67 / 83
嵐のあと
嵐のあと(7)
しおりを挟むユリウスがウェルナー辺境伯領を出たのは、その翌日のことだ。
アルミンには、「どうせすぐにここに舞い戻ってくることになるだろうから、帰るだけ無駄だよ」と呆れられ、フリッツには、「君を帰してしまったら俺たちが殿下に半殺しにされるから、頼むからいてくれ!」と泣きつかれたが、「もともと故郷に帰るように言われているので」と理由を説明し、護衛としてアルミンだけを連れて城を出た。
都から来たときは、ユリウスもアルミンも、共に馬を連れていた。
アルミンは、その馬で移動するという。ユリウスが故郷に帰れば護衛の任務が終了するため、ユリウスを送り届けたら、その足で都に帰るそうだ。
ユリウスにも、殿下から譲り受けた白馬のアルバがいたが、殿下の馬であるニゲルと再会したとき、二頭は再会を喜んでいるように見えた。人間の都合で再び引き離すのは忍びないため、アルバは殿下に返すことにして、城の厩舎に置いてきた。
城下で二人乗りの馬車を買い、アルミンの馬にそれを引いてもらい、故郷まで送ってもらうことにした。
街を出て一時ほど走ったところに、カッシーラー辺境伯領へ折れる分岐点がある。そろそろかと思っていたら、何もない道端でアルミンが馬車を止めた。
なぜ急に止まるのか尋ねようとして、ユリウスは息を呑んだ。
前方から、馬で駆けてくる人が見える。
背が高く、青い騎士服を着たその人物が誰かは、遠目でもすぐにわかった。
都に行っていたはずのラインハルトが、なぜか護衛を一人も連れておらず、単身で馬を走らせていた。
近くまで来ると、馬を歩かせ、ゆっくりと近づいてくる。彼はアルミンの馬を通り過ぎ、ユリウスの前で馬の足を止めた。
彼の背後から射す太陽光の眩さに、ユリウスは目を細めた。
「どこに行っている?」
その声は明らかに怒気を孕んでいた。
「あの……、えっと……、故郷に帰っているところです。殿下もそうするように仰っていたので……。殿下がいつお帰りになるかわからなかったので、ご挨拶もせずに申し訳ありません」
ユリウスは一瞬迷い、「ライニ様」ではなく「殿下」と呼んだ。今は、これまでとおり愛称で呼んでいいのか、自信がなかった。
「そうか」
ラインハルトが押し黙り、沈黙が流れる。
ユリウスは、彼の不機嫌の理由を、あれだけ迷惑をかけたのに、ちゃんと別れの挨拶をしなかったからかと考えた。
挨拶をするのなら、馬車の中からというわけにはいかない。
「すみません。僕、馬車から降りもせずに……」
「降りる必要はない」
馬車から降りようとしたユリウスを、ラインハルトが止める。
何故か殿下は巧みな手綱さばきで、馬首を返していた。
「面倒事が片付いたら、お前の家に挨拶にいきたいと思っていたのだ。ちょうどよかった。俺もこれからイェーガー家に向かう。馬車ごと貰い受けてよいな?」
最後の問いは、アルミンに向けたものだった。
「え――、ええ!?」
ユリウスは、思わず大声を上げたが、にやにやと頬を緩めて成り行きを見守っていたアルミンは、全く驚いていないようだ。
「急いで軍営に戻らなければならない状況ではないのですか?」
護衛もつけずに単身で帰還していたのは、そういうことだろうと思ったのだが。
「急いで帰らなければならない理由のほうから出向いて来たのだから、急ぐ必要はなくなった」
彼の言っていることは、ユリウスにはよくわからなかった。
「最強の護衛を確保できたみたいなので、俺はここでお役御免ってことでいいですよね?」
御者台から降りたアルミンは、馬車をラインハルトの馬へと移し替え、自身の馬に飛び乗った。
「じゃーね。ユーリ! ちゃんと陛下に、俺のこと、めちゃくちゃ優秀な用心棒だったって手紙で書いておいてね!」
手を上げられ、ユリウスも事情がよくわからないままに手を振って彼を見送った。
「アルミン、色々ありがとう! 都に行ったときは、また会いに行くから!」
ユリウスの実家までの道中、ラインハルトは一度も口を開かず、不機嫌なオーラを漂わせていた。
その理由がわからないユリウスは、故郷に帰り着くまでに彼の機嫌が治っていることを願うしかなかった。
759
あなたにおすすめの小説
溺愛アルファの完璧なる巣作り
夕凪
BL
【本編完結済】(番外編SSを追加中です)
ユリウスはその日、騎士団の任務のために赴いた異国の山中で、死にかけの子どもを拾った。
抱き上げて、すぐに気づいた。
これは僕のオメガだ、と。
ユリウスはその子どもを大事に大事に世話した。
やがてようやく死の淵から脱した子どもは、ユリウスの下で成長していくが、その子にはある特殊な事情があって……。
こんなに愛してるのにすれ違うことなんてある?というほどに溺愛するアルファと、愛されていることに気づかない薄幸オメガのお話。(になる予定)
※この作品は完全なるフィクションです。登場する人物名や国名、団体名、宗教等はすべて架空のものであり、実在のものと一切の関係はありません。
話の内容上、宗教的な描写も登場するかと思いますが、繰り返しますがフィクションです。特定の宗教に対して批判や肯定をしているわけではありません。
クラウス×エミールのスピンオフあります。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/504363362/542779091
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。
逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦
雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、
隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。
しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです…
オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が
なかたのでした。
本当の花嫁じゃない。
だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、
だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という
お話です。よろしくお願いします<(_ _)>
愛する公爵と番になりましたが、大切な人がいるようなので身を引きます
まんまる
BL
メルン伯爵家の次男ナーシュは、10歳の時Ωだと分かる。
するとすぐに18歳のタザキル公爵家の嫡男アランから求婚があり、あっという間に婚約が整う。
初めて会った時からお互い惹かれ合っていると思っていた。
しかしアランにはナーシュが知らない愛する人がいて、それを知ったナーシュはアランに離婚を申し出る。
でもナーシュがアランの愛人だと思っていたのは⋯。
執着系α×天然Ω
年の差夫夫のすれ違い(?)からのハッピーエンドのお話です。
Rシーンは※付けます
※画像は男の子メーカーpicrewさんよりお借りしました。
巣ごもりオメガは後宮にひそむ【続編完結】
晦リリ@9/10『死に戻りの神子~』発売
BL
後宮で幼馴染でもあるラナ姫の護衛をしているミシュアルは、つがいがいないのに、すでに契約がすんでいる体であるという判定を受けたオメガ。
発情期はあるものの、つがいが誰なのか、いつつがいの契約がなされたのかは本人もわからない。
そんななか、気になる匂いの落とし物を後宮で拾うようになる。
第9回BL小説大賞にて奨励賞受賞→書籍化しました。ありがとうございます。
回帰したシリルの見る夢は
riiko
BL
公爵令息シリルは幼い頃より王太子の婚約者として、彼と番になる未来を夢見てきた。
しかし王太子は婚約者の自分には冷たい。どうやら彼には恋人がいるのだと知った日、物語は動き出した。
嫉妬に狂い断罪されたシリルは、何故だかきっかけの日に回帰した。そして回帰前には見えなかったことが少しずつ見えてきて、本当に望む夢が何かを徐々に思い出す。
執着をやめた途端、執着される側になったオメガが、次こそ間違えないようにと、可愛くも真面目に奮闘する物語!
執着アルファ×回帰オメガ
本編では明かされなかった、回帰前の出来事は外伝に掲載しております。
性描写が入るシーンは
※マークをタイトルにつけます。
物語お楽しみいただけたら幸いです。
***
2022.12.26「第10回BL小説大賞」で奨励賞をいただきました!
応援してくれた皆様のお陰です。
ご投票いただけた方、お読みくださった方、本当にありがとうございました!!
☆☆☆
2024.3.13 書籍発売&レンタル開始いたしました!!!!
応援してくださった読者さまのお陰でございます。本当にありがとうございます。書籍化にあたり連載時よりも読みやすく書き直しました。お楽しみいただけたら幸いです。
番解除した僕等の末路【完結済・短編】
藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。
番になって数日後、「番解除」された事を悟った。
「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。
けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。
2026/02/14 累計30万P突破御礼バレンタインSS追加しました
2026/02/15 累計いいね♡7777突破御礼SS 19時に公開します。
様々な形での応援ありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる