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グラディウス公爵邸
しおりを挟む私とシリルは本物の恋人同士になったーー
社交界では、王家の狩猟会の事件の主犯がアリア様だったという話題でもちきり。
アリア様の取り巻きをしていた令嬢たちや、ティリス侯爵家と深く付き合っていた貴族たちは、社交界での居場所を失った。
ティリス侯爵は他にも違法魔道具の製造や売買にも関与していたことが露呈し、爵位を失い収監。アリア様は王都を追放になり、母方の遠縁に当たる伯爵家にメイドとして仕えることになったそうだ。
「アリア様がメイドを?」
「うん。ティリス侯爵家は名門だから姻戚筋も多いんだけど、アリアを引き受ける家はムスカ伯爵家だけだったんだ」
ムスカ伯爵家は王都に近い場所に領地があり古い歴史を持つ家柄。伯爵夫妻は領地に居るが、長男のライアン様は王宮で参謀補佐として出仕している。
「メイドなんて……アリア様には辛いんじゃないかしら?」
「そうだろうね。ムスカ伯爵家にはアリアと同じ年齢のリリーベル嬢が居るんだ。昔、リリーベル嬢のデビュタントをアリアが台無しにしたらしいよ」
「え?」
「デビュタントのドレスにワインを掛けたって話さ。僕はラナンクルスに居た時の話だから詳しくは知らないんだけどね」
デビュタントの白いドレスは何年も前から母子で準備する大切なもの。アリア様ってこんな酷い嫌がらせもしていたのね。
「その時は侯爵令嬢であるアリアには文句も言えず、泣き寝入りしたらしいね。ムスカ伯爵家はアリアに恨みがあるだろうから、苦労すると思うよ。」
「そんな場所……アリア様、大丈夫かしら?」
私を傷つけようとした人だけど、それほど恨む気持ちにはなれなくて……。
メイドをするなんて、侯爵家の令嬢だったアリア様には耐え難い仕打ちかもしれない。
「ブツブツ文句言いながらも最近は仕事を覚えてちゃんと働くようになったって、ライアンが言ってたな。アリアが逃げ出さないようにムスカ伯爵家で監視してくれてるし、安心さ」
「そう、それなら良かった」
そして、最近ムスカ伯爵領で開催される、領主邸のパーティーには、王都の貴族も参加しているそうだ。
王都で開催されるわけでも無いのに、そのパーティーに赴く理由は一つ。アリア様の落ちぶれた姿を見るため。
噂好きの令嬢たちは、王都でのお茶会でアリア様の働きぶりを話題にしている。
「アリア様、パーティーで給仕をなさってましたわ。慣れない作業にご苦労なさっていて、お可哀そうでした」
「まあ!わたくしもムスカ伯爵邸のパーティーに来月招待されていますの。慰めて差し上げなくちゃ」
同情するような事を言いながら扇の奥で嘲笑している人たち。だけど、彼女たちはただ噂好きってわけでも無い。
昔アリア様に嫌がらせを受けていた令嬢は意外と多いそうだ。
だからーー
「自分で蒔いた種ってこと?」
「そうさ。ヴィアが気にすることは無いよ」
「……うん」
「このお話は終わりにしよう。そろそろ家に着くよ」
「ええ。大丈夫かしら」
「ヴィアなら平気さ」
馬車が門をくぐりしばらく走ると、城みたいな屋敷が見えてきた。相変わらず大きい。
今日、私はグラディウス公爵邸へ来ていた。
彼のご両親への挨拶のためだ。
「ご両親は反対なさらないかしら?」
「二人とも祝福してくれるよ。心配しなくてもいいよ」
「そう?服装は変じゃ無い?」
「ヴィアはいつでも、何を着ても可愛いよ」
そう言うとシリルは私のこめかみに唇を落とす。そして赤くなった私を見て満足そうに笑った。
もう……っ。
シリルって、こういう事どこで覚えて来るのだろう。交際の経験なんて無いって言ってたのに、私だけが翻弄されて悔しい。
公爵邸に入ると使用人さんたちが勢揃いして私を迎えてくれた。
「お久しぶりです、フラヴィア様。わたくしたち皆でフラヴィア様がシリル様の婚約者として、もう一度このグラディウス公爵邸に来てくださるのを心待ちにしておりました」
使用人さんたちの中には家庭教師として訪れていた時から顔見知りの人たちもいてとってもフレンドリーな雰囲気。
みんながニコニコしていて、大歓迎してくれているみたいだった。
そしてそれは彼の両親も同じ。
公爵夫妻も満面の笑顔で私たちの婚約に賛成してくれた。
「ヴィアちゃんが娘になってくれるなんて、嬉しいわ。良かったわね、シリル?」
「妻には聞いていたが、本当に初恋を実らすとは思わなかったよ。はっはっはっ。良かったな、シリル」
シリルは赤くなって、ジロリとご両親を睨み付けた。
「よしてください。子供の頃の話です」
公爵夫人がシリルの子供時代の話をしようとするのを、恥ずかしいのか彼は必死になって遮っていた。
公爵夫妻との食事会は始終和やかな雰囲気。
婚約発表のパーティーも、その先にある結婚式についても、トントン拍子に話は進んだ。
「良かったわ。こんなに年上なのに、ご両親に反対されなくて」
「ヴィアの優秀さは両親も知っているからね。反対なんてするわけが無いよ」
私はこれから公爵夫人としての教育を受けるため、このグラディウス公爵邸に通うことになる。
もちろんシリルは王宮に出仕しているから、一緒に居るわけにはいかない。だから、両親や使用人さんたちが私に好意的なのはとても嬉しかった。
~・~・~・~・~
それから私は、ほぼ毎日公爵夫人教育に通っていた。流石に名門。覚えることも多いし、その内容も伯爵家とは大違い。
そんな公爵夫人教育の合間に、侍女長のエレナさんは、シリルの秘密をコソッと教えてくれた。
本当はいちごケーキが大好きなのに、私の前では格好つけて食べなかった事。
どの教科の宿題より、私の教えていたラナン語の宿題を早く片付けていた事。
私が来る日は一番大人びた服装を選んでいた事。
使用人さんたちには思春期のシリルの気持ちは筒抜けだったらしい。
だからみんな私が婚約者になったことが嬉しいんだって笑ってた。
そんなに昔から私の事を?
なんて気になるけど、シリルが恥ずかしがっているので本人に直接聞くのは止めた。きっといつか教えてくれると思う。
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