売れ残りオメガの従僕なる日々

灰鷹

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王弟騎士の思い人

王弟騎士の思い人(8)

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 夕食時は、指を切ったこととを理由に皿洗いをアルミンに代わってもらって、ユリウスは久々に給仕係として食堂に立った。ラインハルトに声をかけるなら、夕食時にしか会う機会はない。
 けれど、いつまで待ってもラインハルトは現れなかった。

 アルミンの話では、ここ一週間、ラインハルトは食堂に姿を現さなかったという。
 もしかしたら今日も、どこか別の場所で食事をされているのかもしれない。
 ここで会えないとなると副団長の執務室か私室を訪ねるしかないが、万が一騎士団長と鉢合わせしたら、副団長に会いに来た理由を勘繰られるかもしれない。今すぐ故郷に帰れと言われているのに部屋に押し掛けてどんな顔をされるかと思うと、会いに行くのが怖くもあった。

「ユーリが給仕係なんて珍しいな」

 水のおかわりを配って回っていたとき、フリッツが声をかけてきた。
 他の兵士らに聞こえないよう、ユリウスは彼の耳元近くで囁く。

「もうすぐ故郷に帰るので、ラインハルト殿下に最後に一言だけご挨拶したかったのですが……。殿下は、今日はお見えになりませんが、どこか別の場所でお食事を召し上がっていらっしゃるのでしょうか……」

 フリッツが身を屈め、ユリウスの耳元に口を寄せる。

「副団長は舞踏会前に警備状況を確認するため、1週間前から領内を視察されている。舞踏会当日にならないと戻って来られない」

 あからさまに顔色を失ってしまったため、「何かあったのか?」と続けて問われた。

 ……フリッツさんに、毒殺の件を相談してみようか……。

 一瞬そんな考えがよぎったが、すぐに頭から振り払い、作り笑いを返した。

「何もないですよ」

 フリッツが悪い人でないことはわかっている。
 だが、彼はウェルナー辺境伯に仕える身で、ラインハルトが辺境伯の暗殺を企てているとしたら、完全に敵対する立場だ。暗殺計画のことをを知られれば、辺境伯に告げ口し、ラインハルトを捕らえようとするかもしれない。
 かといって、騎士団の誰かに相談しようにも、フリッツ以上に信用できる人はいなかった。

「舞踏会が終わったらすぐに故郷に帰る予定なので、どうしても舞踏会の前に殿下にお会いしたいのです。殿下が帰って来られたら、そのことをお伝えいただけませんか?」

 フリッツは一瞬考えこむような顔をし、「わかった」と頷いた。

「一応、伝えるには伝えるが……。当日は副団長もお忙しいし、お前の希望を叶えてくださるかどうかはわからないぞ」

 言われなくても、わかりすぎるほどわかっている。
 謀反の計画が本当なら、今、ラインハルトの頭の中にユリウスの存在は微塵もないだろう。別れの挨拶に時間を割いてもらえるとは思えない。
 それでも、彼が城内にいない以上、今はそれ以外に思いつく手立てがなかった。


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