微笑みの貴公子に婚約解消された私は氷の貴公子に恋人のふりを頼まれました

文字の大きさ
20 / 25

グラディウス公爵邸

しおりを挟む
 


 私とシリルは本物の恋人同士になったーー


 社交界では、王家の狩猟会の事件の主犯がアリア様だったという話題でもちきり。
 アリア様の取り巻きをしていた令嬢たちや、ティリス侯爵家と深く付き合っていた貴族たちは、社交界での居場所を失った。

 ティリス侯爵は他にも違法魔道具の製造や売買にも関与していたことが露呈し、爵位を失い収監。アリア様は王都を追放になり、母方の遠縁に当たる伯爵家にメイドとして仕えることになったそうだ。

「アリア様がメイドを?」
「うん。ティリス侯爵家は名門だから姻戚筋も多いんだけど、アリアを引き受ける家はムスカ伯爵家だけだったんだ」

 ムスカ伯爵家は王都に近い場所に領地があり古い歴史を持つ家柄。伯爵夫妻は領地に居るが、長男のライアン様は王宮で参謀補佐として出仕している。

「メイドなんて……アリア様には辛いんじゃないかしら?」

「そうだろうね。ムスカ伯爵家にはアリアと同じ年齢のリリーベル嬢が居るんだ。昔、リリーベル嬢のデビュタントをアリアが台無しにしたらしいよ」

「え?」

「デビュタントのドレスにワインを掛けたって話さ。僕はラナンクルスに居た時の話だから詳しくは知らないんだけどね」

 デビュタントの白いドレスは何年も前から母子で準備する大切なもの。アリア様ってこんな酷い嫌がらせもしていたのね。

「その時は侯爵令嬢であるアリアには文句も言えず、泣き寝入りしたらしいね。ムスカ伯爵家はアリアに恨みがあるだろうから、苦労すると思うよ。」

「そんな場所……アリア様、大丈夫かしら?」
 
 私を傷つけようとした人だけど、それほど恨む気持ちにはなれなくて……。
 メイドをするなんて、侯爵家の令嬢だったアリア様には耐え難い仕打ちかもしれない。

「ブツブツ文句言いながらも最近は仕事を覚えてちゃんと働くようになったって、ライアンが言ってたな。アリアが逃げ出さないようにムスカ伯爵家で監視してくれてるし、安心さ」

「そう、それなら良かった」   

 そして、最近ムスカ伯爵領で開催される、領主邸のパーティーには、王都の貴族も参加しているそうだ。

 王都で開催されるわけでも無いのに、そのパーティーに赴く理由は一つ。アリア様の落ちぶれた姿を見るため。

 噂好きの令嬢たちは、王都でのお茶会でアリア様の働きぶりを話題にしている。

「アリア様、パーティーで給仕をなさってましたわ。慣れない作業にご苦労なさっていて、お可哀そうでした」

「まあ!わたくしもムスカ伯爵邸のパーティーに来月招待されていますの。慰めて差し上げなくちゃ」

 同情するような事を言いながら扇の奥で嘲笑している人たち。だけど、彼女たちはただ噂好きってわけでも無い。
 昔アリア様に嫌がらせを受けていた令嬢は意外と多いそうだ。
 だからーー

「自分で蒔いた種ってこと?」
「そうさ。ヴィアが気にすることは無いよ」
「……うん」
「このお話は終わりにしよう。そろそろ家に着くよ」
「ええ。大丈夫かしら」
「ヴィアなら平気さ」

 馬車が門をくぐりしばらく走ると、城みたいな屋敷が見えてきた。相変わらず大きい。

 今日、私はグラディウス公爵邸へ来ていた。
 彼のご両親への挨拶のためだ。

「ご両親は反対なさらないかしら?」

「二人とも祝福してくれるよ。心配しなくてもいいよ」

「そう?服装は変じゃ無い?」

「ヴィアはいつでも、何を着ても可愛いよ」

 そう言うとシリルは私のこめかみに唇を落とす。そして赤くなった私を見て満足そうに笑った。

 もう……っ。 
 シリルって、こういう事どこで覚えて来るのだろう。交際の経験なんて無いって言ってたのに、私だけが翻弄されて悔しい。
  


 
 公爵邸に入ると使用人さんたちが勢揃いして私を迎えてくれた。

「お久しぶりです、フラヴィア様。わたくしたち皆でフラヴィア様がシリル様の婚約者として、もう一度このグラディウス公爵邸に来てくださるのを心待ちにしておりました」

 使用人さんたちの中には家庭教師として訪れていた時から顔見知りの人たちもいてとってもフレンドリーな雰囲気。
 みんながニコニコしていて、大歓迎してくれているみたいだった。

 そしてそれは彼の両親も同じ。
 公爵夫妻も満面の笑顔で私たちの婚約に賛成してくれた。

「ヴィアちゃんが娘になってくれるなんて、嬉しいわ。良かったわね、シリル?」

「妻には聞いていたが、本当に初恋を実らすとは思わなかったよ。はっはっはっ。良かったな、シリル」

 シリルは赤くなって、ジロリとご両親を睨み付けた。

「よしてください。子供の頃の話です」

 公爵夫人がシリルの子供時代の話をしようとするのを、恥ずかしいのか彼は必死になって遮っていた。
 
 公爵夫妻との食事会は始終和やかな雰囲気。
 婚約発表のパーティーも、その先にある結婚式についても、トントン拍子に話は進んだ。

「良かったわ。こんなに年上なのに、ご両親に反対されなくて」

「ヴィアの優秀さは両親も知っているからね。反対なんてするわけが無いよ」

 私はこれから公爵夫人としての教育を受けるため、このグラディウス公爵邸に通うことになる。
 もちろんシリルは王宮に出仕しているから、一緒に居るわけにはいかない。だから、両親や使用人さんたちが私に好意的なのはとても嬉しかった。


~・~・~・~・~


 それから私は、ほぼ毎日公爵夫人教育に通っていた。流石に名門。覚えることも多いし、その内容も伯爵家とは大違い。

 そんな公爵夫人教育の合間に、侍女長のエレナさんは、シリルの秘密をコソッと教えてくれた。

 本当はいちごケーキが大好きなのに、私の前では格好つけて食べなかった事。
 どの教科の宿題より、私の教えていたラナン語の宿題を早く片付けていた事。
 私が来る日は一番大人びた服装を選んでいた事。
 
 使用人さんたちには思春期のシリルの気持ちは筒抜けだったらしい。
 だからみんな私が婚約者になったことが嬉しいんだって笑ってた。


 そんなに昔から私の事を?
 なんて気になるけど、シリルが恥ずかしがっているので本人に直接聞くのは止めた。きっといつか教えてくれると思う。


しおりを挟む
感想 87

あなたにおすすめの小説

地味令嬢、婚約者(偽)をレンタルする

志熊みゅう
恋愛
 伯爵令嬢ルチアには、最悪な婚約者がいる。親同士の都合で決められたその相手は、幼なじみのファウスト。子どもの頃は仲良しだったのに、今では顔を合わせれば喧嘩ばかり。しかも初顔合わせで「学園では話しかけるな」と言い放たれる始末。  貴族令嬢として意地とプライドを守るため、ルチアは“婚約者”をレンタルすることに。白羽の矢を立てたのは、真面目で優秀なはとこのバルド。すると喧嘩ばっかりだったファウストの様子がおかしい!?  すれ違いから始まる逆転ラブコメ。

嫌われたと思って離れたのに

ラム猫
恋愛
 私は、婚約者のカイルに嫌われたと思った。冷たくそっけなく、近づくたびに避けられる日々。  距離を置くことを選び、留学の準備も進めて心を落ち着かせようとするけれど——。

引きこもり少女、御子になる~お世話係は過保護な王子様~

浅海 景
恋愛
オッドアイで生まれた透花は家族から厄介者扱いをされて引きこもりの生活を送っていた。ある日、双子の姉に突き飛ばされて頭を強打するが、目を覚ましたのは見覚えのない場所だった。ハウゼンヒルト神聖国の王子であるフィルから、世界を救う御子(みこ)だと告げられた透花は自分には無理だと否定するが、御子であるかどうかを判断するために教育を受けることに。 御子至上主義なフィルは透花を大切にしてくれるが、自分が御子だと信じていない透花はフィルの優しさは一時的なものだと自分に言い聞かせる。 「きっといつかはこの人もまた自分に嫌悪し離れていくのだから」 自己肯定感ゼロの少女が過保護な王子や人との関わりによって、徐々に自分を取り戻す物語。

天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎ ギルドで働くおっとり回復役リィナは、 自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。 ……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!? 「転ばないで」 「可愛いって言うのは僕の役目」 「固定回復役だから。僕の」 優しいのに過保護。 仲間のはずなのに距離が近い。 しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。 鈍感で頑張り屋なリィナと、 策を捨てるほど恋に負けていくカイの、 コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕! 「遅いままでいい――置いていかないから。」

僕の婚約者は今日も麗しい

蒼あかり
恋愛
公爵家嫡男のクラウスは王命により、隣国の王女と婚約を結ぶことになった。王家の血を引く者として、政略結婚も厭わないと覚悟を決めていたのに、それなのに。まさか相手が子供だとは......。 婚約相手の王女ローザもまた、国の安定のためにその身を使う事を使命としていたが、早い婚約に戸惑っていた。 そんなふたりが色々あって、少しづつ関係を深めていく。そんなお話。 変わり者の作者が、頑張ってハッピーエンドを目指します。 たぶん。きっと。幸せにしたい、です。 ※予想外に多くの皆様に読んでいただき、驚いております。 心よりお礼申し上げます。ありがとうございました。 ご覧いただいた皆様に幸せの光が降り注ぎますように。 ありがとうございました。

王太子妃クラリスと王子たちの絆【完】

mako
恋愛
以前の投稿をブラッシュアップしました。 ランズ王国フリードリヒ王太子に嫁ぐはリントン王国王女クラリス。 クラリスはかつてランズ王国に留学中に品行不良の王太子を毛嫌いしていた節は 否めないが己の定めを受け、王女として変貌を遂げたクラリスにグリードリヒは 困惑しながらも再会を果たしその後王国として栄光を辿る物語です。

平凡令嬢の婚活事情〜あの人だけは、絶対ナイから!〜

本見りん
恋愛
「……だから、ミランダは無理だって!!」  王立学園に通う、ミランダ シュミット伯爵令嬢17歳。  偶然通りかかった学園の裏庭でミランダ本人がここにいるとも知らず噂しているのはこの学園の貴族令息たち。  ……彼らは、決して『高嶺の花ミランダ』として噂している訳ではない。  それは、ミランダが『平凡令嬢』だから。  いつからか『平凡令嬢』と噂されるようになっていたミランダ。『絶賛婚約者募集中』の彼女にはかなり不利な状況。  チラリと向こうを見てみれば、1人の女子生徒に3人の男子学生が。あちらも良くない噂の方々。  ……ミランダは、『あの人達だけはナイ!』と思っていだのだが……。 3万字少しの短編です。『完結保証』『ハッピーエンド』です!

婚約破棄後のお話

Nau
恋愛
これは婚約破棄された令嬢のその後の物語 皆さん、令嬢として18年生きてきた私が平民となり大変な思いをしているとお思いでしょうね? 残念。私、愛されてますから…

処理中です...