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嵐のあと
嵐のあと(6)
しおりを挟む「貴方……確か王弟殿下の従兄の義理の弟という話だったわよね?」
すぐに立ち去るつもりだったが、引き留めるように侍女から質問を振られ、そのまま立ち話を続けることになった。
「はい。姉が殿下の従兄に嫁ぎましたので」
「王弟殿下はその……しばらく結婚のご予定はないのかしら?」
「え……?」
唐突な話題に、ユリウスは目を瞬かせた。
侍女は部屋の前に立つ騎士に背を向けてユリウスに身を寄せ、声を潜める。
「王弟殿下が都に行かれる前にね、お嬢様に会いに来られたのよ。人払いをされて私たちも部屋の外にいたから全部はっきりとは聞き取れなかったんだけど、できれば妾になってくれないかって仰ってたわ。傍にいてほしい、とも聞こえたから、あれは間違いなく愛の告白よね」
瞬間、何か重い物で押し潰されたみたいに、胸がぎゅっと苦しくなった。
きっとそうだろうと覚悟していた。でも、それを事実として聞かされるのは、心の奥底で守り続けていたものが粉々に砕け散ったような、痛切な喪失だった。
『傍にいてほしい』
従僕としてでいいから、僕も、ライニ様にそう言われたかった。
そんな思いで瞼に込み上げてきたものを、奥歯をぐっと噛みしめて堪える。
涙を溢れさせずに済んだのは、侍女の止まらないお喋りのおかげだった。
「でも、妻を娶ってもいない王族が先に妾を持つなんて、普通はありえないじゃない? だから、妾にするというのは口約束で、どこかのご令嬢との結婚が決まるまでの間の慰み者にされるだけなんじゃないかって心配で……」
「そんな人じゃありません!」
ユリウスは思わず声を荒げ、自分でもその声に驚いた。
侍女は目を丸くし、侍女の肩越しに見張りの兵たちもこちらに顔を向けているのが見える。
「す、すみません……」
口の中で呟き、両手をぎゅっと握り込んで話を続ける。
「ライニ様は、絶対にそんな人ではありません! 今までずっと妻を娶られなかったのも、以前からお嬢様のことを気にかけていらしたからだと思います。立場上、お嬢様を妻に迎えることはできなくなりましたが……、妻だろうと妾だろうと、必ず生涯大事にされるはずです」
「そ、そうね……。ごめんなさいね。お嬢様が心配なあまり、変なこと言っちゃって。今の話は殿下には内緒にしておいてね。じゃあ、あなたもお元気で」
自身の発言が王弟殿下を貶めるものだと気づいたようで、侍女は気まずそうな笑みを浮かべ、台車を押してそそくさと離れて行った。
その後ろ姿が見えなくなるまでぼんやりと見送り、ユリウスは再びカレンの部屋へと体を向けた。
失恋の痛みは一瞬で、侍女の余計なひとことのおかげで、今は「ライニ様は絶対にそんな人じゃない」という意地のような反発心に塗り替えられていた。
本当のところはどうなんだろうとずっと気になっていたから、ようやくその答えが得られたことにも、知らないままでいるよりはよかったという思いだった。
カレンの部屋に向かって、ユリウスは深々と一礼した。
――ライニ様のこと、よろしくお願いします。
そう心の中で呟き、踵を返した。
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