糸と蜘蛛

犬若丸

文字の大きさ
638 / 644
7章 赤い珠が映す空想未来

止まった時間 9

しおりを挟む
 相手を苦しめるためか、なぶり殺すようなやり方に背筋を凍らせながらも紅玉は「止めて」と声を裏返して叫んだ。
 見えているはずなのに、聞こえているはずなのに、いつまでたっても紅玉を見てくれない。
 尽くしている恩を返せとは言わない。紅玉の望みは視界に入れてほしいだけだ。私もいるんだよと知って欲しい。
 屋敷で過ごしたこの数年はそんな感情の積み重ねであり、それは今の紅柘榴と同じように爆発した。
 「いい加減にしてよ!私を見てよ!聞いてよ!」
 林の静寂よりも人の生活が燃えている音よりも悲鳴よりも金切り声よりも紅玉は大きな声で訴える。
 すると紅柘榴が前屈みになった状態で動きが止まった。
 着地した男を捕まえに脚を上げたところなので、そこでぴたりと止まったのは不自然であった。
 闇に目を凝らすと紅柘榴の身体には銀色の蜘蛛の糸のようなものが巻きついていた。
 男に向けられた眼光が紅玉に向けられ、命の危機のような恐怖を感じが、自分には命がないのだとすぐに思い出し、拳を握った。
 「今更私が怖がるとでも思ったわけ!?なるわけないでしょっ!」
 泣いているのを悟られないよう顔を俯かせ、震える声を隠すため、裏側になって叫んだ。
 「私だって同じなのにっ私だってべにと同じなのにっ!私の人生だって奪われたのに!私の声を聞いてよっ見てよっ」
 視界が滲んで涙が落ちる。まともに紅柘榴の顔が見れなくてずっと下を向いていた。
 「違うの」
 金切り声じゃない紅柘榴の声で紅玉は顔を上げた。泣き顔を見られても気にならなかった。人に戻った紅柘榴も泣いていたから。
 「失くしたものを探し続けてもいない人はいない。こうにも彼にも迷惑かけている。こうは傍にいてくれるから寂しくなることはないのに。でも、会いたいの」
 火付けの犯人は紅柘榴が紅玉に向けられた途端に足を引きずってどこかへと逃げていった。
 そんな男に目もくれず、紅柘榴は力なく座り込んだ。紅玉も拘束する必要もなくなり、糸は消えてしまった。
 紅玉は紅柘榴に近寄って頬に手を添える。涙を拭おうとしても触れられないから泣き続ける。
 冬の寒さから守ろうとして抱きしめても体温は分けてあげられない。心音も聞こえないし、強く抱きしめればすり抜けてしまう。
 生者を支えられるのは生者だ。
 なら、死人の紅玉にできることはなんだろうか。
 考えなくても結論はでている。
 覚悟が決まった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

診察室の午後<菜の花の丘編>その1

スピカナ
恋愛
神的イケメン医師・北原春樹と、病弱で天才的なアーティストである妻・莉子。 そして二人を愛してしまったイケメン御曹司・浅田夏輝。 「菜の花クリニック」と「サテライトセンター」を舞台に、三人の愛と日常が描かれます。 時に泣けて、時に笑える――溺愛とBL要素を含む、ほのぼの愛の物語。 多くのスタッフの人生がここで楽しく花開いていきます。 この小説は「医師の兄が溺愛する病弱な義妹を毎日診察する甘~い愛の物語」の1000話以降の続編です。 ※医学描写はすべて架空です。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

処理中です...