売れ残りオメガの従僕なる日々

灰鷹

文字の大きさ
43 / 83
辺境伯軍

辺境伯軍(3)

しおりを挟む



「君、大丈夫か?」

 声の人物はユリウスの隣で跪いた。肩にそって手を置かれる。
 先ほど酔っぱらった兵士たちに向けられていた威圧感は消え、今はただ、あたたかな心遣いが伝わってくる。

「昨日も立ちくらみがしたと言っていたな」

 言われて、その人が、昨日、食堂で、ラインハルトから身を隠すために咄嗟にしゃがみ込んだとき、心配して声をかけてきた辺境伯軍の兵士だと気がついた。

「体調が悪いのに、なぜこんな時間にこんな場所にいるんだ?」
「騎士団長に呼ばれていまして……」
「騎士団長?」

 呼び出しの理由を訊かれたらどうしようと考えを巡らせていたが、それ以上は訊かれなかった。

「俺はフリードリヒ・グートマン。辺境伯軍で部隊長をしている。フリッツと呼んでくれ」
「僕はユリウス・イェーガーです。カッシーラー辺境伯領の出身です。ユーリと呼んでください」

 先に名乗られ、ユリウスも自己紹介した。
 フリッツは、ふっ、と小さく嘆息し、次の瞬間、深々と頭を下げた。 

「謝って許される問題ではないが、あいつらのことは本当に申し訳なかった。俺の指導が足りなかったせいだ」

 彼らが嘘を吐いていたことも、ユリウスを連れて行こうとした目的も、察していたようだ。

「い、いえ! 僕はグートマン隊長のおかげで無事でしたから! それに隊長が謝られることではないですよ!」
「フリッツでいい」

 頭を上げたフリッツに訂正される。

「フリッツ隊長とお呼びしたらよろしいですか?」
「君は兵士ではないのだから、役職名をつける必要はない。 フリッツと呼び捨てでいいし、それが嫌ならフリッツさんでいい」

 軍営に来たばかりだから、部隊長というのがどのくらい偉いのかは全くわからないが、かなり気さくな人なのだろうとは思う。ただ、どこか強引さも感じて戸惑っていると、フリッツが両膝を地面につき、急に畏まった雰囲気になった。

「さっきのことがもし明るみになれば、あいつらは除隊しなければならなくなる。どこにも居場所がなくて兵士になったような奴らだから、兵士をやめれば市中の鼻つまみ者になってしまうだろう。あいつらには俺から罰を与える。あいつらだけでなく他の兵にも、二度とこのようなことをさせないように規律を正すから、今回だけは見逃してやってもらえないだろうか」

 未遂だったし、元々大ごとにする気はなかった。そもそも襲われていたとしても、使用人の訴えごときで兵士が除隊になるとも思ってもいなかった。それに何より、騒ぎ立てれば、ラインハルトにここにいることを知られてしまうかもしれない。

「できれば忘れたい出来事ですから。騒ぎ立てるつもりはないですよ」
「すまない」

 声にはホッとした響きがあった。

「ユーリ。これから先、何か困ったことがあれば、俺を頼ってくれ。これでも、軍の中ではそれなりに権限があるほうだから」
「ありがとうございます」

 ユリウスは深々と頭を下げた。
 一人で大丈夫と言ったのだが、フリッツは使用人の宿舎まで送ってくれた。
 別れ際、「おやすみ、ユーリ」と言って、頭をくしゃりと撫でられた。
 その仕草も、剣だこのできた硬くて大きな掌も、あの人と一緒だったから。
 懐かしさと一緒に色々なものが込み上げてきて、瞼がじわりと熱くなった。


しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

溺愛アルファの完璧なる巣作り

夕凪
BL
【本編完結済】(番外編SSを追加中です) ユリウスはその日、騎士団の任務のために赴いた異国の山中で、死にかけの子どもを拾った。 抱き上げて、すぐに気づいた。 これは僕のオメガだ、と。 ユリウスはその子どもを大事に大事に世話した。 やがてようやく死の淵から脱した子どもは、ユリウスの下で成長していくが、その子にはある特殊な事情があって……。 こんなに愛してるのにすれ違うことなんてある?というほどに溺愛するアルファと、愛されていることに気づかない薄幸オメガのお話。(になる予定) ※この作品は完全なるフィクションです。登場する人物名や国名、団体名、宗教等はすべて架空のものであり、実在のものと一切の関係はありません。 話の内容上、宗教的な描写も登場するかと思いますが、繰り返しますがフィクションです。特定の宗教に対して批判や肯定をしているわけではありません。 クラウス×エミールのスピンオフあります。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/504363362/542779091

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦

雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、 隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。 しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです… オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が なかたのでした。 本当の花嫁じゃない。 だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、 だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という お話です。よろしくお願いします<(_ _)>

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

釣った魚、逃した魚

円玉
BL
瘴気や魔獣の発生に対応するため定期的に行われる召喚の儀で、浄化と治癒の力を持つ神子として召喚された三倉貴史。 王の寵愛を受け後宮に迎え入れられたかに見えたが、後宮入りした後は「釣った魚」状態。 王には放置され、妃達には嫌がらせを受け、使用人達にも蔑ろにされる中、何とか穏便に後宮を去ろうとするが放置していながら縛り付けようとする王。 護衛騎士マクミランと共に逃亡計画を練る。 騎士×神子  攻目線 一見、神子が腹黒そうにみえるかもだけど、実際には全く悪くないです。 どうしても文字数が多くなってしまう癖が有るので『一話2500文字以下!』を目標にした練習作として書いてきたもの。 ムーンライト様でもアップしています。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

愛する公爵と番になりましたが、大切な人がいるようなので身を引きます

まんまる
BL
メルン伯爵家の次男ナーシュは、10歳の時Ωだと分かる。 するとすぐに18歳のタザキル公爵家の嫡男アランから求婚があり、あっという間に婚約が整う。 初めて会った時からお互い惹かれ合っていると思っていた。 しかしアランにはナーシュが知らない愛する人がいて、それを知ったナーシュはアランに離婚を申し出る。 でもナーシュがアランの愛人だと思っていたのは⋯。 執着系α×天然Ω 年の差夫夫のすれ違い(?)からのハッピーエンドのお話です。 Rシーンは※付けます ※画像は男の子メーカーpicrewさんよりお借りしました。

処理中です...