糸と蜘蛛

犬若丸

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7章 赤い珠が映す空想未来

邂逅してから 1

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 火事の騒ぎから帰ってくると影弥が逃げる準備をしていた。
 紅柘榴の徘徊は慣れたものだが、火事と嘘のような妖怪騒ぎが聞こえてきた。それが白鬼だとすぐにわかった影弥はもうこの屋敷には住めないと判断し、夜逃げの準備を終え、紅玉たちの帰りを待っていた。
 紅玉は一先ず、すぐにでも逃げようとする影弥を落ち着かせて、全裸の紅柘榴に服を着せた。
 早朝となった頃には騒ぎも落ち着いて、夜逃げの準備もいらなくなった。それから紅玉と紅柘榴が影弥に話したいことがあると言って、朝食を後回しにし、二人と一人は正座して向き合った。
 紅玉が話したいことが予測できた。また蝶男を倒したいとかだろう。だが、紅柘榴も紅玉と同じ面持ちをしている。松の木で時間を過ごしてきた顔でも夜に徘徊する顔でもない。
 切り出したのは紅玉だった。
 「私はべにに子供と、白蓮を会わせたい」
 開口一番に蝶男を倒すと言わなかったことに安心したが、また難しいことを言い出した。
 「二人の魂は蝶男のもとにいる。黒蝶さえなくなればべには再会できる」
 「それは」
 可能ではある。魂と黒蝶を切り離せるのは鋏だ。鋏を持った魂は紅柘榴はできるだろうが、心を失った彼女にそれができるのか。
 疑問を持ちながら紅柘榴を見れば今日の夜でも悲しみでもない強い目線で見つめ返された。
 「けど、それだと蝶男を倒すのと変わりない」
 「そうだよ」
 きっぱりと紅玉に言われて言葉を失った。
 前と同じ口論はしたくなかった。彼女たちが危険を犯さずともここで平穏に暮らしていけるとどうしたらわかってくれるだろうか。
 「私からもお願い」
 途方に暮れていると今度は紅柘榴が話を始める。
 「あの子たちがまだ苦しんでいるなら私にできることをしたい。失ったものに泣き続けるのは疲れたから」
 「お願いかげ。私はいつか輪廻に流される。その時まで抗いたい」
 紅玉と見つめ合い、気持ちが伝わった。彼女は平穏なんて望んでなかった。
 平和と呼ばれるようなこの日々。しかしそれでは生きている実感が得られない。死者である紅玉は何よりもそれを欲しているのに。
 妹と再会してそれから何も考えずに暮らせばいいものを、どうやら二人揃って動かずにはいられないようだ。
 「じゃじゃ馬娘どもめ」
 呆れて怒るように、しかし愛おしくなりながらも呟いた。
 それとも涙でも流せたら二人の気持ちは揺らぐだろうが、不思議とあの時あったような涙は流せなかった。
 「約束してほしい。紅玉、必ず帰ってきてくれ」
 これだけは絶対に譲れないと影弥は紅玉に約束させ、彼女は一度だけを頷いた。
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