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選定の儀
選定の儀(2)
しおりを挟む入り口に立つ衛兵に、出身地と名前、選定の儀に参加する旨を伝える。
重厚な青銅の扉は半分ほど開け放たれており、衛兵が鈴を鳴らすと、すぐに奥から人が現れた。
従僕らしきその青年は、膝丈のブリーチズに緑のフロックコートを身につけ、首にはクラヴァットを巻いている。生地の良さもユリウスのものとさほど変わらず、宮廷では使用人でさえ貴族並みの装いをしているのかと秘かに驚いた。違いはユリウスがクラヴァットの代わりに藍染めのなめし皮で作られたチョーカーを巻いていることくらいだ。
ユリウスは身分こそ平民だが、着る物や食べる物で姉弟たちと差別されたことはない。妾だった実母が早くに亡くなったため、父の正妻である継母が姉弟たちと分け隔てなく育ててくれた。
むしろ、実母に似て体の弱かったユリウスは、実の子供たち以上に気にかけてもらっていた。
挨拶とともに深々と頭を下げ、深紅の絨毯の敷かれた広い廊下を青年について奥へと進む。
天井は見上げるほどに高く、ステンドグラスを透かして差し込む光が、壁に飾られた絵や彫刻を淡く照らしている。その荘厳さに目を奪われながら、足早に歩いた。
連れて行かれた控えの間には、同じ年頃の子らが十人ほどいた。
案内人はユリウスにここで待つよう告げて引き返していく。
選定の儀に参加するオメガは毎年だいたい十人前後らしい。平民に限られているとはいえ、国中から集めてその人数なのだから、オメガがどれほど稀少かわかる。
人には男女の性別以外に、α・β・Ωという第二の性がある。
アルファは生まれながらに身体的にも能力的にも優れ、生殖能力においてもそうだと言われている。人口の大半を占めるベータは全てにおいて平均的。オメガは小柄で様々な能力が劣ることが多いが、男でも妊娠できる。三か月に一度、発情期というものがあり、激しい性衝動に駆られ、甘い香りのフェロモンを放つ。それが性別を問わず周囲を惑わせるため、社会的には厄介者扱いされていた。
平民のオメガは、オメガであることがわかった時点で領主や執政官の保護を受けることができる。また、オメガを保護しその貞操を守ることは、国法によってすべての臣民に義務付けられている。そして十八才になったオメガは、王族の妾となるために選定の儀に参加する決まりだった。
平民の中でオメガだけが特別扱いされるのは、他の性に比べてアルファの子供が産まれやすいからだ。王族が優秀な血統を囲い込む目的と、オメガがフェロモンを撒き散らして社会に混乱を来たさないようにという建前で、選定の儀が行われるようになったと父から聞いている。
ユリウスは男女の性は男だが、十四才で初めて発情期を起こしたことで自分がオメガであることを知った。第二の性や選定の儀のことを聞いたときは、一晩中泣き明かすほどの絶望に沈んだが、濁流のような悲しみが引けば、やはりそうだったかと納得している自分もいた。
子供の頃からどんなに一生懸命考えても、姉や弟みたいに家庭教師の言うことをすぐには理解できなかった。鬼ごっこではいつも一番に捕まるし、二才年下の弟と騎士ごっこをしても、ユリウスがまともに打ち込めたことは一度もなかった。
だから、なぜ色んなことを姉や弟のように上手くできないのか、子供の頃からずっと疑問に思っていたことに一つの理由を与えられたことで、救われた気もした。
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