売れ残りオメガの従僕なる日々

灰鷹

文字の大きさ
66 / 83
嵐のあと

嵐のあと(6)

しおりを挟む



「貴方……確か王弟殿下の従兄の義理の弟という話だったわよね?」

 すぐに立ち去るつもりだったが、引き留めるように侍女から質問を振られ、そのまま立ち話を続けることになった。

「はい。姉が殿下の従兄に嫁ぎましたので」
「王弟殿下はその……しばらく結婚のご予定はないのかしら?」
「え……?」

 唐突な話題に、ユリウスは目を瞬かせた。
 侍女は部屋の前に立つ騎士に背を向けてユリウスに身を寄せ、声を潜める。

「王弟殿下が都に行かれる前にね、お嬢様に会いに来られたのよ。人払いをされて私たちも部屋の外にいたから全部はっきりとは聞き取れなかったんだけど、できれば妾になってくれないかって仰ってたわ。傍にいてほしい、とも聞こえたから、あれは間違いなく愛の告白よね」

 瞬間、何か重い物で押し潰されたみたいに、胸がぎゅっと苦しくなった。

 きっとそうだろうと覚悟していた。でも、それを事実として聞かされるのは、心の奥底で守り続けていたものが粉々に砕け散ったような、痛切な喪失だった。
 
『傍にいてほしい』

 従僕としてでいいから、僕も、ライニ様にそう言われたかった。
 そんな思いで瞼に込み上げてきたものを、奥歯をぐっと噛みしめて堪える。
 涙を溢れさせずに済んだのは、侍女の止まらないお喋りのおかげだった。

「でも、妻を娶ってもいない王族が先に妾を持つなんて、普通はありえないじゃない? だから、妾にするというのは口約束で、どこかのご令嬢との結婚が決まるまでの間の慰み者にされるだけなんじゃないかって心配で……」

「そんな人じゃありません!」

 ユリウスは思わず声を荒げ、自分でもその声に驚いた。
 侍女は目を丸くし、侍女の肩越しに見張りの兵たちもこちらに顔を向けているのが見える。

「す、すみません……」

 口の中で呟き、両手をぎゅっと握り込んで話を続ける。

「ライニ様は、絶対にそんな人ではありません! 今までずっと妻を娶られなかったのも、以前からお嬢様のことを気にかけていらしたからだと思います。立場上、お嬢様を妻に迎えることはできなくなりましたが……、妻だろうと妾だろうと、必ず生涯大事にされるはずです」

「そ、そうね……。ごめんなさいね。お嬢様が心配なあまり、変なこと言っちゃって。今の話は殿下には内緒にしておいてね。じゃあ、あなたもお元気で」

 自身の発言が王弟殿下を貶めるものだと気づいたようで、侍女は気まずそうな笑みを浮かべ、台車を押してそそくさと離れて行った。
 その後ろ姿が見えなくなるまでぼんやりと見送り、ユリウスは再びカレンの部屋へと体を向けた。

 失恋の痛みは一瞬で、侍女の余計なひとことのおかげで、今は「ライニ様は絶対にそんな人じゃない」という意地のような反発心に塗り替えられていた。
 本当のところはどうなんだろうとずっと気になっていたから、ようやくその答えが得られたことにも、知らないままでいるよりはよかったという思いだった。
 
 カレンの部屋に向かって、ユリウスは深々と一礼した。

 ――ライニ様のこと、よろしくお願いします。

 そう心の中で呟き、踵を返した。


しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

溺愛アルファの完璧なる巣作り

夕凪
BL
【本編完結済】(番外編SSを追加中です) ユリウスはその日、騎士団の任務のために赴いた異国の山中で、死にかけの子どもを拾った。 抱き上げて、すぐに気づいた。 これは僕のオメガだ、と。 ユリウスはその子どもを大事に大事に世話した。 やがてようやく死の淵から脱した子どもは、ユリウスの下で成長していくが、その子にはある特殊な事情があって……。 こんなに愛してるのにすれ違うことなんてある?というほどに溺愛するアルファと、愛されていることに気づかない薄幸オメガのお話。(になる予定) ※この作品は完全なるフィクションです。登場する人物名や国名、団体名、宗教等はすべて架空のものであり、実在のものと一切の関係はありません。 話の内容上、宗教的な描写も登場するかと思いますが、繰り返しますがフィクションです。特定の宗教に対して批判や肯定をしているわけではありません。 クラウス×エミールのスピンオフあります。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/504363362/542779091

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦

雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、 隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。 しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです… オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が なかたのでした。 本当の花嫁じゃない。 だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、 だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という お話です。よろしくお願いします<(_ _)>

人間嫌いの公爵様との契約期間が終了したので離婚手続きをしたら夫の執着と溺愛がとんでもないことになりました

荷居人(にいと)
BL
第12回BL大賞奨励賞作品3/2完結。 人間嫌いと言われた公爵様に嫁いで3年。最初こそどうなるかと思ったものの自分としては公爵の妻として努力してきたつもりだ。 男同士でも結婚できる時代とはいえ、その同性愛結婚の先駆けの1人にされた僕。なんてことを言いつつも、嫌々嫁いだわけじゃなくて僕は運良く好きになった人に嫁いだので政略結婚万歳と今でも思っている。 だけど相手は人嫌いの公爵様。初夜なんて必要なことを一方的に話されただけで、翌日にどころかその日にお仕事に行ってしまうような人だ。だから使用人にも舐められるし、割と肩身は狭かった。 いくら惚れた相手と結婚できてもこれが毎日では参ってしまう。だから自分から少しでも過ごしやすい日々を送るためにそんな夫に提案したのだ。 三年間白い結婚を続けたら必ず離婚するから、三年間仕事でどうしても時間が取れない日を除いて毎日公爵様と関わる時間がほしいと。 どんなに人嫌いでも約束は守ってくれる人だと知っていたからできた提案だ。この契約のおかげで毎日辛くても頑張れた。 しかし、そんな毎日も今日で終わり。これからは好きな人から離れた生活になるのは残念なものの、同時に使用人たちからの冷遇や公爵様が好きな令嬢たちの妬みからの辛い日々から解放されるので悪い事ばかりではない。 最近は関わる時間が増えて少しは心の距離が近づけたかなとは思ったりもしたけど、元々噂されるほどの人嫌いな公爵様だから、契約のせいで無駄な時間をとらされる邪魔な僕がいなくなって内心喜んでいるかもしれない。それでもたまにはあんな奴がいたなと思い出してくれたら嬉しいなあ、なんて思っていたのに……。 「何故離婚の手続きをした?何か不満でもあるのなら直す。だから離れていかないでくれ」 「え?」 なんだか公爵様の様子がおかしい? 「誰よりも愛している。願うなら私だけの檻に閉じ込めたい」 「ふぇっ!?」 あまりの態度の変わりように僕はもうどうすればいいかわかりません!!

愛する公爵と番になりましたが、大切な人がいるようなので身を引きます

まんまる
BL
メルン伯爵家の次男ナーシュは、10歳の時Ωだと分かる。 するとすぐに18歳のタザキル公爵家の嫡男アランから求婚があり、あっという間に婚約が整う。 初めて会った時からお互い惹かれ合っていると思っていた。 しかしアランにはナーシュが知らない愛する人がいて、それを知ったナーシュはアランに離婚を申し出る。 でもナーシュがアランの愛人だと思っていたのは⋯。 執着系α×天然Ω 年の差夫夫のすれ違い(?)からのハッピーエンドのお話です。 Rシーンは※付けます ※画像は男の子メーカーpicrewさんよりお借りしました。

巣ごもりオメガは後宮にひそむ【続編完結】

晦リリ@9/10『死に戻りの神子~』発売
BL
後宮で幼馴染でもあるラナ姫の護衛をしているミシュアルは、つがいがいないのに、すでに契約がすんでいる体であるという判定を受けたオメガ。 発情期はあるものの、つがいが誰なのか、いつつがいの契約がなされたのかは本人もわからない。 そんななか、気になる匂いの落とし物を後宮で拾うようになる。 第9回BL小説大賞にて奨励賞受賞→書籍化しました。ありがとうございます。

回帰したシリルの見る夢は

riiko
BL
公爵令息シリルは幼い頃より王太子の婚約者として、彼と番になる未来を夢見てきた。 しかし王太子は婚約者の自分には冷たい。どうやら彼には恋人がいるのだと知った日、物語は動き出した。 嫉妬に狂い断罪されたシリルは、何故だかきっかけの日に回帰した。そして回帰前には見えなかったことが少しずつ見えてきて、本当に望む夢が何かを徐々に思い出す。 執着をやめた途端、執着される側になったオメガが、次こそ間違えないようにと、可愛くも真面目に奮闘する物語! 執着アルファ×回帰オメガ 本編では明かされなかった、回帰前の出来事は外伝に掲載しております。 性描写が入るシーンは ※マークをタイトルにつけます。 物語お楽しみいただけたら幸いです。 *** 2022.12.26「第10回BL小説大賞」で奨励賞をいただきました! 応援してくれた皆様のお陰です。 ご投票いただけた方、お読みくださった方、本当にありがとうございました!! ☆☆☆ 2024.3.13 書籍発売&レンタル開始いたしました!!!! 応援してくださった読者さまのお陰でございます。本当にありがとうございます。書籍化にあたり連載時よりも読みやすく書き直しました。お楽しみいただけたら幸いです。

処理中です...