 本心では、ギリギリのところだったがそれは知られるわけにはいかない。
 チラリとコウの方を見ると、コウもカズユキを見ていた。
 互いに頷き合って再び前を向く。
 
 
 階段を駆け上がり、なんとか扉を出たところで建物全体が崩れ落ちていった。
 
 その音は、人が寝静まる前の夜の街に響き渡った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /チャッピー AI比較企画作品

a life of mine ~この道を歩む~

野々乃ぞみ
BL
 ≪腹黒い他国の第二王子×負けず嫌いの転生者≫  第二王子:ブライトル・モルダー・ヴァルマ  主人公の転生者:エドマンド・フィッツパトリック 【第一部】この道を歩む~転生先で真剣に生きていたら、第二王子に真剣に愛された~  エドマンドは13歳の誕生日に日本人だったことを静かに思い出した。  転生先は【エドマンド・フィッツパトリック】で、二年後に死亡フラグが立っていた。  エドマンドに不満を持った隣国の第二王子である【ブライトル・ モルダー・ヴァルマ】と険悪な関係になるものの、いつの間にか友人や悪友のような関係に落ち着く二人。  死亡フラグを折ることで国が負けるのが怖いエドマンドと、必死に生かそうとするブライトル。 「僕は、生きなきゃ、いけないのか……?」 「当たり前だ。俺を残して逝く気だったのか? 恨むぞ」 【第二部】この道を歩む~異文化と感情と、逃げられない運命のようなものと~  必死に手繰り寄せた運命の糸によって、愛や友愛を知り、友人たちなどとの共闘により、見事死亡フラグを折ったエドマンドは、原作とは違いブライトルの母国であるトーカシア国へ行く。  異文化に触れ、余り歓迎されない中、ブライトルの婚約者として過ごす毎日。そして、また新たな敵の陰が現れる。  二部は戦争描写なし。戦闘描写少な目(当社比)です。 全体的にかなりシリアスです。二部以降は、死亡表現やキャラの退場が予想されます。グロではないですが、お気を付け下さい。 闘ったり、負傷したり、国同士の戦争描写があったりします。 本編ド健全です。すみません。 ※ 恋愛までが長いです。バトル小説にBLを添えて。 ※ 閑話休題以外は主人公視点です。 ※ ムーンライトノベルズにも投稿しております。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

【完結済】俺は推しじゃない!ただの冒険者だ!

キノア9g
BL
ごく普通の中堅冒険者・イーサン。 今日もほどほどのクエストを探しにギルドを訪れたところ、見慣れない美形の冒険者・アシュレイと出くわす。 最初は「珍しい奴がいるな」程度だった。 だが次の瞬間── 「あなたは僕の推しです!」 そう叫びながら抱きついてきたかと思えば、つきまとう、語りかける、迫ってくる。 挙句、自宅の前で待ち伏せまで!?  「金なんかねぇぞ!」 「大丈夫です! 僕が、稼ぎますから!」 平穏な日常をこよなく愛するイーサンと、 “推しの幸せ”のためなら迷惑も距離感も超えていく超ポジティブ転生者・アシュレイ。 愛とは、追うものか、追われるものか。 差し出される支援、注がれる好意、止まらぬ猛アプローチ。 ふたりの距離が縮まる日はくるのか!? 強くて貢ぎ癖のあるイケメン転生者 × 弱めで普通な中堅冒険者。 異世界で始まる、ドタバタ&ちょっぴり胸キュンなBLコメディ、ここに開幕! 全8話

聖女の兄で、すみません!

たっぷりチョコ
BL
聖女として呼ばれた妹の代わりに異世界に召喚されてしまった、古河大矢(こがだいや)。 三ヶ月経たないと元の場所に還れないと言われ、素直に待つことに。 そんな暇してる大矢に興味を持った次期国王となる第一王子が話しかけてきて・・・。 BL。ラブコメ異世界ファンタジー。

流行りの悪役転生したけど、推しを甘やかして育てすぎた。

時々雨
BL
前世好きだったBL小説に流行りの悪役令息に転生した腐男子。今世、ルアネが周りの人間から好意を向けられて、僕は生で殿下とヒロインちゃん(男)のイチャイチャを見たいだけなのにどうしてこうなった!? ※表紙のイラストはたかだ。様 ※エブリスタ、pixivにも掲載してます ◆4月19日18時から、この話のスピンオフ、兄達の話「偏屈な幼馴染み第二王子の愛が重すぎる!」を1話ずつ公開予定です。そちらも気になったら覗いてみてください。 ◆2部は色々落ち着いたら…書くと思います

血のつながらない弟に誘惑されてしまいました。【完結】

まつも☆きらら
BL
突然できたかわいい弟。素直でおとなしくてすぐに仲良くなったけれど、むじゃきなその弟には実は人には言えない秘密があった。ある夜、俺のベッドに潜り込んできた弟は信じられない告白をする。

すべてを奪われた英雄は、

さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。 隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。 それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。 すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。

処理中です...