売れ残りオメガの従僕なる日々

灰鷹

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初夜

初夜(1)

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 夕食を終え、順に湯浴みをして自室に引き上げると、扉が閉まりきるより早く、部屋で待っていたラインハルトに抱き寄せられた。頬を押し付けた逞しい胸元から、速すぎる彼の鼓動が伝わってくる。

「ユーリ……。今はまだ、この先に進む気がないなら、俺は客室に行く。お前と同じ部屋にいたら、これ以上自分を抑えられそうにない」
 
 生乾きの髪に、熱を含んだ吐息がかかる。
 恋愛経験のないユリウスにも、言われていることの意味はわかる。
 真っ赤になった顔を上げることはできずに、頬を押し付けたまま震える声を絞り出した。

「ライニ様のご負担にならないのであれば、僕は、その……」

 選定の儀に出かける前に、いわゆる「閨事」については、母から一通り教えを受けた。「この先に進む」というのが具体的にそのうちのどこまでかはわからなかったが、行為に対する不安はない。ラインハルトは、ユリウスは嫌がるようなことは絶対にしないと思えるからだ。
 明日、共にウェルナー城に戻れば、彼はしばらくの間、辺境伯と騎士団長の役目を代行することになり、多忙を極めることは目に見えている。今夜のうちに存分に触れ、彼からも触れられておきたかった。

「ユーリ」

 耳元で囁かれ、顔を上げる。影が落ち、覆いかぶさるように彼の顔が間近に迫ってきて、自分から目を閉じた。
 やわらかな熱が、そっと唇に押し当てられる。馬小屋でしたときと同じで、壊れ物を扱うようなそのぎこちなさが、彼のほうもあまりこういう経験がないように思えて嬉しかった。
 触れては離れ、唇を優しく食まれ、やがてあわいを濡れたもので撫でられる。深いキスは舌同士を絡めるのだと母に教わったことを思い出し、緊張で震えそうな唇を薄く開いた。

 質量のある、やわらかな熱が歯列を割り入って来て、口内で蠢く。初めての感覚に身を強張らせたが、不快ではなかった。舌を絡め合わせ、唾液を啜るように舌先を吸われると、ぞくぞくするような甘い刺激が背筋を走る。
 呼吸は苦しいのに、発情期ヒートの欲情とも異なる、ふわふわした興奮に体が包まれていく。
 合わさった唇の端から飲み込みきれなかった唾液が伝うのも気にせず、夢中で舌を絡め、口内を貪り合った。

 両側から頬を包んでいた手が離れ、片方は耳を擽り、もう片方は背中に周り腰をぐいと引き寄せられる。ローブの上からでもわかるほどに昂った雄を下腹に押し付けられ、余裕のなさを知らしめられる。

発情期ヒート中でないから、やはり最後まではしないほうがいいのだろうな」

 離れた唇が、呻くように呟く。

「あ……、あの……、無理かもしれませんけど……でも、できれば僕は……」
「いいのか?」

 顔を真っ赤に染め、ユリウスは頷いた。
 実家でそういう行為をすることも、自分から欲しいと言い出すのも、死ぬほど恥ずかしい。でも、それを我慢してでも、今夜、彼と最後までしたいと思ったのだ。

「もし……、明日の朝、ユーリが足腰が立たなくなっていたら、俺はしばらくこの家に出入り禁止になるだろうな」

 そう言うラインハルトが本気で困った顔をしていたから、ユリウスはぷっと吹きだしてしまった。

「そうですよ。だから、手加減してくださいね」

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