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27話 月
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思ったより長引いた片付けが終わった時には、もう月が空に浮かんでいた。俺は大和に連絡して、急いで定食屋に向かう。
思ったより体力を消耗していたらしく、体が怠いし少し眠たい。
『二人で話したい』
大和の声を思い出して、胸が高鳴る。
良い話じゃない可能性も高いのに、何か期待してしまう。自分が何を期待しているのかさっぱり分からないけど、気持ちが浮ついているのが分かった。
店の明かりに照らされる立て看板が見えてきた頃、暖簾の前に人影が見えた。
黒いジャージを着ているその誰かは、俺の方を見て片手を上げる。
「蓮」
「大和、わざわざ外に出てくれたのか」
部屋で待っていてくれて良かったのに。
でも、出迎えてもらえるのが嬉しくて俺の声は分かりやすくトーンが高くなっている。
姿を見られた後は足の疲労なんて気にならなかった。
「場所、移動しても良い?」
俺が目の前に着くなり口を開いた大和に連れてこられたのは、河川敷だった。
春は桜、夏は花火、冬は休憩中の動植物を。
色んな四季を感じさせてくれる河川敷は、今は秋色の葉が木を彩っている。
「なんか風流? だな」
川の流れに沿う道にあるベンチに大和が座った。
ここまでは他愛のない話をしていたけど、木製の古いベンチがいよいよだと知らせるように鳴る。
俺は膝に乗せたトートバッグの中を覗き込んだ。卵焼きしか入ってない弁当箱は、今出すべきか。それとも話が終わってから出すべきか。
大和の雰囲気からすると、本当に怒っているとか俺が何かしてしまったというのは考えにくい。穏便に終われそうなら、後の方が良いだろうか。
大和に聞いてしまえば分かることをまた一人であーでもないこうでもないと考えていると、紅葉を眺めていた大和の手が俺の手に重なる。
ひんやりとした手に、ピクリと俺の手が跳ねる。一瞬で弁当のことなんて頭から飛んで行った。
街灯が照らす整った横顔に目を向けると、上を見ていた大和が俺へと視線を寄越す。
真剣な光が俺を見据え、目が離せなくなった。
瞬きをするのも、惜しい。
何も言わずとも大和の考えていることが分かればいいのに。
どう言葉にすればいいのか分からない俺の気持ちも、全部全部大和に伝わればいいのに。
「月が綺麗ですね」
俺たちはどのくらい見つめ合っていたんだろう。大和が呟いたのは今から話そうとしているのとは関係なく、初対面の人と世間話でも始めるかのような言葉だった。
緊張の滲む声を受けて、俺は空を見上げた。
「ああ……いや……ん? えーと」
ここに歩いてくるまでは、確かにくっきりとした半月が見えていた気がするんだけど。俺が見上げた瞬間、流れてきた分厚めの雲のせいでぼんやりした光だけになってしまった。
曖昧な返事をする俺に、大和の頬にジワリと赤色が広がっていく。
「……知らない?」
「なにが?」
知識が必要そうな質問をされた覚えがなくて、俺は正直に首を傾げた。大和の顔色が赤いんだか青いんだか分からない色に変わって、瞳は挙動不審にも程があるほどウロウロする。
「だから、その……滑った。そうだよねみんなが知ってるわけじゃないよね。ごめんなんか恥ずかしいからちょっと待って」
「ん、んん?」
「ごめん、色々順番を間違えた」
久々に聞いた早口に俺は耳しか追いつけない。どうやら俺は大和との知識の差のせいで何かを逃したらしい。
「な、何? 暗号か何かだっむぐ」
考えても分かるわけがないから聞いてしまおうとしたら、大きな手が口を塞いできた。何も言えなくなるどころか鼻まで塞がって息が苦しい。焦ってペチペチと手を叩くと、大和の手が剥がれて流れるように肩を掴まれた。
「やりなおさせて」
「う、うん?」
ギラギラと凄んだ目と声が鼻先が触れそうなほどの至近距離にある。俺は体を硬直させて頷くしかなかった。
大和はゆっくりと離れて胸に手を当てる。静かに三回深呼吸をして、改めて俺を見た。
「あのね、僕、蓮が他の人のことを話してたり、仲良くしたりするとその……腹が立つようになっちゃって」
話は途中だったけど、俺はそれだけで納得した。前に話してくれた、喧嘩別れしてそのままになってしまった友だちのことを思い出す。
モゾモゾと落ち着かなく動く手が、分かりやすい沈んだ表情が、大和も悩んでいたことを教えてくれる。
「蓮まで失いたくなくて距離をとろうとしたんだ」
苦しそうな声なのに、俺は胸が熱くなる。
俺のことをそのくらい大事に思ってくれてたんだってことだ。まだ言葉を紡ごうとしている大和の唇をじっと見つめた。
「大好きに、なりすぎた」
どうして、そんな泣きそうな声なんだろう。
大好きって、いい言葉だろ?
「ごめん」
「なんで、謝るんだ?」
夜風が撫でる金髪を抑えて、俺は大和に問いかけた。俺のこと、大好きだったらいけないのか。
(俺はお前のこと)
もう少しで答えが出てきそうなのに、大和が俯いてしまったから意識が逸れてしまった。
「だって……俺、いつも近すぎるよね。その上に他の人と仲良くしたらヤキモチ妬くなんて。蓮、嫌じゃないの」
「俺、お前とくっついてるの、嫌じゃない」
嫌じゃない、だと少し曖昧だったかと思い直す。俺は白くなるほど力が入っている大和の手に、自分の手を重ねた。
「好きだよ」
声を震わせず、照れもせず、はっきりと伝えることができた。大和の大きな瞳に、光が灯る。
思ったより体力を消耗していたらしく、体が怠いし少し眠たい。
『二人で話したい』
大和の声を思い出して、胸が高鳴る。
良い話じゃない可能性も高いのに、何か期待してしまう。自分が何を期待しているのかさっぱり分からないけど、気持ちが浮ついているのが分かった。
店の明かりに照らされる立て看板が見えてきた頃、暖簾の前に人影が見えた。
黒いジャージを着ているその誰かは、俺の方を見て片手を上げる。
「蓮」
「大和、わざわざ外に出てくれたのか」
部屋で待っていてくれて良かったのに。
でも、出迎えてもらえるのが嬉しくて俺の声は分かりやすくトーンが高くなっている。
姿を見られた後は足の疲労なんて気にならなかった。
「場所、移動しても良い?」
俺が目の前に着くなり口を開いた大和に連れてこられたのは、河川敷だった。
春は桜、夏は花火、冬は休憩中の動植物を。
色んな四季を感じさせてくれる河川敷は、今は秋色の葉が木を彩っている。
「なんか風流? だな」
川の流れに沿う道にあるベンチに大和が座った。
ここまでは他愛のない話をしていたけど、木製の古いベンチがいよいよだと知らせるように鳴る。
俺は膝に乗せたトートバッグの中を覗き込んだ。卵焼きしか入ってない弁当箱は、今出すべきか。それとも話が終わってから出すべきか。
大和の雰囲気からすると、本当に怒っているとか俺が何かしてしまったというのは考えにくい。穏便に終われそうなら、後の方が良いだろうか。
大和に聞いてしまえば分かることをまた一人であーでもないこうでもないと考えていると、紅葉を眺めていた大和の手が俺の手に重なる。
ひんやりとした手に、ピクリと俺の手が跳ねる。一瞬で弁当のことなんて頭から飛んで行った。
街灯が照らす整った横顔に目を向けると、上を見ていた大和が俺へと視線を寄越す。
真剣な光が俺を見据え、目が離せなくなった。
瞬きをするのも、惜しい。
何も言わずとも大和の考えていることが分かればいいのに。
どう言葉にすればいいのか分からない俺の気持ちも、全部全部大和に伝わればいいのに。
「月が綺麗ですね」
俺たちはどのくらい見つめ合っていたんだろう。大和が呟いたのは今から話そうとしているのとは関係なく、初対面の人と世間話でも始めるかのような言葉だった。
緊張の滲む声を受けて、俺は空を見上げた。
「ああ……いや……ん? えーと」
ここに歩いてくるまでは、確かにくっきりとした半月が見えていた気がするんだけど。俺が見上げた瞬間、流れてきた分厚めの雲のせいでぼんやりした光だけになってしまった。
曖昧な返事をする俺に、大和の頬にジワリと赤色が広がっていく。
「……知らない?」
「なにが?」
知識が必要そうな質問をされた覚えがなくて、俺は正直に首を傾げた。大和の顔色が赤いんだか青いんだか分からない色に変わって、瞳は挙動不審にも程があるほどウロウロする。
「だから、その……滑った。そうだよねみんなが知ってるわけじゃないよね。ごめんなんか恥ずかしいからちょっと待って」
「ん、んん?」
「ごめん、色々順番を間違えた」
久々に聞いた早口に俺は耳しか追いつけない。どうやら俺は大和との知識の差のせいで何かを逃したらしい。
「な、何? 暗号か何かだっむぐ」
考えても分かるわけがないから聞いてしまおうとしたら、大きな手が口を塞いできた。何も言えなくなるどころか鼻まで塞がって息が苦しい。焦ってペチペチと手を叩くと、大和の手が剥がれて流れるように肩を掴まれた。
「やりなおさせて」
「う、うん?」
ギラギラと凄んだ目と声が鼻先が触れそうなほどの至近距離にある。俺は体を硬直させて頷くしかなかった。
大和はゆっくりと離れて胸に手を当てる。静かに三回深呼吸をして、改めて俺を見た。
「あのね、僕、蓮が他の人のことを話してたり、仲良くしたりするとその……腹が立つようになっちゃって」
話は途中だったけど、俺はそれだけで納得した。前に話してくれた、喧嘩別れしてそのままになってしまった友だちのことを思い出す。
モゾモゾと落ち着かなく動く手が、分かりやすい沈んだ表情が、大和も悩んでいたことを教えてくれる。
「蓮まで失いたくなくて距離をとろうとしたんだ」
苦しそうな声なのに、俺は胸が熱くなる。
俺のことをそのくらい大事に思ってくれてたんだってことだ。まだ言葉を紡ごうとしている大和の唇をじっと見つめた。
「大好きに、なりすぎた」
どうして、そんな泣きそうな声なんだろう。
大好きって、いい言葉だろ?
「ごめん」
「なんで、謝るんだ?」
夜風が撫でる金髪を抑えて、俺は大和に問いかけた。俺のこと、大好きだったらいけないのか。
(俺はお前のこと)
もう少しで答えが出てきそうなのに、大和が俯いてしまったから意識が逸れてしまった。
「だって……俺、いつも近すぎるよね。その上に他の人と仲良くしたらヤキモチ妬くなんて。蓮、嫌じゃないの」
「俺、お前とくっついてるの、嫌じゃない」
嫌じゃない、だと少し曖昧だったかと思い直す。俺は白くなるほど力が入っている大和の手に、自分の手を重ねた。
「好きだよ」
声を震わせず、照れもせず、はっきりと伝えることができた。大和の大きな瞳に、光が灯る。
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