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狩猟会
しおりを挟むシリル様は遊覧船デートの後もお休みの日にはデートに誘ってくれた。王都中のデートスポットを巡り、もう行ってない場所なんか無いってぐらい。
母や友人たちは会うたびに「愛されているわねぇ」なんて揶揄う。
本当は恋人のフリをしているだけです、なんてことは言えなくて私は苦笑いをしながら聞き流していた。本当の事を黙っているのが心苦しい。
シリル様は女性の扱いに慣れているしプレゼントだってセンスが良い。
きっとたくさんの女性たちとお付き合いしてきたのだろう。いつも完璧なエスコートで優しい笑顔を浮かべながら甘いセリフを吐く。照れもせずに、スラスラと紡がれる甘いセリフは本心ではないと思う。なのに、ときめきそうになって困る。
時々、すぐに照れて顔を真っ赤にしていた彼を懐かしく思う。
私はというと、そんな甘いセリフは聞こえないフリ、もしくは冗談として受け止めてやり過ごしていた。
年上として、激甘の口説き文句に狼狽える姿をいつまでも晒すわけにはいかない。
微笑みの貴公子から婚約解消された直後に氷の貴公子からのアプローチを受けた私にみんな興味津々で、お茶会や夜会へのお誘いが一気に増えた。
主に噂好きのご夫人たちから。
シリル様は社交界での人気者なのに、私以外の令嬢には一切笑わない。アプローチした令嬢たちは皆その凍りつきそうな視線に晒され玉砕するそうだ。
そんな『氷の貴公子様』が私には優しい笑顔を見せるから、その笑顔を見たい噂好きの貴族が私達二人を一緒に夜会に招待した。
「私とこんなに噂になって大丈夫?」
「何が?」
「シリルに本当に好きな人が出来た時、その人を口説きにくいでしょ?」
「心配しなくても大丈夫。僕にはヴィアしか見えないよ」
「そう……?」
「ヴィア以上に魅力的な人なんて居ないよ。可愛い声も、その控えめな性格も大好きだよ。だからもう少し恋人のままでいて?」
まるで本物の恋人に言うような甘いセリフ。
そしてシリル様は、言われる方が照れてしまうようなこんなセリフを真顔で言うことが出来てしまうのだ。
騙されないぞ、なんて心の中で唱える。
「まだ成人したばっかりのくせに、からかわないでよ」
そしてこの甘いセリフを冗談にすることで、私は平常心を保つ。
新しい恋なんていつするか分からないのに、シリル様は呑気。
私はシリル様に甘やかされてその気になってしまう前にこの関係を解消したいのに、シリル様はなかなか私を開放してくれなかった。
~・~・~・~・~
そんなある日、招待されたお茶会で遊覧船で会ったアリア様と再会した。アリア様はウィリデ侯爵家のひとり娘だそうだ。
「ヴィア様ってシリルの恋人だそうね。この間はデートを邪魔しちゃってごめんなさい。私、シリルに恋人が居ることも知らなかったのよ。これからは私とも仲良くしてね」
「宜しくお願いします。ウィリデ様」
「うふふ、友達なんだから、名前で呼んで」
「アリア様?」
「ええ、宜しくフラヴィア様」
ニッコリ笑うアリア様から敵意は感じない。
アリア様はシリル様と同じ18歳で、幼い頃はよく一緒に遊んだらしい。
サラサラストレートのアッシュブロンドに、透き通るような空色の瞳。明るい陽の下で見ると見惚れてしまうような美少女だ。
その後も何故かお茶会や夜会でアリア様と会うことが増えた。
私がご夫人方にシリル様との仲を追求されていると、アリア様はさりげなく助けてくれる。
ここぞというときにタイミング良く話題を逸らせてくれるので助かっていた。
「アリア嬢と友達に?」
「ええ、アリア様ってとっても素敵な方ね」
「……そう?」
「……?」
「ヴィア、アリア嬢とは絶対に二人きりにならないで。必ず護衛を同席させること。ウィリデ侯爵家からはしつこいぐらいずっと縁談が来ているんだ。警戒して欲しい」
シリル様ってやけに用心深いわね。幼馴染みを疑うなんて……。
「分かったわ。二人きりにはならないようにする。それでいい?」
「うん」
シリル様はそれでも心配らしくて、アリア様と一緒だったお茶会の様子は必ず知りたがるし、彼女から貰ったプレゼントも調べると持ち帰ってしまう。
そんなに疑わなくても……、なんて思っていた。
~・~・~・~・~
「え?狩猟会?」
「うん、王太子殿下からのお誘いで断れなくて」
「私も?どうして?」
「あいつ……いや、殿下が。僕の恋人を見たいって、……あの人結構我儘だから」
狩猟会では婚約者や妻に大きな獲物をプレゼントするのがお決まり。
シリル様は私の所に来ると跪いて私の手を取り指先に口づけた。
「ヴィア、僕の気持ちを示すためにも大きな獲物を取って来るよ。だから、来て欲しい」
「ええ、楽しみにしてるわ」
私はシリル様の甘いセリフにすっかり動じなくなっていた。だってこれは演技だもの。
こうして私は王家主催の狩猟会に参加することになった。
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