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嵐のあと
嵐のあと(7)
しおりを挟むユリウスがウェルナー辺境伯領を出たのは、その翌日のことだ。
アルミンには、「どうせすぐにここに舞い戻ってくることになるだろうから、帰るだけ無駄だよ」と呆れられ、フリッツには、「君を帰してしまったら俺たちが殿下に半殺しにされるから、頼むからいてくれ!」と泣きつかれたが、「もともと故郷に帰るように言われているので」と理由を説明し、護衛としてアルミンだけを連れて城を出た。
都から来たときは、ユリウスもアルミンも、共に馬を連れていた。
アルミンは、その馬で移動するという。ユリウスが故郷に帰れば護衛の任務が終了するため、ユリウスを送り届けたら、その足で都に帰るそうだ。
ユリウスにも、殿下から譲り受けた白馬のアルバがいたが、殿下の馬であるニゲルと再会したとき、二頭は再会を喜んでいるように見えた。人間の都合で再び引き離すのは忍びないため、アルバは殿下に返すことにして、城の厩舎に置いてきた。
城下で二人乗りの馬車を買い、アルミンの馬にそれを引いてもらい、故郷まで送ってもらうことにした。
街を出て一時ほど走ったところに、カッシーラー辺境伯領へ折れる分岐点がある。そろそろかと思っていたら、何もない道端でアルミンが馬車を止めた。
なぜ急に止まるのか尋ねようとして、ユリウスは息を呑んだ。
前方から、馬で駆けてくる人が見える。
背が高く、青い騎士服を着たその人物が誰かは、遠目でもすぐにわかった。
都に行っていたはずのラインハルトが、なぜか護衛を一人も連れておらず、単身で馬を走らせていた。
近くまで来ると、馬を歩かせ、ゆっくりと近づいてくる。彼はアルミンの馬を通り過ぎ、ユリウスの前で馬の足を止めた。
彼の背後から射す太陽光の眩さに、ユリウスは目を細めた。
「どこに行っている?」
その声は明らかに怒気を孕んでいた。
「あの……、えっと……、故郷に帰っているところです。殿下もそうするように仰っていたので……。殿下がいつお帰りになるかわからなかったので、ご挨拶もせずに申し訳ありません」
ユリウスは一瞬迷い、「ライニ様」ではなく「殿下」と呼んだ。今は、これまでとおり愛称で呼んでいいのか、自信がなかった。
「そうか」
ラインハルトが押し黙り、沈黙が流れる。
ユリウスは、彼の不機嫌の理由を、あれだけ迷惑をかけたのに、ちゃんと別れの挨拶をしなかったからかと考えた。
挨拶をするのなら、馬車の中からというわけにはいかない。
「すみません。僕、馬車から降りもせずに……」
「降りる必要はない」
馬車から降りようとしたユリウスを、ラインハルトが止める。
何故か殿下は巧みな手綱さばきで、馬首を返していた。
「面倒事が片付いたら、お前の家に挨拶にいきたいと思っていたのだ。ちょうどよかった。俺もこれからイェーガー家に向かう。馬車ごと貰い受けてよいな?」
最後の問いは、アルミンに向けたものだった。
「え――、ええ!?」
ユリウスは、思わず大声を上げたが、にやにやと頬を緩めて成り行きを見守っていたアルミンは、全く驚いていないようだ。
「急いで軍営に戻らなければならない状況ではないのですか?」
護衛もつけずに単身で帰還していたのは、そういうことだろうと思ったのだが。
「急いで帰らなければならない理由のほうから出向いて来たのだから、急ぐ必要はなくなった」
彼の言っていることは、ユリウスにはよくわからなかった。
「最強の護衛を確保できたみたいなので、俺はここでお役御免ってことでいいですよね?」
御者台から降りたアルミンは、馬車をラインハルトの馬へと移し替え、自身の馬に飛び乗った。
「じゃーね。ユーリ! ちゃんと陛下に、俺のこと、めちゃくちゃ優秀な用心棒だったって手紙で書いておいてね!」
手を上げられ、ユリウスも事情がよくわからないままに手を振って彼を見送った。
「アルミン、色々ありがとう! 都に行ったときは、また会いに行くから!」
ユリウスの実家までの道中、ラインハルトは一度も口を開かず、不機嫌なオーラを漂わせていた。
その理由がわからないユリウスは、故郷に帰り着くまでに彼の機嫌が治っていることを願うしかなかった。
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