売れ残りオメガの従僕なる日々

灰鷹

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嵐のあと

嵐のあと(3)

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「でも……、戦になるかもしれないのに、なぜそこまでしてウェルナー辺境伯はケースダルムに帰属しようとしたのかな?」

 アルミンは眉間に指を当てて「うーん」と唸り、「これは俺の推測だけど」と前置きして説明を続けた。

「ウェルナー辺境伯領の最大の財源は鉱山だ。奴隷制度が廃止される以前は、かなりの収益があったらしい。でも今は働き手がいなくて、収益は十分の一ほどに落ち込んでいるって話だ」

 鉱山労働は危険が多く、肺を患う者も少なくない。長く続けられる仕事ではないと聞く。
 奴隷制度が廃止された今、そんな場所で働こうとするのは、他に生きる術のない余程貧しい者たちだけなのだろう。

「ケースダルムでは奴隷制度が続いてるから、帰属すればまた異民なんかを奴隷として働かせて、鉱山の収益を上げるつもりだったんじゃないかな」

 その説明を聞いて、あの夜の、「時代を逆行して、奴隷制度を復活させて、貴族だけが富を得る世の中に戻れば、それが領民のためだと信じてやがる」というラインハルトの言葉の意味も、直後に辺境伯軍の兵士たちが一斉に戦意を喪失した理由もわかった気がする。

 騎士と違い辺境伯軍の兵士たちは貧しい家の出が多い。先祖が異民で元は奴隷階級だった者や、家族が鉱山で働いて体を壊した者も少なくないのだろう。

「帰属できていたとしても、昔のようにはいかなかったんじゃないかな……」

 怒りよりも虚しさに胸を支配され、ユリウスはぼそりと呟いた。

 ユリウスも以前なら、なぜオメガなんかに生まれてきたんだろうと嘆くことはあっても、結婚相手や職業を選ぶ権利がないことを、国が定めたことなのだから仕方のないことだと受け入れていた。でも、自由を知ってしまった今は、突然それを取り上げられることになったとしても、素直に従う気にはなれないだろう。

「ユーリの言う通りだよ。でも、奴隷の件は抜きにしても、ウェルナー辺境伯の気持ちはわからないでもないけどね。国境を守るという立場上、ケースダルムに帰属して第一王弟に王位に就いてもらったほうが、今よりずっと安心できるからね」

 ウェルナー公が描きたかった未来図は、後継となる娘のカレンのためでもあるのかもしれない。領民に犠牲を強いることになっても、娘に戦のない平和な未来を残そうとした。
 そう考えると、自分では何一つ決断できず、騎士団長の言いなりになっていたどこか気弱そうな紳士が憐れでもあった。

「カレンお嬢様のことは、殿下は何か言ってなかった?」
「カレンお嬢様って辺境伯令嬢のこと? いや。俺は何も聞いてないよ。今の法だと連座で処刑されることはないけど、謀反の話が真実ならウェルナー公の処刑と廃爵は免れない。お嬢様も平民に落とされるだろうね。妾としてどこかの貴族に嫁ぐことができれば、お嬢様にとってはそれが一番よさそうだけど……」

 そうじゃなければ、平民のオメガとなったカレンは次の選定の儀に参加しなければいけなくなる。
 あの気位の高い人が品物のように値踏みされ、誰かに選ばれるのを待つしかないのかと思うと、想像するだけで胸が押し潰されそうになった。
 陰謀の背景について理解はできたが、もっと他にやりようはなかったのかとやりきれない思いを抱えて、ユリウスはアルミンとの会話を終えた。


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