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3章 死神が誘う遊園地
瑠璃、幼少期 10
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秋が訪れた。冬の準備を始めた木々は緑葉の色を落とし、冷たい風が枯葉をもぐ。その頃から雨が多くなった。
梅雨の体験はしたけれど、秋の雨となるとより一層憂鬱とさせた。夏の6月と違って秋の雨は冷たくて痛い。洗濯ものだって外に干せないから困る。濡れた衣服は日差しに乾かすのが一番なのに。
気温が下がる雨雲を睨む。
朝食は2人分用意している。日本に移住してから唯一母と過ごせる時間だからだ。朝帰りをしてもあたしとご飯を食べてくれる。
なのに、この日は帰ってこなかった。いつもなら帰ってくるはずの時間帯にいくら待っても来ない。
あたしは母の帰りを諦める。時間が経ってしなしなになったパンを食べる。
サクサク感が失われたトーストは美味しくない。2人分用意したサラダもヨーグルトもあたしには多すぎる。
3人で囲むはずのテーブルに2人分の朝食、座るのは1人だけ。
なんだか食欲が薄れてきた。結局トースト1枚だけ食べてあとは冷蔵庫に仕舞う。
朝食を済ませたあとはリビングの掃除と決めているのにその気力でさえ薄れてしまった。
しなければならない。母に幻滅されたくない。わかっているのに身体が重い。
不意に無機質な音が耳に飛び込んだ。特徴的な音からしてガレージのシャッターだろうと推測する。我が家で運転できるのは父しかいない。なら、帰ってきたのは父だろう。
父には会いたくない。対峙したとしてもゴミを見るような目で小言を聞かされる。身体が重たいくらいに憂鬱なのにそんなものを聞かされてはストレスで熱が出てしまいそうだ。
車のエンジンが止まる前に子供部屋に避難する。室内で誰もいない空気を装い、父の行動を把握しようと耳を澄ます。
そこに父の気配はなく、聞こえてきたのは母の声だった。
「荷物持って来る」
「喉が渇いた。水をくれ」
「キッチンはそこ。すぐ戻る」
会話をしている。相手はこの間、母が連れて来た男だ。名前は彰だったか。あの人は父のように睨んだり、嫌味を言ったりしなかった。むしろあたしに対して友好的な態度をとっていた。
だからといって彼に好意は持てない。そして、何よりも母との時間を独占している。
そんな思い込みを勝手にしていた私が彰に対して憎悪が広がっていた。
そもそもあの男は何しに家に来たの?またあたしを除け者にして独占するつもり?
形のなかった憎悪は「帰って欲しい」と言う型取りされた要望となって、自分本位の願いに従ったあたしは子供部屋から出る。
母は自身の寝室で忙しそうに物音を立てている。少しでもいいから母に会っておきたかったけれど、また私を追い出してしまうんじゃないかと陰湿な考えが頭から離れない。
身を潜めて、母に気付かれないよう一階に降りる。
階段の踊り場の物陰に隠れて空様を観察していた。
キッチンにいる彰はタバコを吸い、小刻みに片足を揺らす。
成人男性の苛立ちに危機感を抱く。あの男に「早く帰れ」と言ってやりたかった。タバコを噛み、貧乏ゆすりが止まらない姿は心に余裕のない証だ。こんな奴が子供にまで優しくできるはずがない。
路線を変えることにした。あたしは階段をそのまま降りて地下のガレージに向かう。
憎悪の願いが叶えられなくても嫌な男に報いを与えられないか。子供じみた発想、言い換えれば、くだらない悪戯だ。
梅雨の体験はしたけれど、秋の雨となるとより一層憂鬱とさせた。夏の6月と違って秋の雨は冷たくて痛い。洗濯ものだって外に干せないから困る。濡れた衣服は日差しに乾かすのが一番なのに。
気温が下がる雨雲を睨む。
朝食は2人分用意している。日本に移住してから唯一母と過ごせる時間だからだ。朝帰りをしてもあたしとご飯を食べてくれる。
なのに、この日は帰ってこなかった。いつもなら帰ってくるはずの時間帯にいくら待っても来ない。
あたしは母の帰りを諦める。時間が経ってしなしなになったパンを食べる。
サクサク感が失われたトーストは美味しくない。2人分用意したサラダもヨーグルトもあたしには多すぎる。
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なんだか食欲が薄れてきた。結局トースト1枚だけ食べてあとは冷蔵庫に仕舞う。
朝食を済ませたあとはリビングの掃除と決めているのにその気力でさえ薄れてしまった。
しなければならない。母に幻滅されたくない。わかっているのに身体が重い。
不意に無機質な音が耳に飛び込んだ。特徴的な音からしてガレージのシャッターだろうと推測する。我が家で運転できるのは父しかいない。なら、帰ってきたのは父だろう。
父には会いたくない。対峙したとしてもゴミを見るような目で小言を聞かされる。身体が重たいくらいに憂鬱なのにそんなものを聞かされてはストレスで熱が出てしまいそうだ。
車のエンジンが止まる前に子供部屋に避難する。室内で誰もいない空気を装い、父の行動を把握しようと耳を澄ます。
そこに父の気配はなく、聞こえてきたのは母の声だった。
「荷物持って来る」
「喉が渇いた。水をくれ」
「キッチンはそこ。すぐ戻る」
会話をしている。相手はこの間、母が連れて来た男だ。名前は彰だったか。あの人は父のように睨んだり、嫌味を言ったりしなかった。むしろあたしに対して友好的な態度をとっていた。
だからといって彼に好意は持てない。そして、何よりも母との時間を独占している。
そんな思い込みを勝手にしていた私が彰に対して憎悪が広がっていた。
そもそもあの男は何しに家に来たの?またあたしを除け者にして独占するつもり?
形のなかった憎悪は「帰って欲しい」と言う型取りされた要望となって、自分本位の願いに従ったあたしは子供部屋から出る。
母は自身の寝室で忙しそうに物音を立てている。少しでもいいから母に会っておきたかったけれど、また私を追い出してしまうんじゃないかと陰湿な考えが頭から離れない。
身を潜めて、母に気付かれないよう一階に降りる。
階段の踊り場の物陰に隠れて空様を観察していた。
キッチンにいる彰はタバコを吸い、小刻みに片足を揺らす。
成人男性の苛立ちに危機感を抱く。あの男に「早く帰れ」と言ってやりたかった。タバコを噛み、貧乏ゆすりが止まらない姿は心に余裕のない証だ。こんな奴が子供にまで優しくできるはずがない。
路線を変えることにした。あたしは階段をそのまま降りて地下のガレージに向かう。
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