微笑みの貴公子に婚約解消された私は氷の貴公子に恋人のふりを頼まれました

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シリル視点②

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 僕は13歳から18歳までの5年間をラナンクルスで過ごすことになった。

 


 ラナンクルスは周囲を険しい山々に囲まれた国。

 けれどあと数年経てば、我が国とラナンクルス王国を繋ぐ街道が整備される予定だ。一番の難所であったスネール川に橋が架かれば交易も盛んになるだろう。それを見越した貴族たちは、ラナンクルス王国の良質な絹織物や鉱物資源を求めて行動を起こしている。

 父は我が公爵家とラナンクルスの貴族との婚姻も悪くないと考えていたみたいだった。けれど、僕はラナンクルスの貴族のような結婚生活は出来ない。

 ラナンクルス王国では、結婚と恋愛は全く別物だと考えている。
 結婚は家のためのもの。
 恋愛は自分のためのもの。

 その割り切り方は徹底的で、跡継ぎが生まれた後はお互いに恋人と過ごす時間の方を優先する。

 夫や妻の事は家を守るための共同経営者のような感じで、夫婦同士の会話を聞いていても、実に冷めていた。

 僕には無理だと思う。
 好きでも無い女性を抱ける気がしない。

『自由な恋愛の国』と聞いていた。それはこの国の恋愛には身分差が無いことや、お互いが良ければ複数相手の恋愛も可能だからだ。
 結婚に関していえば、本人の意思や恋愛感情は全く考慮されない、そんな国。
 
 教会で避妊魔法が受けられることや、子供が父親の実子かどうかが鑑別可能であることが背景にある。

 新しく出来た友人たちは、沢山の自国の女性を紹介しようとしてきた。けれど、ヴィア先生以上に惹かれる人なんて居なかった。

「単なる憧れだろ?」
「年上って良く見えるんだよ」
「記憶を美化してるんじゃないのか?」
「七歳も年上なら、もう今頃結婚してるさ。いい加減、諦めろよ」

 友人たちはそんな風に言うけれど、僕はどうしても新しい恋をする気持ちにはなれなかった。



 
 ラナンクルスでもパーティーや夜会で多くの令嬢にアプローチを受けた。自国では身分の低い女性は僕に声を掛けて来ないが、ラナンクルスでは恋愛には身分差がない。だから、街で声を掛けられることさえある。

 しかもこの国の女性は積極的で、中途半端な態度では誘いを断り切れない。

 だから、アプローチしてくる女性に誤解を与えないように冷たく振る舞うようにしてきた。
それがあまりに習慣化していたため、僕は帰国後『氷の貴公子様』なんて不本意なあだ名を付けられることになったのだが……。

 ラナンクルスへの留学で僕は自分の気持ちを確信していた。そして、結婚相手にヴィア先生を望むようになっていた。
 
 この気持ちはただの憧れなのか、初恋の記憶を美化しただけなのか……それとも……。








 帰国してヴィア先生に再会した時、その顔があまりにも懐かしくて胸が熱くなった。

 彼女は僕の記憶のままの姿。
 声を掛けてきたのが僕だと分かると、ふにゃりと表情を崩した。少し眉を下げて困ったように見えるその笑顔も大好きで……。

 ヴィア先生が婚約を解消されたタイミングでの再会。ヴィア先生の婚約者は別の女性と運命的な出逢いをしたと言っていたようだったが、僕にとってもヴィア先生との再会は運命的だった。

 ああ、憧れでも、美化でもない。
 確かに僕はヴィア先生を……。
 
 心地よく響く透き通るような声、会話のリズム、知的で洗練された話題、柔らかく女性らしい曲線美、甘い香り。ふっくらとした白い手は指先だけがほんのりピンク。そんな細かい所まで、記憶のままの彼女だった。

「僕の婚約者になってもらえませんか?」

 ダンス中、ヴィア先生に婚約を申し込んだのに、年齢差を理由に断られた。

 身長も伸びた。
 結婚出来る年齢になった。
 顔も大人びたと思う。

 けれどまだ、僕は彼女の恋愛対象では無いらしい。
 父親に縁談を探してもらうなんて言うから、慌てて「恋人のフリをしてくださいませんか?」なんてお願いをした。

 ダンスを踊りながらも、彼女のふっくらとした唇を見てしまう。ピンク色の柔らかそうな唇から漏れる涼やかな声。今の僕には扇情的で……。唇に触れたいなんて不埒な妄想を抑えるのに必死になりながらダンスを踊った。

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