選択的ぼっちの俺たちは丁度いい距離を模索中!

虎ノ威きよひ

文字の大きさ
26 / 33

26話 一番

しおりを挟む
 女子たちは互いに顔を見合わせている。
 嫌なヤツだと思われただろうけど、そもそも良いヤツだとも思われてない。俺はマイナスからのスタートなんだから、気にしなくていいんだと自分を叱咤する。
 そのためのこの服装なんだと言い聞かせてもやっぱり怖い。ベストを握る手が小刻みに震える。

 一瞬沈黙があったかと思うと、大和が俺の肩を抱き寄せた。なんの合図もなく前触れもなく、俺の体は久々に大和の体に触れる。
 大和を囲んでいた女子たちは、ハッとしたように手を合わせた。

「ごめんねレンレン、大和くん、気が付かなくて!」
「テンション上げすぎた!」
「いや、あの、ごめん」

 勢いの良い謝罪を受けて、俺は尻込みしながら謝ってしまう。女子たちはブンブンと首を振って、本当に申し訳なさそうに大和から離れる。

「うちらだって女同士で楽しみたい時あるもん!」
「言わせちゃってこっちがごめんだよー!」

 とんでもないことをしでかしたと思っていた俺だったが、にこやかに教室から送り出された。誰かが泣くこともないし、俺を責めることもない。

(……なんだ)

 簡単だった。俺が思っているより、考えてることをそのまま口にしても大丈夫なのかもしれない。

 廊下に出てから隣で疲れ切っているであろう大和を見上げれば、見たことないくらい柔らかい目が至近距離にある。
 心臓が口から出そうなほど飛び跳ねて、慌てて俺は温もりから抜け出した。

「あの……うるさくして悪かった」

 廊下の窓に沿ってジリジリと距離をとりながら、聞こえるか聞こえないかの音量で俺は謝る。大和はそんな俺を真顔でじっと見つめた。

「……レンレン」

 突っ込まれる気はしていた。してたけど、改めて低音で呼ばれると恥ずかしい。女子たちとはノリが違う。

「変な呼び方すんなって言えないくらい俺は喋れねぇんだよ」
「親しさレベルが上な気がする。レンレンって呼んで良い?」

 大和は真剣だ。真剣に「親しい呼び方」として「レンレン」って呼ぼうとしている。呼んでる大和も呼ばれてる俺も似合わなすぎて絶対零度のギャグだ。
 俺は力なく首を左右に振った。

「やめてくれ。呼び方なんてどうでもいいだろ」
「蓮」

 大和が俺の手を取った。直接触れて初めて気がついたが、いつもは温かい手が冷たくなっている。緊張してると人の手は冷たくなるって、大和に借りた漫画に書いてたっけ。

「どうでもいいなら、蓮って呼んでいい?」

 呼び方なんてどうでもいい。どうでも良いはずなのに。
 大和は他の人を呼び捨てにしたりしないんだろうなと思うと、景色が白くなって足元がふわふわする。

 これはどういう感情なんだろう。

 喉が詰まったみたいになって言葉が出ないから、ギュッと手を握り返した。

「良いってことかな?」

 大和の指にも力が篭る。俺はひたすら上下に首を振った。

「呼び捨ての方がシタシサレベル上」

 ようやく出てきたのは、震えて掠れて、辛うじて音になったくらい微かな声だった。

「お前が、一番上」

 大切なことなのに、目が合わせられなくて繋いだ片手を見つめる。冷たかったはずの手が、どんどん熱を持ってくる。

「ごめんね」

 静かに耳元に唇を寄せられて、ピアスに大和の息が当たった。

「何が」
「ここのところ、態度悪くて」
「俺がなんかしたんだろ?」

 ようやく教える気になってくれたかと、怖かったけど安心もする。大和しか知らない答えを俺が一人で考えたって分かるわけがないから。

 意を決して視線を上げると、眉を下げた大和が項垂れていた。

「違うんだ。そうじゃなくて僕……あーと、二人で話したいかな」

 大和の瞳がキョロキョロと動くと、俺の視界は一気に広がった。ここは学校の廊下で、今は文化祭中。
 そんなところで手を繋いで俯きあってるなんて、小学生でもなかなかないだろう。

 つまりとても目立っていた。

 現に今、目があった男子生徒が慌てて前を向いて歩き去っていったのが見える。
 俺たちはそろそろと手を離した。大和はそのまま手を下ろし、俺はポケットに手を突っ込む。

「学校じゃ無理だな」
「そうだよね。文化祭終わったらうち来てくれない?」
「いく。卵焼き、前よりマシになった」
「作ってくれるの?」
「持ってきてる」

 無表情でしれっと放課後の約束を交わした俺たちだけど、心の中は絶叫中だ。大暴れだ。大和もそうだと思う。そうであってくれ。
 お互いに顔が赤くなっているのは、間違いなく羞恥心からだ。

 大和の温もりの残りをポケットに閉じ込めたまま、俺は文化祭の案内のために歩き出す。
 その後はお互いが感情を表情に出さないことに慣れているのが功を奏して、問題なく文化祭を回ることができた。

 学校行事が楽しいと感じたのは、初めてだ。

「じゃあ、片付け終わったら家に行くな」
「うん」

 校門まで見送るつもりだったのに、大和はわざわざクラスまでついてきた。崩してしまう前にもう一度作品が見たいと言って。
 大和は紅葉だけをじっと見つめて、それから手を振った。

「あ! レンレンー! この後の打ち上げなんだけどさぁ」

 背中が階段の方向に消えようとした時、大和を見送る俺に明るい声が呼び掛けてくる。
 打ち上げなんてあったのか。そういえばそんなことを言っていた気がする。

 参加の可否を聞かれているのだろうと察することが出来た俺は、お団子頭の女子を見下ろした。しっかりと顔を見ることが出来ないのは許して欲しい。

「……パス」
「なんで!?」
「予定あるから」
「みんなとの打ち上げより大事なの?」

 物理的に距離を縮めてきた女子の声は、感情豊かで可愛らしく、魅力的なんだろう。でも俺には眩しすぎて、直視するにはサングラスが必要だ。

「一番大事」

 無視せずに、言葉にするのに少し慣れてきた。
 よし言えたぞ、と思いながら、もう背中は見えないであろう階段の方を振り返る。
 すると、立ち止まって聞いてたらしい一番大事な奴と目があった。

 微かに目尻が下がったのが見えて、俺は自然と口角が上がる。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *不定期連載です。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新 プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

【完結】恋愛初学者の僕、完璧すぎる幼馴染に「恋」を学ぶ

鳥羽ミワ
BL
志村春希は高校二年生で、同い年の幼馴染・須藤涼太のことが大好き。その仲良しぶりといったら、お互い「リョウちゃん」「ハルくん」と呼び合うほどだ。 勉強が好きな春希には、どうしてもひとつだけ、全く理解できないことがあった。それは、恋心。学年一位の天才でもある涼太にそのもどかしさを愚痴ったら、「恋」を教えようかと提案される。 仮初の恋人になる二人だけど、春希が恋を知ったら、幼馴染の友達同士のままではいられない。慌てる春希に「パラダイムシフトを起こそうよ」と提案する涼太。手を重ねて、耳元で囁く涼太。水族館デートに誘う涼太。あまあまに迫られて、恋愛初学者の春希が陥落しないはずもなく……。 恋を知ったら友達でいられない。でもこの思いは止められない。 葛藤する春希の隣で涼太だけが、この関係は両片思いだと知っていた。 幼馴染の溺愛恋愛ケーススタディ、開幕! 最後はもちろんハッピーエンド! ※アルファポリス、カクヨム、小説家になろうへ投稿しています

平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。

しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。 基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。 一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。 それでも宜しければどうぞ。

ラベンダーに想いを乗せて

光海 流星
BL
付き合っていた彼氏から突然の別れを告げられ ショックなうえにいじめられて精神的に追い詰められる 数年後まさかの再会をし、そしていじめられた真相を知った時

あなたのいちばんすきなひと

名衛 澄
BL
亜食有誠(あじきゆうせい)は幼なじみの与木実晴(よぎみはる)に好意を寄せている。 ある日、有誠が冗談のつもりで実晴に付き合おうかと提案したところ、まさかのOKをもらってしまった。 有誠が混乱している間にお付き合いが始まってしまうが、実晴の態度はいつもと変わらない。 俺のことを好きでもないくせに、なぜ付き合う気になったんだ。 実晴の考えていることがわからず、不安に苛まれる有誠。 そんなとき、実晴の元カノから実晴との復縁に協力してほしいと相談を受ける。 また友人に、幼なじみに戻ったとしても、実晴のとなりにいたい。 自分の気持ちを隠して実晴との"恋人ごっこ"の関係を続ける有誠は―― 隠れ執着攻め×不器用一生懸命受けの、学園青春ストーリー。

兄貴同士でキスしたら、何か問題でも?

perari
BL
挑戦として、イヤホンをつけたまま、相手の口の動きだけで会話を理解し、電話に答える――そんな遊びをしていた時のことだ。 その最中、俺の親友である理光が、なぜか俺の彼女に電話をかけた。 彼は俺のすぐそばに身を寄せ、薄い唇をわずかに結び、ひと言つぶやいた。 ……その瞬間、俺の頭は真っ白になった。 口の動きで読み取った言葉は、間違いなくこうだった。 ――「光希、俺はお前が好きだ。」 次の瞬間、電話の向こう側で彼女の怒りが炸裂したのだ。

【完結済】俺のモノだと言わない彼氏

竹柏凪紗
BL
「俺と付き合ってみねぇ?…まぁ、俺、彼氏いるけど」彼女に罵倒されフラれるのを寮部屋が隣のイケメン&遊び人・水島大和に目撃されてしまう。それだけでもショックなのに壁ドン状態で付き合ってみないかと迫られてしまった東山和馬。「ははは。いいねぇ。お前と付き合ったら、教室中の女子に刺されそう」と軽く受け流した。…つもりだったのに、翌日からグイグイと迫られるうえ束縛まではじまってしまい──?! ■青春BLに限定した「第1回青春×BL小説カップ」最終21位まで残ることができ感謝しかありません。応援してくださった皆様、本当にありがとうございました。

処理中です...