見捨てられたのは私

梅雨の人

文字の大きさ
20 / 147

20

しおりを挟む
部屋に戻る途中、少し息苦しくなって参りました。 

(早く横になりたい…)

「タカさん、料理人方にとてもおいしかったのに残してしまってごめんなさいと伝えてもらえるかしら。あとはだいじょうぶだから、おやすみなさい。タカさんもゆっくり休んでね。」 

「奥様、承知いたしました。でも本当に大丈夫ですか?顔色がよろしくありませんよ?せめてお着換えだけでもお手伝いしますから。」 

「大丈夫よ。それにいつも私に付き添ってもらってしまって休憩できないのではないかしら?たまには早く休んでくれると嬉しいの。」 

「奥様私なぞに恐れ多いです。それに奥様のお世話をさせてもらえるなんて鼻が高いんですからね?でもそこまでおっしゃられるのなら…今日はお言葉に甘えて早く休ませて頂きます。奥様、お休みなさいませ。」 

用があればいつでもたたき起こしてくださいと何度も繰り返すタカさんが引き返すのを見送ってようやく部屋で一人になりました。 

ジワリと背中を冷たい汗が流れております。 

喉も急に乾いてしまいました。 

「はぁっ、はぁっ…」 

薄れゆく意識の中で床に倒れこんでしまった私はそのまま意識を失っていきました。 

◇◇◇◇

チュンチュンと鳴く鳥の声で目をかすかに開けると真っ暗な部屋にわずかに外のまぶしい光が零れていていつの間にか朝になったのだと気が付きました。 

あれからずっと床の上に転がったままだったようです。 

「っ痛!」 

固まってしまった体の節々が悲鳴を上げるのと同時に、頭と肩がズクンズクンと痛みます。 

どうにか起き上がって呼び鈴を鳴らすとタカさんではない女性の使用人が顔を見せました。 

 

「まぁ奥様…」 

「朝早くに悪いのだけれど、お医者様を手配してくれないかしら。」 

「はあ、かしこまりました奥様。」 

 

部屋を出て行ったその使用人は廊下で他の使用人とこそこそと話しておりますが扉を中途半端にしめて行きましたので、声が丸聞こえになっております。 

「ひどい恰好なのよ!いくら一人でお休みになるのに慣れたからと言って、着替えもせずに寝ていただなんて。どうせ旦那様の気を引きたいだけなんじゃないの?本邸の琴葉奥様だったらこんなこと絶対になさらないのに。ねぇ!」 

初夜以降、亮真様にほとんど相手にされていない私をこうして表立ってあざ笑う使用人が増えてまいりました。私へ仕えることが億劫だと言わんばかりにすでに扱いがおざなりになってきております。 

亮真様と特に会話もなく夫婦としての時間もない私はこうなることは必然なのでしょう。 

使用人にさえおざなりに扱われる私が朝まで無様に床に倒れてけがをしていたなんて、皆ますます私のことを哀れな女だと陰で笑うのでしょうか…。 

惨めすぎて誰も相談できません。 

膝からも腕からも血が滲みだしております。時間がたつにつれて痛みがひどくなってきます。 

「痛いわ…」 

思わずつぶやいた本音は空しく響きました。 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】愛も信頼も壊れて消えた

miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」 王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。 無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。 だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。 婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。 私は彼の事が好きだった。 優しい人だと思っていた。 だけど───。 彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。 ※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】記憶を失ったらあなたへの恋心も消えました。

ごろごろみかん。
恋愛
婚約者には、何よりも大切にしている義妹がいる、らしい。 ある日、私は階段から転がり落ち、目が覚めた時には全てを忘れていた。 対面した婚約者は、 「お前がどうしても、というからこの婚約を結んだ。そんなことも覚えていないのか」 ……とても偉そう。日記を見るに、以前の私は彼を慕っていたらしいけれど。 「階段から転げ落ちた衝撃であなたへの恋心もなくなったみたいです。ですから婚約は解消していただいて構いません。今まで無理を言って申し訳ありませんでした」 今の私はあなたを愛していません。 気弱令嬢(だった)シャーロットの逆襲が始まる。 ☆タイトルコロコロ変えてすみません、これで決定、のはず。 ☆商業化が決定したため取り下げ予定です(完結まで更新します)

【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。

ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。 彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。 「誰も、お前なんか必要としていない」 最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。 だけどそれも、意味のないことだったのだ。 彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。 なぜ時が戻ったのかは分からない。 それでも、ひとつだけ確かなことがある。 あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。 私は、私の生きたいように生きます。

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。 国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。 悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。

離婚する両親のどちらと暮らすか……娘が選んだのは夫の方だった。

しゃーりん
恋愛
夫の愛人に子供ができた。夫は私と離婚して愛人と再婚したいという。 私たち夫婦には娘が1人。 愛人との再婚に娘は邪魔になるかもしれないと思い、自分と一緒に連れ出すつもりだった。 だけど娘が選んだのは夫の方だった。 失意のまま実家に戻り、再婚した私が数年後に耳にしたのは、娘が冷遇されているのではないかという話。 事実ならば娘を引き取りたいと思い、元夫の家を訪れた。 再び娘が選ぶのは父か母か?というお話です。

戻る場所がなくなったようなので別人として生きます

しゃーりん
恋愛
医療院で目が覚めて、新聞を見ると自分が死んだ記事が載っていた。 子爵令嬢だったリアンヌは公爵令息ジョーダンから猛アプローチを受け、結婚していた。 しかし、結婚生活は幸せではなかった。嫌がらせを受ける日々。子供に会えない日々。 そしてとうとう攫われ、襲われ、森に捨てられたらしい。 見つかったという遺体が自分に似ていて死んだと思われたのか、別人とわかっていて死んだことにされたのか。 でももう夫の元に戻る必要はない。そのことにホッとした。 リアンヌは別人として新しい人生を生きることにするというお話です。

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
私は、夫にも子供にも選ばれなかった。 その事実だけを抱え、離縁を突きつけ、家を出た。 そこで待っていたのは、最悪の出来事―― けれど同時に、人生の扉がひらく瞬間でもあった。 夫は愛人と共に好きに生きればいい。 今さら「本当に愛していたのは君だ」と言われても、裏切ったあなたを許すことはできない。 でも、子供たちの心だけは、必ず取り戻す。 妻にも母にもなれなかった伯爵夫人イネス。 過去を悔いながらも、愛を手に入れることを決めた彼女が辿り着いた先には――

処理中です...