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外国へ遊びに行こう
袖触れ合おう
しおりを挟む「はっ……呼びだし?」
「そのようです。なんでも、『急であるためすぐに来るように』と」
「……あの人任せめ。俺の至福の時間を奪いに来やがったな」
どうされますか? と訊いてくるメイドには行くとだけ答え、再び瞬間着装スキルで衣装を整える。
「面倒だし、乗り物は必要ない。……一気に突っ込んでくる」
「行ってらっしゃいませ」
なぜだろう、俺の脳は『行く』を『逝く』と変換しているよ。
ある意味じゃ正解だからなんとも言えないが、この国に寄生をしようとするからには支払う家賃も必要になる。
「カモン! タークシー!」
空に向けて大声で叫ぶ。
一瞬沈黙が場を包み込むが、しばらくすると変化が起きる。
『ギャーーーーッス!』
遠くから、小柄な竜が飛んできた。
ただ、腕と翼が一体となっているため、それは亜竜に属する魔物だ。
亜竜はトショク邸の上空まで移動すると、ゆっくりと羽ばたきながら降りてくる。
『グギャーッス』
「……いつまでただの亜竜のふりをする? ただの亜竜なら、今日の晩御飯のおかずとして、ステーキを──」
『はいはいはい! はい、イム様の忠実なる僕、アシがやって来たッス!』
ちなみに、雌なので声は高めだ。
奴隷を探してたら闘技場に売りだす前のコイツを見つけたので、放し飼いすることにしてみた。
……首輪は外してあるので、いつ逃げ出すのかな? と若干気になっている。
逃げたら逃げたで放置する予定だが、俺の秘密を吐いたら呪殺すると脅してあるのだ。
「はいはい、アッシー君。今日は王城に突っ込んでくれ。マチスじゃなく、獰猛で至る所に突っ込みそうなバカっぽいお前を選んだんだから……分かってるよな?」
『嫌っすヨ! 殺されるじゃないっすカ!』
「チッ、ならいいや。じゃあ逆に、どれだけ優雅に飛べるかやってみろ。……マチス以下だったら尻尾のステーキだからな」
『無理っすヨ! マチスの旦那に勝つなんて愚か者のセリフじゃないっすカ!』
それを言って、ボコボコにされた奴が何をほざいてるんだか。
この会話の間に、メイドたちがテキパキとアシの背中に鞍を用意している。
マチスは地龍で飛べないが、鱗を椅子にしてくれるなどのサービスができたはずだ。
だがコイツは頭がアレなので、その程度のこともできないようだな(龍に進化しないと無理とか言ってたっけ)。
「……問い詰めるのも面倒だし、そろそろ働いてもらうか。アッシーとして足として、キビキビ働けよ」
『了解ッス!』
周りに結界を張ってから、アシに跨って離陸を促す。
猛烈な風が翼のはためきによって生みだされ、結界の中で荒れ狂う。
それはふわりと亜竜を持ち上げる浮力へ変換され、大空へ向かう足がかりとなる。
『行くっすヨ! しっかり掴まっててくださいっス!』
「何言ってんだ、俺を落としたら晩飯は尻尾のステーキだ」
『……ゆ、ゆっくりでいいっすカ?』
「全速力、それ以外はすべてステーキだ」
『理不尽ッス!!』
浮力を魔力で推進力に変換し、アシは物凄い勢いで移動を開始する。
眼下を見下ろすとメイドたちが、白いハンカチを振っている……なんで?
◆ □ ◆ □ ◆
「──それで、急用とはいったい」
「悪いが、いつものボケをやっている暇もない。本音で言わせてもらうぞ」
アシは王城の兵士に任せて、可能な限り急ぎ足で王の間へ向かった。
そこで何やら汗を零す王との会話、その最初がこれである。
「まあ、別にいいか。そっちがそこまで慌ててるってことなら、本当に不味いんだろう。寄生させてもらってるんだし、宿主の問題を解消する手伝いぐらいならするぞ」
「ありがたい。今は、どんな助言だろうと神のお告げぐらい価値がある」
……お前、神はクソ的なセリフを言ってたような気がするんだが。
とりあえずスルーして、事情を訊いてみることに。
「実はな、娘が──」
「家庭の事情にとやかく口を出す気はないから、俺はこれで失礼する」
「逃がすか……捕まえろ!」
面倒な話だったのでバックレようとしたのだが……そうもいかないようだ。
大抵の相手ならすぐに倒して逃げていたのだが──今回の相手には、敵わないと本能が警鐘を鳴らす。
「お久しぶりですね、イム様」
「ええ、もう一生会わないかと」
「『袖触れ合うも多生の縁』、といった言葉があるらしいですね。私たちの出会いも、そうすぐに切れるようなものではないと思われますよ」
かつてこの国に来た際、俺の能力チェックのためにダンジョンへ共に潜ったメイド。
彼女が今、俺の目の前へ立ちはだかった。
「話は最後まで聞け。たしかにお前のせいでフレイアの態度が冷たくなったということもあるにはあるが、今はそれではない」
「アイツはもともと隠していただけだ──」
「ゴホンッ! 実はな、今回はフレイアとは別の娘のことだ」
そこまで聞いて、とりあえず逃げる動きを中断する……どうせ、逃げられないし。
「そういえば忘れてたな。お前の娘ってだけあって、どうせどいつも腹黒い……ぐらいのことは予想していたが」
「そ、そんなことないぞ……たぶん」
「第三王女であるフレイア様は、王の性格をもっとも継いだと言っても過言ではないのですが、たしかにそういった気性は時々感じられますね」
メイド兼密偵のその言葉で納得する。
まあ、アレは唯一スキルで精神の病み度が加速してたからな。
「それで、どっちの王女が問題なんだよ」
どちらにせよ、家庭の問題は理解に苦しむだけなんだが……。
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