微笑みの貴公子に婚約解消された私は氷の貴公子に恋人のふりを頼まれました

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押し掛けビビアン様

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  王家所有の森で開催される狩猟会に参加するのは初めて。その規模は噂に聞いていたけれど予想以上に大規模なものだった。

 出陣式には主催者である王太子殿下が挨拶に立つ。この狩猟会は若い貴族令息が己の戦闘の技術を披露する場であり、その戦果は武勇伝にもなる。凛々しく真剣な表情で話を聞く貴族令息たち。
 シリル様は少し緊張しているのかもしれない。高揚した表情からは、彼が張り切っているように見えた。


 その後は令嬢たちが楽しみにしている儀式。


 令嬢たちはそれぞれの意中の男性に自分の作ったリボンを渡して手首に結ぶ。男性は獲った獲物の脚にリボンを括り付けて令嬢に贈るのが習わしだ。
 
「シリル、気をつけてね」

「ヴィア、誰よりも大きな獲物を君に。僕があの頃みたいな子供じゃ無いってことを示して見せるよ」

「無理……しないでね?」

「僕が本気だってことを見せたいんだ。ヴィアを誰よりも愛しているのは僕だってことをね」

 また、大袈裟な……。なんて思いながらシリルの右の手首にリボンを巻いていると、前髪に何か柔らかな物が触れる感触、そして小さなリップ音が聞こえた。

「「「きゃあ~~っ!!」」」

「ん?」

 どうやらシリルが私の髪に口づけをしたらしい。顔を上げるのが怖いわっ。

 シリル様の態度が私にだけ露骨に違うから、何をしても注目されて困る。私は口説かれるのに慣れていないんだから、人前での甘いセリフはご容赦いただきたい。

 


 


 
 主に狩るのは小型から中型の魔獣だが、怪我人の救護のための救護テントも準備されていた。

 女性たちは気合を入れて美しく着飾り、森に入る手前の拠点でお茶会を楽しみながら、パートナーの帰還を待つ。

 女性たちが待つ拠点には巨大なベル型のテントがいくつも用意され、中にはテーブル席やソファーが準備されていた。
 
 テントはオープン。それぞれの場所ごとに置いてある食べ物も、休憩スペースのレイアウトも全て異なり、待つ時間も飽きないように工夫されていた。

「わー、すごいわ」
 
 テントの真ん中に鎮座しているのは、見たことのないような大きくて美しい飴細工の菓子。鷹を象っていて、今にも飛び出しそうな勇壮な姿。

 飴……だよね?端から割って食べろってこと?
 芸術的過ぎて崩す勇気は無い。

 他にも、王都で人気のマカロンや、フィナンシェ、一口サイズのケーキが所狭しと並んでいて目を楽しませてくれた。

 流石王家主催の狩猟会。規模が違う。


「フラヴィア様、こちらで一緒にお喋りしませんか?」

 アリア様に手招きされ、アリア様たちが居るテントの中に入った。そこには五人が座れる丸いテーブルが準備されていて、アリア様の他に夜会などで見たことのある令嬢たちが座っていた。 

「アリア様、ありがとうございます」

 高位貴族のご夫人方と一緒になると、シリル様との関係を追求されそうなので、ここに居ることにした。

「フラヴィア様は狩猟会への参加は初めてですの?」
「ええ、初めてなので戸惑うことばかりですわ」
「ふふっ。去年はレッジェ卿が一番大きな獲物を持ち帰りましたの」
「まあ!それってどれぐらいの大きさですの」
「大きな男性二人分ぐらいの体重だったそうですわ」

 アリア様は相変わらずシリル様の話題は避けてくれた。私は去年までの狩猟会の話を聞きながらお茶を飲み、和やかな会話を楽しんでいた。

「……っ」

「フラヴィア様、どうなさいました?」

「少し目眩が……」

 会話の途中、突然視界がぐらぐらと揺れて……。
 倒れそうになった所をアリア様に支えられた。

「まあ!今日は暑いですし、体調を崩しては大変ですわ。救護テントでお休みになっては?」

「ええ。そういたします」

「ミリー、フラヴィア様を救護テントへ」

「は、はい」

 アリア様がそばにいた侍女に声を掛けてくれて、その侍女に案内された救護テントのベッドで休むことにした。

「カリテス伯爵家の者を呼んでください」

「畏まりました」

 救護テントには待機中の医師や看護師がいたので、私はその侍女にカリテス伯爵家の者に私の居場所を伝えるように言付けた。

 ベッドで横になると、急激な眠気が襲ってきて……。







    


「フラヴィア様~っ!!」

「……」

「起きてください。フラヴィア様っ!!」

強烈な眠気の中、身体をグラグラ揺さぶられて目を開けると

「ビビアン様?」

「フラヴィア様~!私の相談に乗ってください。私、もう限界なんですっ!!」

「な、何……?」

 目を開けると、ビビアン様が泣きじゃくりながら私のお腹に縋りついていた。

 私は……救護テントの中で寝てるのよ?
 普通体調の悪い人を無理やり起こす?

「ビビアン様……申し訳無いけど、私……眠いのよ」

「そんなぁー。フラヴィア様まで、私を見捨てるんですかー?」

 何故……私?

「二人で幸せになってって言ったじゃないですかっ!」

 え……っ……そこ?

「アンドレア様ったら、婚約した後も全然私を特別扱いしてくれなくてぇー。夜会に出てもエスコートしてくれるだけで、他の女性ひとに呼ばれると直ぐにそっちに行っちゃうし。私の事は放ったらかしですよー。酷くないですか?婚約者っていっても全然特別扱いしてくれないしー、文句言ったら『フラヴィアはそんなに口煩く無かった』って溜息吐いたんですよ?信じられないですよね?両親に相談したら『貴女が選んだ男でしょ?』って。私見捨てられたんですよ?可哀想ですよね?アンドレア様ってば、今日の狩猟会でも私以外の令嬢のリボンをいっぱい受け取ったんですよ?腕にぐるぐるにリボン巻いて……。そんなに沢山受け取ったのアンドレア様だけですよ?馬鹿みたいっ!フラヴィア様は元婚約者ですよね?文句言わなかったんですか?アンドレア様ってずっとあんな感じ?もう私、耐えられませんっ!!」

 眠くて、眠くて、意識が沈みそうになると、ビビアン様に揺さぶられて起こされて、怒涛の愚痴を聞いた。

 ちょっと、医師は?
 看護師は?
 何故、私達二人きりなのよ……。

「フラヴィア様、聞いてます?それでね、私さっきとうとう大爆発して、アンドレア様に向かって怒鳴ったんです。『この浮気者ーーっ』って。そしたら『こんな癇癪持ちだとは思わなかった。見た目に騙された。もっとお淑やかだと思ったのに。こんな事ならフラヴィアにしておけば良かった』なんて言うんですよっ!私、悔しくて……。女なら誰でも怒りますよね?悪いのはアンドレア様ですよね?フラヴィア様、聞いてます??」

 ビビアン様ってよく喋る子だったのね。

 



 









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