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4章 闇底で交わす小指
望まなかったもの 10
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「目的ってその子供?」
「そうだよ。ついでにこれ」
蝶男が指したのは十手。
「あと1つは子取りの解放」
「何をする気?」
「ハザマを困らせたい」
お茶目に笑って首を傾げても可愛げもなく、殺意が湧いてくる。
「そんなに睨まないでくれよ」
「だったら気色悪く誤魔化さないで」
「僕の研究を進めるにはハザマは障害なんだ」
「くだらないものの為に子取りを利用するの?」
この質問に自分の感情がこもってしまったと後悔する。
蝶男は手段を選ばない。理解の範疇を超え、他人の尊厳も事務的に踏み潰す。そこにあるのは好奇心のみ。
その動機がくだらない。そんなものの為に胚羊水の胎児たちを利用する。それに嫌悪した。
その感情を読ませてしまった。
天鳥の目が鋭く光った。
「あの奇形児と仲良くなったみたいだね」
あたしは口を閉ざす。
「奇形児はよく懐いたろう。あれでも子取りと同じ怨念の集合体なんだよ」
「だから、何?」
そんなものどうでもいいと装う。
「今は大人しくしていてもきっかけさえあれば子取りと同じになる」
天鳥は近場にいる裸体の女性に触れる。
女性から上がるのは胸クソ悪くなるような悲鳴。身籠ったまま強姦される女性の音声が再生された。
蝶男が裸体の女性の口を塞ぐと悲鳴は消え、胎動する静寂が戻ってくる。
「この音声はね、まだ母体にいた頃の胎児たちが聞いていた声なんだよ。奇形児がどんなものか知っているかい?」
キケイがどういう存在なのか察しはついていた。
けれど、それは考えないようにしていた。一度、考え出すと戸惑い哀れみの情が深くなるから。
キケイたちは身体や精神が未熟な為に堕ろされた胎児の集合体。
あたしが殺される側なら相手を恨まずにはいられない。
だからといって別れを選択した人たちを責められない。望んで授かった命なのだから、望んで選択したんじゃない。
「ごめん、なさい」
不意に聞こえたのは涙に濡れた懺悔の声。振り返るとさめざめと涙で身体を鳴らす女性が立っていた。
ほんの少しバランスを崩せばブドウコから落ちてしまいそうな際どい位置に立っている。
しまった。
あたしの動揺が隙をつくってしまった。
心中で舌打ちをして、裸体の女性へと駆け出す。
「身勝手でごめんなさい」
あたしが手を伸ばした時には遅かった。
彼女は後ろ向きで身体を逸らすとブドウコから落ちていく。下にはカンダタそして、キケイがいる。
「カンダタ!逃げて!」
あたしの声がカンダタの耳に届いた直後、裸体の女性がキケイの前に落ちた。
カンダタは唖然としてあたしの警告にも困惑していた。
「ごめんなさい、こんな最後でごめんなさい。私たちじゃ育てる責任を負えない」
あの音声が胎児たちの記憶から作られたものなら、怨念の集合体であるキケイが中絶した時のことを思い出す。
母親の懺悔に無垢なキケイは見るみるうちに表情が怨みで歪んでいく。
あたしの警告、裸体の女性の懺悔、キケイの変わるよう。それらの要素でカンダタも危機であると察した。
「アアアアッ」
泣き声とは違うキケイの叫び。それは憎しみに染まった叫びだった。
キケイは裸体の女性を鷲掴みにすると力任せに地面に叩きつけた。頭から打たれた女性は1発目で顔が潰れ、懺悔することはなくなった。
殺された側の恨みはそれだけでは治らず、4発5発と原型を失ってもなお、地面に叩きつける。
その間にカンダタはキケイから離れ、ブドウコの壁を登り始める。
その姿がキケイの視界に入り、裸体の女性を手放すとカンダタに手を伸ばす。
その時にはカンダタも手が届かないところにまで登っていた。
「そうだよ。ついでにこれ」
蝶男が指したのは十手。
「あと1つは子取りの解放」
「何をする気?」
「ハザマを困らせたい」
お茶目に笑って首を傾げても可愛げもなく、殺意が湧いてくる。
「そんなに睨まないでくれよ」
「だったら気色悪く誤魔化さないで」
「僕の研究を進めるにはハザマは障害なんだ」
「くだらないものの為に子取りを利用するの?」
この質問に自分の感情がこもってしまったと後悔する。
蝶男は手段を選ばない。理解の範疇を超え、他人の尊厳も事務的に踏み潰す。そこにあるのは好奇心のみ。
その動機がくだらない。そんなものの為に胚羊水の胎児たちを利用する。それに嫌悪した。
その感情を読ませてしまった。
天鳥の目が鋭く光った。
「あの奇形児と仲良くなったみたいだね」
あたしは口を閉ざす。
「奇形児はよく懐いたろう。あれでも子取りと同じ怨念の集合体なんだよ」
「だから、何?」
そんなものどうでもいいと装う。
「今は大人しくしていてもきっかけさえあれば子取りと同じになる」
天鳥は近場にいる裸体の女性に触れる。
女性から上がるのは胸クソ悪くなるような悲鳴。身籠ったまま強姦される女性の音声が再生された。
蝶男が裸体の女性の口を塞ぐと悲鳴は消え、胎動する静寂が戻ってくる。
「この音声はね、まだ母体にいた頃の胎児たちが聞いていた声なんだよ。奇形児がどんなものか知っているかい?」
キケイがどういう存在なのか察しはついていた。
けれど、それは考えないようにしていた。一度、考え出すと戸惑い哀れみの情が深くなるから。
キケイたちは身体や精神が未熟な為に堕ろされた胎児の集合体。
あたしが殺される側なら相手を恨まずにはいられない。
だからといって別れを選択した人たちを責められない。望んで授かった命なのだから、望んで選択したんじゃない。
「ごめん、なさい」
不意に聞こえたのは涙に濡れた懺悔の声。振り返るとさめざめと涙で身体を鳴らす女性が立っていた。
ほんの少しバランスを崩せばブドウコから落ちてしまいそうな際どい位置に立っている。
しまった。
あたしの動揺が隙をつくってしまった。
心中で舌打ちをして、裸体の女性へと駆け出す。
「身勝手でごめんなさい」
あたしが手を伸ばした時には遅かった。
彼女は後ろ向きで身体を逸らすとブドウコから落ちていく。下にはカンダタそして、キケイがいる。
「カンダタ!逃げて!」
あたしの声がカンダタの耳に届いた直後、裸体の女性がキケイの前に落ちた。
カンダタは唖然としてあたしの警告にも困惑していた。
「ごめんなさい、こんな最後でごめんなさい。私たちじゃ育てる責任を負えない」
あの音声が胎児たちの記憶から作られたものなら、怨念の集合体であるキケイが中絶した時のことを思い出す。
母親の懺悔に無垢なキケイは見るみるうちに表情が怨みで歪んでいく。
あたしの警告、裸体の女性の懺悔、キケイの変わるよう。それらの要素でカンダタも危機であると察した。
「アアアアッ」
泣き声とは違うキケイの叫び。それは憎しみに染まった叫びだった。
キケイは裸体の女性を鷲掴みにすると力任せに地面に叩きつけた。頭から打たれた女性は1発目で顔が潰れ、懺悔することはなくなった。
殺された側の恨みはそれだけでは治らず、4発5発と原型を失ってもなお、地面に叩きつける。
その間にカンダタはキケイから離れ、ブドウコの壁を登り始める。
その姿がキケイの視界に入り、裸体の女性を手放すとカンダタに手を伸ばす。
その時にはカンダタも手が届かないところにまで登っていた。
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