糸と蜘蛛

犬若丸

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3章 死神が誘う遊園地

瑠璃、幼少期 9

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   いつの日からか来客が多くなった。それは父の秘書を務めるさえりや他の部下だったり、母の友人と名乗る男性だったりもした。そんな時はあたしが紅茶とお菓子を用意して、母がもてなした。
   「エマそっくりだ。しっかり者で可愛らしい。まさに天使の子だ」
   その日も母の友人が遊びに来た。彰と言う男はあたしを褒め讃えけれど、それを素直に受け止められなかった。
   安物のブレザーに柄物のブラウス。ワックスでわざと跳ねた髪が彼の軽薄さを表していて、嫌悪感を抱く。
   「そうでしょう?とってもいい子なのよ。瑠璃、お菓子と紅茶をお願いね」
   そう言ったのなら素直に従うのが子供のあたしだ。彰に対して嫌悪感を抱いてもお湯を沸かしにキッチンに立つ。
   「あの人、束縛が強くなってきたの」
   リビングから深刻な話が聞こえてきた。こっそりと目を向けてみると、彰がその相談を深刻に頷き、母の手を握る。
   「家中にカメラを置くっていうのよ。そうなったら外出もできない」
   「その前に出ないとな。できそうか?」
   「問題はなさそうよ。あの人は疑いもしないわ」
   「なら、よかった。決行は」
   ヤカンの水が沸騰し、彰の声が上書きされる。あたしはすぐさま火を止めて、ティーカップにお湯を注ぐ。その間にも2人の会話が続いていたけれど、お菓子と紅茶を乗せたトレイを持って行った時にはすでに別の話にシフトしていた。
   あたしが2人の前に立つと彰が母の手を放して、繕ったような笑みを浮かべる。
   「ありがとう瑠璃ちゃん。美味しそうなクッキーだ」
   「瑠璃はお菓子作りが得意なの。とっても美味しいのよ」
   母も彰に合わせて笑う。私はどうしても疑惑を払拭できずにいた。
   それは父に対して抱くものと同じ嫌悪感であり、母を盗られてしまうという危機感でもあった。
   「本当にママの友人なの?」
   疑いを持った目つきで質問する。彰が目を泳がせ、少しばかり身を縮ませる。明らかな動揺を見せていた。
   「友人よ。それ以上の関係に見える?」
   たじろぐ彰に助け舟を出したのは母だった。
   「瑠璃は私たちのことをどう見えてる?」
   聞き返されてされて戸惑う。母の笑いながら問うその顔があたしを責めているようで恐かった。あたしは怒られるのに慣れていない。父はあたしと関わろうとしないし、母はいつも優しく笑っていたから。その時の母は別人に見えた。
   「知らなくていいことをわざわざ聞くの?」
   何も答えられずに俯く。
   「ママはね、この人とお話ししたいだけなの。瑠璃は自分の部屋に戻りなさい」
   すっかり意気消沈したあたしは項垂れてリビングを後にした。
   「大丈夫か?あの子が父親に告げ口でもしたら」
   「平気よ」
   リビング前の廊下であたしは聞き耳を立てて会話の続きを聞こうとした。
   「あの人、瑠璃の言うことは信じないの」
   これほど母の言葉が冷たく感じたことはなかった。氷結された母の声に耳が痛くなる。垣間見た母の一面に目を背けたくて、あたしは子供部屋へと急いだ。
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