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辿り至ったこの世界で
欲しかったもの 〜悔恨〜
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話を聞くに、理屈の上であればマルコの動機はおよそ私の理解の範疇にある筈だ。
なのに、その上で一部分の要素が分からない。
「母上が1番に求めていたのは、いつだってあの男で、僕では母上の一番にはなれなかった。 だから、僕は母上が最も愛している父と一緒になるのを止めませんでした。 だって、僕じゃ母上を本当に幸せには出来ないって分かっていたのですから」
「なら、公爵様を追い出すべきでないのではないかしら? 貴方の母の、大事な人でしょう」
「言ったでしょう、あの男が信用出来なくなったと。 なら、妥協もここまでです」
マルコ曰く、此度の事ーー私をユースクリフ公爵家より除名して追い出した一件が、父を見切るきっかけになったと言う。
しかし、同時にマルコは妥協と言った。
それはつまり、以前より父に不満を持っていたという事。 それもまた、彼の母の苦労を思えば理解は出来る。
元よりマルコは父に対して不信であった。
そして此度、追い出そうと動き出すまでに信を置けなくなった。
「あの男は、平然と実の娘を切り捨てた。 救う手立てはあった筈なのに、容易く。 ……母上だっていつ同じ目に遭うかと思えば、もうあの男を信用なんて出来ません」
それが、マルコの動機。
愛する母の脅威となり得る障害の排除である。
その目的達成の過程に必要なのは、父を公爵の座より引き摺り下ろすに足る確固たる要因と足場。
足場は当然、準備くらいは出来ているだろう。 なにせ、当主の座を継承するのではなく、簒奪するのだから。
そしてもう一つ、要因。
きっと、これが私をユースクリフ家に呼び戻そうとする具体的な理由。 簒奪を正当化するに足り得る要素……なのだろう。
「つまり、此度の私の追放は公爵様の感情的な決定による不当なものであり、その行いによって正当なユースクリフ公爵家の血を引く存在を失うところであった。 これは越権行為であり、ユースクリフ家門下の貴族達に不審を与える行いである。 その指摘のために、私を引き入れたいという事よね?」
いかに当主、いかに公爵とて、臣下がいなければ猿山の大将と同じ。
故に、ユースクリフ公爵家にも相応に従えている貴族が複数いる。
いわゆる派閥と言うもので、生馬の目を抜くような貴族社会においてはこうした連携はよく見られる。 同時に派閥内部での小競り合いや利権のための争いもよくある、まさに蠱毒の壺のような集まりだ。
ユースクリフ公爵家が纏めるそれも同じようなもので、マルコはそれを利用したのだろう。
事実、マルコは隠す事無く「ええ、その通りです」と答えた。
ユースクリフ公爵家の門下において、たとえ妾1人、赤子1人であれども追放などで手放すとなれば、その前に一度集会でその扱いを話し合うという取り決めがある。
これは、過去に門下の家の人間が追放後に他派閥との接触を図って当派閥内部に多大な損失を生んだ一件以降遵守されてきたルールであり、たとえ派閥の長であるユースクリフ公爵家当主であれども破ってはならない掟であった。
しかし、今回の私の追放は突発的な決定で、集会などは行われていないという。
「危ない橋を渡っているわね。 ……大丈夫なの?」
マルコは、その掟を破ってまで私を追放した父を門下の貴族らと共に追求してやろうという腹積りらしい。 そして、その計画は今のところは順調なのだろう。
けれど、首尾よく目的通りに事が運んだとしてその先はどうだろうか。
先に語った通り、派閥の中身は蠱毒の壺も同然である。
邪魔な現公爵を追い出して、若くて青い新公爵を立てる。
……きっと、格好の餌食だろう。
老獪な門下の貴族らに体よく利用されたりしないだろうか。
「餌に食い付いて簡単に利用出来ると踏んでいる奴らの好きなようにはさせません。 だから、そこは心配無用です」
自信満々といった風に、マルコは言う。
しかし、本当に大丈夫なのだろうか。
なにせ、マルコは優の評にあれども実直かつ分かり易い性格なのだ。 そんな調子で、狡猾な貴族相手に腹芸でやりあえるのだろうか。
そう思ったけれど、今の私はユースクリフ家とは関係の無い身の上。
指摘などする立場にも無く、一言だけ「そう」と首肯する事しか出来なかった。
政略的な話は、もう聞けまい。
ならばと、政略とはまるで関係の無い内輪事、というよりもマルコの私事について問う。
「さっき言った、家族としてやり直す、とはどういう意味?」
正直なところ、マルコの話の中でこれに類するものが一番理解しづらい。
政略的な事ならば、まだ分かる。
どれだけ難しい話であれど、行き着く先が利権主義である貴族特有の考え方をトレスして思考すれば、ある程度は理詰めで理解が及ぶ。
だって要は、単純な損得勘定なのだから。
でも、マルコの「家族として初めからやり直してほしい」や「温かな家族」などのワードは難解である。
なにせ、私にはとんと理解の及ばない複雑なお話のようなのだもの。
こればかりは考えても分からない。
だって、私は「家族」とか「家庭」とかの経験が無いのだから。
「そのままの意味です。 僕は、義姉上と姉弟として家族になりたいのです」
「それは、なぜかしら?」
かつては蛇蝎の如く私を嫌っていたマルコが、今となっては180度考えを変えて私に自らの姉として家族となる事を求めている。
それも、政略的に必要な形式上のものでない、情のある一般的な形式を。
そこには、いったいどのような意味がある?
マルコは、私に何を求めているのか……。
やはり、分からないわ。
「……はは。 まあ、いきなりそんな事を言われても、信用出来ませんよね。 僕が義姉上にとってきた態度を考えれば当然の事です」
本当に疑問が生じて考え込んだ末に首を傾げて問い掛ければ、マルコは気落ちしたように肩を落として自嘲を始めた。 別に、責めるつもりではなかったのだけれど。
けれど自嘲も程々に、マルコは気落ちして崩した姿勢を直して私に向き直ると、その胸の内を語り始める。
「以前までは、母上さえいればそれでよかったんです。 僕の味方は母上だけで、母上には僕がいるのだからと」
閉じられた世界で限られた相手と寄り合った。
けれど、その前提が有効であったのは子爵家にて軟禁生活を送っていた間だけの事。
いざ解放されて、子爵家からユースクリフ家に来てしまえば、世界は広がり人との交流も増える。 2人きりから、父に使用人に、更には他家との交流だってある。
そうなれば、もう2人きりとはいかない。
どちらにも世界は広がり、余人との交流も深まるのだから。
「母上はあの男と仲睦まじく、そしてその誘いで夜会や茶会に参加して貴族達との交流を深めていきました。 ……業腹ですが、交友関係が出来た事で母上が前よりもより明るくなったのは、もちろん喜ばしい事です。 ええ、それは本当に」
言葉とは裏腹にマルコはどこか悔しそうで、寂しそうであった。
けれど、それもそうだろう。
自らの母へと家族としての深い愛情を持つマルコだ。
確かに、母が交友を広める事で明るくなるのは喜ばしいだろうが、逆説的に言えば、それはこれまでならばマルコと共にいた筈の時間を交友関係に割いているという事。
幼心を引き摺ってきたマルコは貴族が信用出来ずにいて、猜疑心から誰かと交友を深める事さえ出来なかったのだろう。
そして、その上で母との時間も減っていった。
自らには、この世で唯一信頼出来る相手は母しかいないのに、その母には今やたくさんの交友と愛する者がいる。
かつて2人きりで閉じ込められていた頃とは、大きく変わってしまったのだ。
「義姉上に辛く当たっていたのはその腹いせでもありました。 今の僕は母上を守っているのだと自らに言い聞かせて、そうして母上のためだと嘯いていないと、貴族なんてやってられなかった。 ……でもあの剣術大会の日、殿下から義姉上の事をよく見てやるべきだと言われてから、変わったのです」
「ジーク殿下が、そのような事を?」
「ああ、確かに言ったよ。 あの頃の君はとても真面目で、批評されるような事の無い令嬢だったからな」
「ええ、殿下の仰る通りでした。 僕が思い込んでいたようなかつての悪女の虚像は無くなっていて、今の義姉上は普通の令嬢であると気付けたのです。 ……そして同時に、寂しい人でもあると」
僕と同じように。
マルコは、沈んだ声でそう言った。
その言葉には情感があり、私に向ける視線には憐れみの色を含んだ同情が浮かんでいる。
ああ、なるほど。
それだけの要素と情報さえ揃えば、全てを察してそう納得するのにそれ以上の言葉は必要無かった。
「貴方と同じ、ね」
要するに、傷の舐め合いとか、同調意識とか、同情とか、そういう事。
母がどんどん離れていくのを寂しいと嘆くマルコと、縋ろうとしてもいいように利用されるばかりだった私。
始点は真逆とて結末は同じ。
似たような境遇を経過する前か後かの違いでしかない。
「義姉上も同じだった筈です。 だから、同じ苦しみを知っている義姉上となら、きっと仲の良い義姉弟になれると思って、僕は」
そのように、マルコは切実に語る。
私はマルコのその姿を眼に映し、その思いを知って、今。
「……ごめんなさい」
……それでもやっぱり、分からない。
マルコの心境も、その思いも。
同類と傷を舐め合って、同情しあって、それで何になるのやら。
それとも、私はこの苦しみが既に終わった身だから、そう思うだけなのかしら。
ともあれ、整理しよう。
マルコは、愛し愛される家族が欲しかった。
それはマルコの母と2人きりがかつての理想であったけれど、今となってはもう昔の話でしかない。
だから今、私も自らと同じ苦しみを抱える者であると気付いて、情が湧いて家族になりたいと考えた。
確かに、私も今のマルコと同じように、家族に飢えていた時期があった。
そう、飢えて『いた』のである。
過去形で、過ぎ去った思いなのだ。
そして、今。
マルコに家族として、義姉弟としての関係を求められようと、私はそれに同調は出来ない。
それに、何より。
「私は、貴方の事が信じられない。 貴方にはこれまで、散々悪意を振り撒かれて、怒鳴られて、罵られてきたわ。 私が忘れてしまった期間の事は分からないけれど、今の私にはそれが全てなの。 だから私は、貴方を………狭量な義姉で、ごめんなさい」
私自身に、マルコの提案を受け容れるだけの彼に対する情が、ほんの少しも無いのだから。
なのに、その上で一部分の要素が分からない。
「母上が1番に求めていたのは、いつだってあの男で、僕では母上の一番にはなれなかった。 だから、僕は母上が最も愛している父と一緒になるのを止めませんでした。 だって、僕じゃ母上を本当に幸せには出来ないって分かっていたのですから」
「なら、公爵様を追い出すべきでないのではないかしら? 貴方の母の、大事な人でしょう」
「言ったでしょう、あの男が信用出来なくなったと。 なら、妥協もここまでです」
マルコ曰く、此度の事ーー私をユースクリフ公爵家より除名して追い出した一件が、父を見切るきっかけになったと言う。
しかし、同時にマルコは妥協と言った。
それはつまり、以前より父に不満を持っていたという事。 それもまた、彼の母の苦労を思えば理解は出来る。
元よりマルコは父に対して不信であった。
そして此度、追い出そうと動き出すまでに信を置けなくなった。
「あの男は、平然と実の娘を切り捨てた。 救う手立てはあった筈なのに、容易く。 ……母上だっていつ同じ目に遭うかと思えば、もうあの男を信用なんて出来ません」
それが、マルコの動機。
愛する母の脅威となり得る障害の排除である。
その目的達成の過程に必要なのは、父を公爵の座より引き摺り下ろすに足る確固たる要因と足場。
足場は当然、準備くらいは出来ているだろう。 なにせ、当主の座を継承するのではなく、簒奪するのだから。
そしてもう一つ、要因。
きっと、これが私をユースクリフ家に呼び戻そうとする具体的な理由。 簒奪を正当化するに足り得る要素……なのだろう。
「つまり、此度の私の追放は公爵様の感情的な決定による不当なものであり、その行いによって正当なユースクリフ公爵家の血を引く存在を失うところであった。 これは越権行為であり、ユースクリフ家門下の貴族達に不審を与える行いである。 その指摘のために、私を引き入れたいという事よね?」
いかに当主、いかに公爵とて、臣下がいなければ猿山の大将と同じ。
故に、ユースクリフ公爵家にも相応に従えている貴族が複数いる。
いわゆる派閥と言うもので、生馬の目を抜くような貴族社会においてはこうした連携はよく見られる。 同時に派閥内部での小競り合いや利権のための争いもよくある、まさに蠱毒の壺のような集まりだ。
ユースクリフ公爵家が纏めるそれも同じようなもので、マルコはそれを利用したのだろう。
事実、マルコは隠す事無く「ええ、その通りです」と答えた。
ユースクリフ公爵家の門下において、たとえ妾1人、赤子1人であれども追放などで手放すとなれば、その前に一度集会でその扱いを話し合うという取り決めがある。
これは、過去に門下の家の人間が追放後に他派閥との接触を図って当派閥内部に多大な損失を生んだ一件以降遵守されてきたルールであり、たとえ派閥の長であるユースクリフ公爵家当主であれども破ってはならない掟であった。
しかし、今回の私の追放は突発的な決定で、集会などは行われていないという。
「危ない橋を渡っているわね。 ……大丈夫なの?」
マルコは、その掟を破ってまで私を追放した父を門下の貴族らと共に追求してやろうという腹積りらしい。 そして、その計画は今のところは順調なのだろう。
けれど、首尾よく目的通りに事が運んだとしてその先はどうだろうか。
先に語った通り、派閥の中身は蠱毒の壺も同然である。
邪魔な現公爵を追い出して、若くて青い新公爵を立てる。
……きっと、格好の餌食だろう。
老獪な門下の貴族らに体よく利用されたりしないだろうか。
「餌に食い付いて簡単に利用出来ると踏んでいる奴らの好きなようにはさせません。 だから、そこは心配無用です」
自信満々といった風に、マルコは言う。
しかし、本当に大丈夫なのだろうか。
なにせ、マルコは優の評にあれども実直かつ分かり易い性格なのだ。 そんな調子で、狡猾な貴族相手に腹芸でやりあえるのだろうか。
そう思ったけれど、今の私はユースクリフ家とは関係の無い身の上。
指摘などする立場にも無く、一言だけ「そう」と首肯する事しか出来なかった。
政略的な話は、もう聞けまい。
ならばと、政略とはまるで関係の無い内輪事、というよりもマルコの私事について問う。
「さっき言った、家族としてやり直す、とはどういう意味?」
正直なところ、マルコの話の中でこれに類するものが一番理解しづらい。
政略的な事ならば、まだ分かる。
どれだけ難しい話であれど、行き着く先が利権主義である貴族特有の考え方をトレスして思考すれば、ある程度は理詰めで理解が及ぶ。
だって要は、単純な損得勘定なのだから。
でも、マルコの「家族として初めからやり直してほしい」や「温かな家族」などのワードは難解である。
なにせ、私にはとんと理解の及ばない複雑なお話のようなのだもの。
こればかりは考えても分からない。
だって、私は「家族」とか「家庭」とかの経験が無いのだから。
「そのままの意味です。 僕は、義姉上と姉弟として家族になりたいのです」
「それは、なぜかしら?」
かつては蛇蝎の如く私を嫌っていたマルコが、今となっては180度考えを変えて私に自らの姉として家族となる事を求めている。
それも、政略的に必要な形式上のものでない、情のある一般的な形式を。
そこには、いったいどのような意味がある?
マルコは、私に何を求めているのか……。
やはり、分からないわ。
「……はは。 まあ、いきなりそんな事を言われても、信用出来ませんよね。 僕が義姉上にとってきた態度を考えれば当然の事です」
本当に疑問が生じて考え込んだ末に首を傾げて問い掛ければ、マルコは気落ちしたように肩を落として自嘲を始めた。 別に、責めるつもりではなかったのだけれど。
けれど自嘲も程々に、マルコは気落ちして崩した姿勢を直して私に向き直ると、その胸の内を語り始める。
「以前までは、母上さえいればそれでよかったんです。 僕の味方は母上だけで、母上には僕がいるのだからと」
閉じられた世界で限られた相手と寄り合った。
けれど、その前提が有効であったのは子爵家にて軟禁生活を送っていた間だけの事。
いざ解放されて、子爵家からユースクリフ家に来てしまえば、世界は広がり人との交流も増える。 2人きりから、父に使用人に、更には他家との交流だってある。
そうなれば、もう2人きりとはいかない。
どちらにも世界は広がり、余人との交流も深まるのだから。
「母上はあの男と仲睦まじく、そしてその誘いで夜会や茶会に参加して貴族達との交流を深めていきました。 ……業腹ですが、交友関係が出来た事で母上が前よりもより明るくなったのは、もちろん喜ばしい事です。 ええ、それは本当に」
言葉とは裏腹にマルコはどこか悔しそうで、寂しそうであった。
けれど、それもそうだろう。
自らの母へと家族としての深い愛情を持つマルコだ。
確かに、母が交友を広める事で明るくなるのは喜ばしいだろうが、逆説的に言えば、それはこれまでならばマルコと共にいた筈の時間を交友関係に割いているという事。
幼心を引き摺ってきたマルコは貴族が信用出来ずにいて、猜疑心から誰かと交友を深める事さえ出来なかったのだろう。
そして、その上で母との時間も減っていった。
自らには、この世で唯一信頼出来る相手は母しかいないのに、その母には今やたくさんの交友と愛する者がいる。
かつて2人きりで閉じ込められていた頃とは、大きく変わってしまったのだ。
「義姉上に辛く当たっていたのはその腹いせでもありました。 今の僕は母上を守っているのだと自らに言い聞かせて、そうして母上のためだと嘯いていないと、貴族なんてやってられなかった。 ……でもあの剣術大会の日、殿下から義姉上の事をよく見てやるべきだと言われてから、変わったのです」
「ジーク殿下が、そのような事を?」
「ああ、確かに言ったよ。 あの頃の君はとても真面目で、批評されるような事の無い令嬢だったからな」
「ええ、殿下の仰る通りでした。 僕が思い込んでいたようなかつての悪女の虚像は無くなっていて、今の義姉上は普通の令嬢であると気付けたのです。 ……そして同時に、寂しい人でもあると」
僕と同じように。
マルコは、沈んだ声でそう言った。
その言葉には情感があり、私に向ける視線には憐れみの色を含んだ同情が浮かんでいる。
ああ、なるほど。
それだけの要素と情報さえ揃えば、全てを察してそう納得するのにそれ以上の言葉は必要無かった。
「貴方と同じ、ね」
要するに、傷の舐め合いとか、同調意識とか、同情とか、そういう事。
母がどんどん離れていくのを寂しいと嘆くマルコと、縋ろうとしてもいいように利用されるばかりだった私。
始点は真逆とて結末は同じ。
似たような境遇を経過する前か後かの違いでしかない。
「義姉上も同じだった筈です。 だから、同じ苦しみを知っている義姉上となら、きっと仲の良い義姉弟になれると思って、僕は」
そのように、マルコは切実に語る。
私はマルコのその姿を眼に映し、その思いを知って、今。
「……ごめんなさい」
……それでもやっぱり、分からない。
マルコの心境も、その思いも。
同類と傷を舐め合って、同情しあって、それで何になるのやら。
それとも、私はこの苦しみが既に終わった身だから、そう思うだけなのかしら。
ともあれ、整理しよう。
マルコは、愛し愛される家族が欲しかった。
それはマルコの母と2人きりがかつての理想であったけれど、今となってはもう昔の話でしかない。
だから今、私も自らと同じ苦しみを抱える者であると気付いて、情が湧いて家族になりたいと考えた。
確かに、私も今のマルコと同じように、家族に飢えていた時期があった。
そう、飢えて『いた』のである。
過去形で、過ぎ去った思いなのだ。
そして、今。
マルコに家族として、義姉弟としての関係を求められようと、私はそれに同調は出来ない。
それに、何より。
「私は、貴方の事が信じられない。 貴方にはこれまで、散々悪意を振り撒かれて、怒鳴られて、罵られてきたわ。 私が忘れてしまった期間の事は分からないけれど、今の私にはそれが全てなの。 だから私は、貴方を………狭量な義姉で、ごめんなさい」
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