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7章 赤い珠が映す空想未来
一寸先は深淵 4
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紅玉と会話しても堂々巡りになるだけだと影弥は紅玉をすり抜けていく。
「君はここで待ってて」
影弥の声はこれまでより一層冷たく、背中はより一層怪物じみていた。
影弥がいなくなり、夜に囲まれてから紅玉はやっと未来視をしなければと思い至った。
影弥がこれまでにない動きを見せた。遠く、避けていた人喰い塀に近づきに行った。未来だって大きく変わっているはずだ。
当たり前の閃きが遅くなってしまったのはそれぐらい混乱していたからだ。
寝ぐらになってしまった地蔵の隣で丸くなり、夢を見るように未来を視る。
しかし、目が回るような濁流はなく、浮かぶのは不安で作る想像しかなかった。
今までこんな事はなかった。見たくないのに見る事は多いのに見たい時に見れないとは思わなかった。
まさか、自分の感情で左右されてしまうのだろうか。
不安になっているものはたくさんある。そのどれもが大人しく座って夢見て解消されるものではない。
じっと待つのは紅玉の性分ではないと思い出して立ち上がった。
何も考えられず真っ直ぐに紅玉は人喰い塀へと向かっていた。
既になくなった影弥を追いかけて囲われた妹を求めて人食い塀へ。光より速くなれるよう祈りながら走った。
それでも月は紅玉より早く進みむので焦りに焦ってたくさんの汗が流れた。
人食い塀に着いたとき、影弥の姿はなかった。
近づくのは怖かったので人喰い塀は豆粒ほどの大きさしか見えない。
「かげ、どこ?」
大声で出すと蝶男に見つかるかもしれない。自分にしか聞こえないような声で問いかけた。
身体が草木に隠れるようにしてしゃがみこんだ。
草木と夜の黒が紅玉を隠してくれる。そう信じて団子虫のような格好ではいながらゆっくりと影弥を探す。
「かげ、いないの?」
あてにもならない小さすぎる呼び声では誰も届かない。それでなくても紅玉の周囲には人の気配がない。
もしかしたらすでに影弥は人食い塀にいるのかもしれない。そうなれば紅玉にできることはない。
ならば急いで地蔵の洞穴まで戻って影弥を待つかと夜の深さに呑まれそうになった思考を払った。
弱気になるのは紅玉に覚悟がないからだ。紅玉も大切なものを差し出さなければならない。
影弥は自身の生涯と存在理由を賭けている。それと同じくらいの覚悟が必要なのだ。
草木に身を潜め、豆粒ほどしか見えない距離で探しても何もしてないのと同じだ。
紅玉は勢い良く立ち上がり、同じ勢いで走り出す。
豆粒ほどだった人食い塀が大きくなり、「かげ」と大声で呼ぶ。
視界が草木と夜の黒さで埋まっていて、それでいて人喰い塀しか見えていなかった。足元がおろそかになっていたので、あっさりと間抜けに転んだ。地面が少しだけ傾いていたから二、三回ほど身体が回転する。
死んだ身なので痛みはないが、夢中で走っていた時に横槍を入れられた。地面に伏して行儀悪く悪態をついてしまう。
その苛立ちはすぐに消えた。
紅玉は幽体だ。基本、物に触れられない。小石ぐらいなら意識すれば触れられるが、不意打ちされたように転んだりしない。
だとしたら紅玉は何に、どうやって躓いたのか。
地面に臥したまま振り返る。そこには紅玉よりも幼い男の子がいた。
雲が晴れて明るい満月が顔を出す。月光の下に照らされた男の子の顔には黒蝶の模様があった。
見つかったのだと悟った。逃げないと。
悟った次の瞬間には立ち上がっていた。そして、その次の瞬間には手首を掴まれた。
「君はここで待ってて」
影弥の声はこれまでより一層冷たく、背中はより一層怪物じみていた。
影弥がいなくなり、夜に囲まれてから紅玉はやっと未来視をしなければと思い至った。
影弥がこれまでにない動きを見せた。遠く、避けていた人喰い塀に近づきに行った。未来だって大きく変わっているはずだ。
当たり前の閃きが遅くなってしまったのはそれぐらい混乱していたからだ。
寝ぐらになってしまった地蔵の隣で丸くなり、夢を見るように未来を視る。
しかし、目が回るような濁流はなく、浮かぶのは不安で作る想像しかなかった。
今までこんな事はなかった。見たくないのに見る事は多いのに見たい時に見れないとは思わなかった。
まさか、自分の感情で左右されてしまうのだろうか。
不安になっているものはたくさんある。そのどれもが大人しく座って夢見て解消されるものではない。
じっと待つのは紅玉の性分ではないと思い出して立ち上がった。
何も考えられず真っ直ぐに紅玉は人喰い塀へと向かっていた。
既になくなった影弥を追いかけて囲われた妹を求めて人食い塀へ。光より速くなれるよう祈りながら走った。
それでも月は紅玉より早く進みむので焦りに焦ってたくさんの汗が流れた。
人食い塀に着いたとき、影弥の姿はなかった。
近づくのは怖かったので人喰い塀は豆粒ほどの大きさしか見えない。
「かげ、どこ?」
大声で出すと蝶男に見つかるかもしれない。自分にしか聞こえないような声で問いかけた。
身体が草木に隠れるようにしてしゃがみこんだ。
草木と夜の黒が紅玉を隠してくれる。そう信じて団子虫のような格好ではいながらゆっくりと影弥を探す。
「かげ、いないの?」
あてにもならない小さすぎる呼び声では誰も届かない。それでなくても紅玉の周囲には人の気配がない。
もしかしたらすでに影弥は人食い塀にいるのかもしれない。そうなれば紅玉にできることはない。
ならば急いで地蔵の洞穴まで戻って影弥を待つかと夜の深さに呑まれそうになった思考を払った。
弱気になるのは紅玉に覚悟がないからだ。紅玉も大切なものを差し出さなければならない。
影弥は自身の生涯と存在理由を賭けている。それと同じくらいの覚悟が必要なのだ。
草木に身を潜め、豆粒ほどしか見えない距離で探しても何もしてないのと同じだ。
紅玉は勢い良く立ち上がり、同じ勢いで走り出す。
豆粒ほどだった人食い塀が大きくなり、「かげ」と大声で呼ぶ。
視界が草木と夜の黒さで埋まっていて、それでいて人喰い塀しか見えていなかった。足元がおろそかになっていたので、あっさりと間抜けに転んだ。地面が少しだけ傾いていたから二、三回ほど身体が回転する。
死んだ身なので痛みはないが、夢中で走っていた時に横槍を入れられた。地面に伏して行儀悪く悪態をついてしまう。
その苛立ちはすぐに消えた。
紅玉は幽体だ。基本、物に触れられない。小石ぐらいなら意識すれば触れられるが、不意打ちされたように転んだりしない。
だとしたら紅玉は何に、どうやって躓いたのか。
地面に臥したまま振り返る。そこには紅玉よりも幼い男の子がいた。
雲が晴れて明るい満月が顔を出す。月光の下に照らされた男の子の顔には黒蝶の模様があった。
見つかったのだと悟った。逃げないと。
悟った次の瞬間には立ち上がっていた。そして、その次の瞬間には手首を掴まれた。
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