売れ残りオメガの従僕なる日々

灰鷹

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 翌朝。両親への手紙を託して家令と使用人たちを故郷へ返し、ユリウスはラインハルトの屋敷へと向かった。王族は全員、あの大きな宮殿に住んでいるのかと思っていたが、そうではないらしい。
 両親への手紙には、「第三王弟殿下に仕えることになった」とだけしたためた。「従僕」とも「妾」とも明記していない。それで真実を察してくれたら助かるし、ローザのように、今はまだ勘違いしておいてほしい気もする。
 従僕として一人でやっていけることが証明できたら、皆にはっきりと真実を告げるつもりだった。

 ローザに描いてもらった地図に沿って歩くと、迷わずに地図の場所に辿り着いた。
 都に住む貴族は皆、王宮から近い『貴族街』に住んでいる。小さな家が所狭しとひしめき合う平民街と違い、周囲をぐるりと塀に囲まれていて、一件あたりの敷地が広く建物も格段に大きい。
 ラインハルトの屋敷も、門構えだけなら歩きながら目にしてきた他の貴族の家々とさほど変わらなかった。周囲を石造りの塀で囲まれていて、石柱の間に重厚な鉄製の門がある。
 しかし、門扉を押し、錆びついた蝶番がギィーッと嫌な音を立てて重い扉が開くと、その先には予想外の光景が広がっていた。

 これは……廃屋!?

 一瞬、そんな言葉が脳裏をよぎる。
 塀の根元には苔や雑草が生い茂り、生け垣の枝も伸び放題で、手入れが行き届いていないのが明らかだった。
 屋敷の正面まで敷石が続いているが、それ以外、美しく刈り込まれた庭木や花もない。牧場のような、だだっ広い土の地面が広がっているだけ。
 その奥にある二階建ての家屋は、壁の煉瓦が日に焼け、煤けてまだらに黒ずんでいる。壁には蔦が這い、ひび割れもあった。

 王族の家どころか、人の住む気配すらない。
 一瞬、場所を間違えたかと思って地図を見直したが、地図には目的地に『厩舎がある家』と書きこまれている。確かに門の傍には厩舎があり、黒毛の馬が一頭、繋がれていた。
 通って来た道を振り返っても、見える範囲にはそれらしき家はなかった。

 おそらく、ここがラインハルトの屋敷なのだろうが……、ユリウスの実家の敷地内にある使用人の家のほうが、よほど手入れが行き届いているように見える。
 ユリウスは屋敷の玄関に立ち、一度大きく息を吸い込んでから呼び鈴を押した。

 出迎えてくれたのは執事らしき初老の男性と、同じくらいの年の頃のメイドの服装をした女性だった。二人とも髪は銀色から白に近く、ユリウスからしたら祖父母の年齢に近そうに思える。

「カッシーラー辺境伯領の伯爵、ダニエル・イェーガーの庶子、ユリウスです。第三王弟殿下に従僕としてお仕えさせていただくことになっています」

 宮廷を訪ねたときと同様に丁寧に頭を下げると、二人はにっこりと柔和な微笑みを浮かべてみせた。

「まぁ。ユリウス様ね。思っていたとおりの可愛らしい方! こんなに早くに来てくださるなんて。坊っちゃまもお喜びになるわ!」
「ユリウス様。ようこそお越しくださいました。お話はライニ様から伺っております。どうぞお入りになってください」

 使用人としては向こうが大先輩になる。
 普通は目下の使用人に敬称は使わないのではなかろうか。
 新参者に対するとは思えない二人の丁寧すぎる物腰と歓迎ぶりに戸惑いはしたものの、二人とも悪い人ではなさそうなので、そのことに安堵し、ユリウスは屋敷の中へと足を踏み入れた。

 どこか湿り気を纏った、煉瓦と木の古びた匂いが鼻腔を掠める。明かり取りの小窓から入って来る陽光で、エントランスホールは十分に明るかった。
 ラインハルトについて、昨日のうちにエイギルからいくつか話を聞いている。
 エイギルの話によると、彼は王族でありながら学院を卒業したのち騎士団に入団したらしい。今は都を警備する第二騎士団の部隊長をしているそうだ。ユリウスが屋敷を訪ねたときには、朝から出仕していて不在だった。

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