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プロローグ
プロローグ
しおりを挟む夕刻の柔らかな光が、廊下のくすんだ床板に窓の形を細長く浮かび上がらせていた。
「……だが、ユーリはオメガだ。アルファの屋敷にオメガの使用人がいるのは、外聞が悪いんじゃないか? あらぬ噂が立つかもしれない」
義兄の書斎にお茶を運んでいたユリウスは、部屋の中から聞こえてきた会話に思わず身を強張らせた。聞こえてきたのが自分の名前だったからだ。
部屋の中にいるのは、義兄と、義兄の従弟であり、ユリウスと共に屋敷を訪れていたユリウスの主だけ。ならばあらぬ噂というのは、主とユリウスのことに他ならない。
「いつまでも、あいつを従僕にしておくつもりはない」
抑揚のない主の声は普段通りのようでもあり、鼻に皺を寄せた渋面が想像できるようでもあった。
血の気が引き、指先が冷たくなっていく感覚がする。
聞かないほうがいいと頭の片隅で考えながらも、体が凍り付いたようにその場から動けなかった。
「そうだな。お前には既に心に決めた相手がいるのだから、誤解を招くようなことは避けたほうがいい。ユーリを解雇するときは、僕にも相談してくれ。ローザと相談してどこかよい嫁ぎ先を探そう」
……最初からわかっていたことだ。
売れ残りの自分を雇ってくれたのは、主の温情によるもので、従僕として必要とされていたわけではない。優しくしてもらえたのも、ユリウスが従兄の義弟だったからだ。
わかっていたことなのに。そう遠くない将来、従僕としても彼の傍にいられなくなるという予感が、ユリウスの胸をひどく搔き乱した。
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