売れ残りオメガの従僕なる日々

灰鷹

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舞踏会の夜に

舞踏会の夜に(1)

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 フリッツが言っていた通り、その後、ラインハルトの姿を見ることも、「騎士団副団長が戻って来られた」という噂を聞くこともなく、舞踏会当日を迎えた。
 ユリウスは毒殺の密談を耳にして以降、食事がほとんど喉を通らず、寝不足も続いていた。その上、舞踏会前日から、軍営の使用人までもが城内の掃除やら舞踏会で出す食事の下準備やらに駆り出され、息を吐く暇もないほどの忙しさだった。
 目の前が暗くなりかけて、アルミンに「大丈夫?」と体を支えられたことが幾度となくあった。

 忙しいことで、よかったことと悪かったことが一つずつある。

 よかったことは、城内の部屋の配置を知れたことだ。
 ユリウスは軍営の使用人なので、城で働く多くの使用人たちとは普段接することがない。厨房もそれぞれ別の場所にある。
 それがこの二日間は城内の色んな場所に手伝いに行き、雑談ついでに城の使用人たちから話を聞けたお陰で、辺境伯とラインハルトの私室の位置を知ることができた。
 
 舞踏会のあと、辺境伯と王弟殿下がお酒を酌み交わすとしたら、場所はそのいずれかだろう。二人の居場所がわかれば、その近くで待ち伏せし侍女を阻止することもできるかもしれない。
 
 忙しいことで悪かったことは、忙しすぎてなかなか持ち場を離れられないことだ。
 用を足しに行くついでに軍営に戻ってみたものの、全ての兵士が城内外の警備に出払っていて、もぬけの殻だった。その上、勇気を出して巡回中の兵士に騎士団副団長やフリッツの居場所を訊こうとしても、この忙しいときに呼び止めるなと怒鳴られてしまう。

 舞踏会当日は更に兵士たちは忙しなく動き回っていて、フリッツとも会えないので、伝言がラインハルトに伝わったのかもわからないままに開始の時間を迎えた。
 鐘の音が城中に響き渡り、遠くから音楽隊の演奏が聞こえ始めると、厨房にはようやく安堵の空気が漂い始めた。

「忙しかったでしょう? それが終わったら、あんた達も少し休憩して、料理の余り物を食べなさい」

 厨房で下働きをしていた年配の女中メイドが、焼き菓子を皿に盛りつけていたユリウスとアルミンに声をかけてくれた。メインの料理は既に大広間に運び込まれていて、残るは食後のスイーツだけになっている。
 作業用のテーブルには、大広間から引いてきた、貴族たちの食べ残した料理の載った皿が並んでいた。
 舞踏会の日の使用人の食事は、こういった貴族の食べ残しになるかわりに、普段より豪華なものを食べられるのだそうだ。

 そう言われても、家にいたとき、誰かの食べ残しを食べたことのないユリウスは、他人の食べ残しを食べることには抵抗がある。騎士団長たちの密談を耳にして以来、ずっと食欲もないので、手つかずで残っていたパンを少しだけ齧るにとどめた。

「ユーリ、顔色が悪い。少しでもいいから座っていたほうがいい」

 アルミンが言うように、疲れて足がぱんぱんに張っている上に、頭が重く、自分でもこれ以上は立っているのが無理かもしれないと思っていた。
 ユリウスは壁に背中を預けたまま、ずるずると尻を下げていく。
 石畳の地面に完全に尻をつけると、身の置き所のない体の怠さがほんの少し楽になった。
 身に覚えのある感覚からすると、もしかする発情期ヒートの前兆かもしれない。ただ、幸か不幸か今日は城じゅうに甘く香ばしい匂いが漂っているせいで、今のところ自分でもフェロモンの香りはわからなかった。

「実は今日、朝から体調が悪いんだ。どうしても無理そうなときは途中で仕事を抜けさせてもらうかもしれないけど、いいかな?」

 自分たちにしか聞こえない潜めた声で、アルミンに尋ねる。
 体が重怠く、少し熱っぽいのは嘘ではないが、仕事を抜けることを匂わせたのは、このあとの計画のためだ。もしラインハルトが舞踏会に参加しているとしたら、音楽が鳴り響いている間はカレンのダンスの相手をして大広間から離れられないだろう。音楽が止んだところで、こっそり大広間ホールに紛れ込んでラインハルトを探そうと思っていた。

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