売れ残りオメガの従僕なる日々

灰鷹

文字の大きさ
54 / 83
王弟騎士の思い人

王弟騎士の思い人(8)

しおりを挟む



 夕食時は、指を切ったこととを理由に皿洗いをアルミンに代わってもらって、ユリウスは久々に給仕係として食堂に立った。ラインハルトに声をかけるなら、夕食時にしか会う機会はない。
 けれど、いつまで待ってもラインハルトは現れなかった。

 アルミンの話では、ここ一週間、ラインハルトは食堂に姿を現さなかったという。
 もしかしたら今日も、どこか別の場所で食事をされているのかもしれない。
 ここで会えないとなると副団長の執務室か私室を訪ねるしかないが、万が一騎士団長と鉢合わせしたら、副団長に会いに来た理由を勘繰られるかもしれない。今すぐ故郷に帰れと言われているのに部屋に押し掛けてどんな顔をされるかと思うと、会いに行くのが怖くもあった。

「ユーリが給仕係なんて珍しいな」

 水のおかわりを配って回っていたとき、フリッツが声をかけてきた。
 他の兵士らに聞こえないよう、ユリウスは彼の耳元近くで囁く。

「もうすぐ故郷に帰るので、ラインハルト殿下に最後に一言だけご挨拶したかったのですが……。殿下は、今日はお見えになりませんが、どこか別の場所でお食事を召し上がっていらっしゃるのでしょうか……」

 フリッツが身を屈め、ユリウスの耳元に口を寄せる。

「副団長は舞踏会前に警備状況を確認するため、1週間前から領内を視察されている。舞踏会当日にならないと戻って来られない」

 あからさまに顔色を失ってしまったため、「何かあったのか?」と続けて問われた。

 ……フリッツさんに、毒殺の件を相談してみようか……。

 一瞬そんな考えがよぎったが、すぐに頭から振り払い、作り笑いを返した。

「何もないですよ」

 フリッツが悪い人でないことはわかっている。
 だが、彼はウェルナー辺境伯に仕える身で、ラインハルトが辺境伯の暗殺を企てているとしたら、完全に敵対する立場だ。暗殺計画のことをを知られれば、辺境伯に告げ口し、ラインハルトを捕らえようとするかもしれない。
 かといって、騎士団の誰かに相談しようにも、フリッツ以上に信用できる人はいなかった。

「舞踏会が終わったらすぐに故郷に帰る予定なので、どうしても舞踏会の前に殿下にお会いしたいのです。殿下が帰って来られたら、そのことをお伝えいただけませんか?」

 フリッツは一瞬考えこむような顔をし、「わかった」と頷いた。

「一応、伝えるには伝えるが……。当日は副団長もお忙しいし、お前の希望を叶えてくださるかどうかはわからないぞ」

 言われなくても、わかりすぎるほどわかっている。
 謀反の計画が本当なら、今、ラインハルトの頭の中にユリウスの存在は微塵もないだろう。別れの挨拶に時間を割いてもらえるとは思えない。
 それでも、彼が城内にいない以上、今はそれ以外に思いつく手立てがなかった。


しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻本作品(オリジナル)の結末をif(運命の番)ルートに入れ替えて、他サイトでの投稿を始めました。タイトルは「一度目の結婚で愛も希望も失くした僕が、移住先で運命と出逢い、二度目の結婚で愛されるまで」に変えてます。 オリジナルの本編結末は完全なハッピーエンドとはいえないかもしれませんが、「一度目の〜…」は琳が幸せな結婚をするハッピーエンド一択です。

5回も婚約破棄されたんで、もう関わりたくありません

くるむ
BL
進化により男も子を産め、同性婚が当たり前となった世界で、 ノエル・モンゴメリー侯爵令息はルーク・クラーク公爵令息と婚約するが、本命の伯爵令嬢を諦められないからと破棄をされてしまう。その後辛い日々を送り若くして死んでしまうが、なぜかいつも婚約破棄をされる朝に巻き戻ってしまう。しかも5回も。 だが6回目に巻き戻った時、婚約破棄当時ではなく、ルークと婚約する前まで巻き戻っていた。 今度こそ、自分が不幸になる切っ掛けとなるルークに近づかないようにと決意するノエルだが……。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

番解除した僕等の末路【完結済・短編】

藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。 番になって数日後、「番解除」された事を悟った。 「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。 けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。

結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした

BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。 実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。 オメガバースでオメガの立場が低い世界 こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです 強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です 主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です 倫理観もちょっと薄いです というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります ※この主人公は受けです

当たり前の幸せ

ヒイロ
BL
結婚4年目で別れを決意する。長い間愛があると思っていた結婚だったが嫌われてるとは気付かずいたから。すれ違いからのハッピーエンド。オメガバース。よくある話。 初投稿なので色々矛盾などご容赦を。 ゆっくり更新します。 すみません名前変えました。

初夜の翌朝失踪する受けの話

春野ひより
BL
家の事情で8歳年上の男と結婚することになった直巳。婚約者の恵はカッコいいうえに優しくて直巳は彼に恋をしている。けれど彼には別に好きな人がいて…? タイトル通り初夜の翌朝攻めの前から姿を消して、案の定攻めに連れ戻される話。 歳上穏やか執着攻め×頑固な健気受け

アルファのアイツが勃起不全だって言ったの誰だよ!?

モト
BL
中学の頃から一緒のアルファが勃起不全だと噂が流れた。おいおい。それって本当かよ。あんな完璧なアルファが勃起不全とかありえねぇって。 平凡モブのオメガが油断して美味しくいただかれる話。ラブコメ。 ムーンライトノベルズにも掲載しております。

処理中です...