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三章
お前はこれが、好きだろう?
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南波軍は前回と同じ山に城を作なおし、似た作戦で戦を展開していった。基本的には籠城し、敵兵の気が緩んだ瞬間を狙って、奇襲を繰り返す、というものだ。
しかし、都からは、とんでもない量の兵が送られてきた。、実に、自陣の二十五倍の敵兵に囲まれての籠城戦だった。すぐに、三つあった城が一つ落ち、二つ落ちた。落ちた城の大将たちの首が都でさらされた。
作戦は上手く行っている、と頭である南波殿は言ったが、それでも、首の皮一枚でつながっているような状況には変わりない。俺たちは正直、毎日生きている心地がしなかった。
それでも、南波殿が言うことが信じられたのは、最後の城の守りの強固さゆえだった。
最後の城は、山の奥に建てられていた。よって、麓から城にたどり着くには、曲がりくねった細い山道を登ってくる必要があった。大挙して押し寄せてきた都の兵たちも、細い道に入れば多数の利を生かせず、俺たちを攻めあぐねた。
そこで、敵はすぐに方針を変えた。断水と兵糧攻めで攻めることにしたのだ。
だがそれも、俺たちにとっては、予想していた展開だった。俺たち南波軍は、基本は篭城の作戦を取りながらも、気が緩んだ敵兵を、たびたび襲った。
例えば、敵兵の旗や幕を奪って揶揄い、煽った。怒った兵が城の兵を登ろうと藻掻いているところに、俺たちは上から丸太を放った。藁の人形を使って、出陣したと思わせ、近づいてきた敵兵に、大石を上から投げた。
敵兵はそのたびに、大損害を被った。敵兵の篭城に気が緩み、博奕や唄、連歌、手慰みの手仕事に興じていたのだから、無理もない。
中央の大群をして落ちない南波軍の善戦ぶりは、しだいに世間に知られるところとなった。逆に、圧倒的な力の差がありながら、南波軍を攻めきれない中央政府に、世間は不信を募らせるようになった。盤石だと思われていた中央の権威が揺らいだのだ。
勝負が決したのは、城に篭城してから三月ほどだった。しかし、俺たちが直接的に、二十五倍の兵たちに勝利したわけではない。
戦が始まって半年たち、俺たちが篭城し蓋つきが過ぎた頃。ついに中央政府が倒れたのだ。
南波軍は中央の大軍をずっと惹きつけていたという功績を認められた。
その後、南波殿がますます、反乱軍の新帝に引き立てられたことは言うまでもない。
もともと官位を持っていたものに比べ、野武士の南波殿に与えられた恩賞は少ないという声もあった。だがそれでも、南波殿に叙された官位はかなりのもので、それに伴い、忠頼など周りの武将たちの地位も上がり、中央での仕事も増えたのだった。
弥次郎がそうしてぼんやりと夜空に心を溶かしていると、向こうから足音が聞こえた。こんな夜更けに誰だと訝しみながら、俺は縁側の戸袋の脇に立ち上がる。
すらりと襖が開く音がした。
そこに現れたのは――忠頼だった。
「……え?」
俺は縁側の障子を、さっと開けた。
「只今、弥次郎」
――夢でも見てるのかな、と俺は思ったが、忠頼の顔を見たとたん、足が勝手に忠頼に向かっていく。
しかし、忠頼の傍に近寄った途端、俺は、はたと足を止た。
――酒臭い。
俺は眉間に皺を寄せ、訝しみながら訊いた。
「一寸待て。他の従者は? なんでお前だけ帰ってきたんだ。あぶねえだろ」
「隣村までは、既に着いていたからな。最低限の従者だけ連れて戻って来た。明日、用事があるのだ」
「じゃ、さっさと床に就いた方がいいな」
俺はため息をつき、褥の用意をしようと、立ち上がった。しかし、忠頼は、俺をすばやく抱き寄せると、俺の首元に鼻を摺りつけた。俺は思わず忠頼の着物の袖をひっぱる。
「……おい、忠頼」
「――嫌か?」
忠頼は、少し首を傾げ、俺の顎に口づける。俺はくらりとした。だが相手は酔っ払いだ。明日何があるのか知らないが、重要な用事だから帰ってきたに違いない。
俺は、責任をもって忠頼を寝かしつけることを心に決める。
「そうじゃねえ、でも、いつもはこんな風じゃないだろ」
しかし、俺の気持ちを知ってか知らずか、忠頼は俺の周防の紐をするりと解きながら、耳元で囁く。
「いつもは、周りに配慮しているのだ。他の者に示しがつかぬからな」
「お前さっき、明日用があるって」
「それはそれ、これはこれだ。機を逃さぬことは大切だからな」
「――っ」
そう言って忠頼は俺を抱きすくめ、首筋に唇を落とした。俺は呆れながらも、自分がすっかり流されていくのを感じた。再び会えたことの嬉しさでいっぱいになのは、自分も同じだ。俺は首を竦めるようにして、口づけを強請った。
すると、急に、口の中に指が二本、入ってきた。舌が指で弄ばれ、全身に電流のような快感が走る。
「――お前は、これが好きだろう?」
忠頼の長い指に舌が挟まれ、絡まる。その刺激に、俺は思わず腰を摺りつける。
忠頼は何も言わず、恍惚とした表情で、俺をじっと見ていた。
その表情が、ますます俺の中を熱くさせ、感じさせる。
俺はとうとう、立っていられなくなって、ふらりとよろめいた。忠頼はふいに、俺の口から指を抜くと、腰を支えため息を吐くように言った。
「愛いな」
*
俺はなんとか、酔った忠頼を引き離すようにして、さっさと褥を用意した。
座った体勢のまま、俺と向かい合った忠頼が、さっきの揉み合いで、半分脱げかけた俺の周防と袴を素早く脱がせる。
俺はくしゃみをし、鼻をすすった。まだ寒い。自分も襦袢一枚になった忠頼が、衣をずり上げながら、俺を包むように抱きしめる。
「寒いか」
「大丈夫だ」
しかし、襦袢一枚になった俺の懐に、忠頼の手が入った途端、俺は思わず忠頼の手を掴んだ。
――そうだった。
「どうした」
「……いや」
俺が黙っていると、忠頼は俺が掴んだ手をついと持ち上げる。そしてゆっくりと、中指から手首へと、唇を優しく沿わせるように、移動させた。
「――っ」
思わず体が反応し、声が漏れる。忠頼が俺に触れる度、体がゆっくりと熱を帯びていくのが分かり、俺はどうしようもなくなる。
忠頼が、少し首をかしげるようにして、俺の眼を覗き込むように見つめた。
「――本当に『いや』なのか?」
「違……」
「なら、そのまましていい、ということだな?」
忠頼はさっき優しく唇で触れた俺の手を、軽く持ち上げた。そして、手首から肘、肘から胸へと、唇を滑らせながら、時に音を立てて吸う。忠頼の手が再び、腹の方へ延びる。
「――やっ……」
その時、俺は掴まれた反対の手で、忠頼の手を掴んだ。忠頼は顔を上げ、俺の顔を見、ぱちぱちと目を瞬く。酒で、すこしとろりとした目だ。
「――何かあったなら、言ってみろ」
少しだけ気づかわしげな声に、俺は申し訳なくなってきた。俺は恥ずかしいのを堪えながら、呻くように言った。
「――太った」
「は?」
「太ったんだよ。ここでは毎日飯が喰えるだろ。村にいたときみてえにずっと鍬を振り回してるわけでもねえし。稽古をつけてくれる師匠たちもみんなお前と一緒に行っちまうし、体は訛るわ暇だから空量が増えるわで――それで」
俺は火照った顔を背けながら、一気呵成に言った。言いながら、情けなさが込み上げる。
暫くして、忠頼が咳き込むような声を漏らした。顔を上げ、俺はおもわず口をぽかんと開けた。
忠頼は俯き、肩を震わせて笑っていた。
「――ははっ」
――忠頼が、声を出して、笑ってる。
俺が唖然としながら忠頼を見ていると、忠頼は急に、無造作に俺を押し倒した。こういう時、俺は、とっさに抵抗することができない。忠頼の方が、おれより強いからだ。
「――お前は……」
忠頼は、伸し掛かるように俺を抱きしめる。笑いをこらえているのだろう、まだ少し震えながら、言葉を発する。
「――俺はな、お前がどんな風でも、見たいし、触れたいのだ」
言いながら、首筋から胸へ、口づけの雨を降らす。手も体も押さえつけられている俺は、ただ喘ぎ、体を跳ねさせることしかできない。
「あっ……んぅ」
ふいに口づけを止め、忠頼の手のひらが、俺の髪を撫でた。掌はそのまま、俺の頬に触れる。
「お前がどんな形でも――お前が俺の、至上の喜びであることに、変わりはない」
その言葉に、俺の心臓は、ぐっと掴まれたようになる。ふいに眦から、熱い涙がぽろりと零れた。俺は慌てて、忠頼から顔を背ける。
「……そういう……言うな……っ」
俺は恥ずかしさで、そのまま顔を覆ったが、忠頼にすぐにそれを避けられる。忠頼はそのまま、俺を抱き起して、胡坐をかいた膝の上に抱えてしまう。
「だめだ。見せてくれと言ったろう。お前の羞恥も悦びも、全て」
忠頼は俺の涙を拭うように、眦に口づける。右頬に触れていた指先が、滑るように唇に触れる。
と、忠頼の指が、ふたたび俺の口の中を侵す。忠頼の指は、俺の上の歯の裏をざらりと撫でた。
「――っんぁ」
くすぐったいような快感に、俺の腰がびくりと跳ねた。俺はじんじんと熱を帯びていく体を捩らせながら、忠頼の指を夢中で舐る。俺は無意識に、忠頼の手を掴んでいた。
濡れた音が響く。忠頼の硬い指先は、少しだけひんやりとして、己の熱い舌に心地がよかった。
いつの間に解かれていた、忠頼の右の手が、俺の腹の下方――一番熱い場所にするりと移動する。
「――っ!」
俺は体をのけぞらせると、、逃げるように腰を捻った。熱く敏感になったそこは、僅かな刺激にも、大袈裟なくらい反応してしまう。
しかし、忠頼は逆に、そこから逃がさない、とでもいうように俺の腰をより近くに抱き寄せる。忠頼のものと、俺のものが、ぴったりと触れ合った。
「ひぅ……っ―――」
二人のものを、忠頼の手の掌が、包むように摺り上げる。
互いの、息が詰まりそうな呼吸音も、熱い肌が触れあう感覚も、そのどれもが、どうしようもなく、互いの感覚を昂らせるのが分かった。
「――っ」
俺はすぐに達してしまった。忠頼がゆっくりと、そこから手を離す。俺は喘ぎながら、息を整えた。だが。
「やめろっ」
俺はまだ脱力している体を、何とか起こした。
忠頼が己の手に架かったものを舐めようとしているのを、すんでのところで止める。
「なぜだ」
と、忠頼は少し意地の悪い笑みを浮かべる。
――この野郎。分かってやってやがる。
俺は自分の肩に襦袢をひっかけると、忠頼の下腹に手を伸ばす。まだ熱いままのそれを、ゆっくりと手で包み込む。
「こっち、してやるから」
「無理をしないでも、いいんだぞ」
忠頼がいつもより優しい声でそう言い、俺の髪をぐるぐると掻きまわすように撫でる。
その無造作加減が、やけに心地よくて、空っぽになったはずの俺の体が、再びずくりと疼く。
――酔った忠頼は、始末に追えねえ。
そんな忠頼を、愛おしいと思う俺もきっと、始末に追えない。俺はそう思いながら、俺は顔を伏せ、忠頼のものを根元まで口に含んだ。
しかし、都からは、とんでもない量の兵が送られてきた。、実に、自陣の二十五倍の敵兵に囲まれての籠城戦だった。すぐに、三つあった城が一つ落ち、二つ落ちた。落ちた城の大将たちの首が都でさらされた。
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それでも、南波殿が言うことが信じられたのは、最後の城の守りの強固さゆえだった。
最後の城は、山の奥に建てられていた。よって、麓から城にたどり着くには、曲がりくねった細い山道を登ってくる必要があった。大挙して押し寄せてきた都の兵たちも、細い道に入れば多数の利を生かせず、俺たちを攻めあぐねた。
そこで、敵はすぐに方針を変えた。断水と兵糧攻めで攻めることにしたのだ。
だがそれも、俺たちにとっては、予想していた展開だった。俺たち南波軍は、基本は篭城の作戦を取りながらも、気が緩んだ敵兵を、たびたび襲った。
例えば、敵兵の旗や幕を奪って揶揄い、煽った。怒った兵が城の兵を登ろうと藻掻いているところに、俺たちは上から丸太を放った。藁の人形を使って、出陣したと思わせ、近づいてきた敵兵に、大石を上から投げた。
敵兵はそのたびに、大損害を被った。敵兵の篭城に気が緩み、博奕や唄、連歌、手慰みの手仕事に興じていたのだから、無理もない。
中央の大群をして落ちない南波軍の善戦ぶりは、しだいに世間に知られるところとなった。逆に、圧倒的な力の差がありながら、南波軍を攻めきれない中央政府に、世間は不信を募らせるようになった。盤石だと思われていた中央の権威が揺らいだのだ。
勝負が決したのは、城に篭城してから三月ほどだった。しかし、俺たちが直接的に、二十五倍の兵たちに勝利したわけではない。
戦が始まって半年たち、俺たちが篭城し蓋つきが過ぎた頃。ついに中央政府が倒れたのだ。
南波軍は中央の大軍をずっと惹きつけていたという功績を認められた。
その後、南波殿がますます、反乱軍の新帝に引き立てられたことは言うまでもない。
もともと官位を持っていたものに比べ、野武士の南波殿に与えられた恩賞は少ないという声もあった。だがそれでも、南波殿に叙された官位はかなりのもので、それに伴い、忠頼など周りの武将たちの地位も上がり、中央での仕事も増えたのだった。
弥次郎がそうしてぼんやりと夜空に心を溶かしていると、向こうから足音が聞こえた。こんな夜更けに誰だと訝しみながら、俺は縁側の戸袋の脇に立ち上がる。
すらりと襖が開く音がした。
そこに現れたのは――忠頼だった。
「……え?」
俺は縁側の障子を、さっと開けた。
「只今、弥次郎」
――夢でも見てるのかな、と俺は思ったが、忠頼の顔を見たとたん、足が勝手に忠頼に向かっていく。
しかし、忠頼の傍に近寄った途端、俺は、はたと足を止た。
――酒臭い。
俺は眉間に皺を寄せ、訝しみながら訊いた。
「一寸待て。他の従者は? なんでお前だけ帰ってきたんだ。あぶねえだろ」
「隣村までは、既に着いていたからな。最低限の従者だけ連れて戻って来た。明日、用事があるのだ」
「じゃ、さっさと床に就いた方がいいな」
俺はため息をつき、褥の用意をしようと、立ち上がった。しかし、忠頼は、俺をすばやく抱き寄せると、俺の首元に鼻を摺りつけた。俺は思わず忠頼の着物の袖をひっぱる。
「……おい、忠頼」
「――嫌か?」
忠頼は、少し首を傾げ、俺の顎に口づける。俺はくらりとした。だが相手は酔っ払いだ。明日何があるのか知らないが、重要な用事だから帰ってきたに違いない。
俺は、責任をもって忠頼を寝かしつけることを心に決める。
「そうじゃねえ、でも、いつもはこんな風じゃないだろ」
しかし、俺の気持ちを知ってか知らずか、忠頼は俺の周防の紐をするりと解きながら、耳元で囁く。
「いつもは、周りに配慮しているのだ。他の者に示しがつかぬからな」
「お前さっき、明日用があるって」
「それはそれ、これはこれだ。機を逃さぬことは大切だからな」
「――っ」
そう言って忠頼は俺を抱きすくめ、首筋に唇を落とした。俺は呆れながらも、自分がすっかり流されていくのを感じた。再び会えたことの嬉しさでいっぱいになのは、自分も同じだ。俺は首を竦めるようにして、口づけを強請った。
すると、急に、口の中に指が二本、入ってきた。舌が指で弄ばれ、全身に電流のような快感が走る。
「――お前は、これが好きだろう?」
忠頼の長い指に舌が挟まれ、絡まる。その刺激に、俺は思わず腰を摺りつける。
忠頼は何も言わず、恍惚とした表情で、俺をじっと見ていた。
その表情が、ますます俺の中を熱くさせ、感じさせる。
俺はとうとう、立っていられなくなって、ふらりとよろめいた。忠頼はふいに、俺の口から指を抜くと、腰を支えため息を吐くように言った。
「愛いな」
*
俺はなんとか、酔った忠頼を引き離すようにして、さっさと褥を用意した。
座った体勢のまま、俺と向かい合った忠頼が、さっきの揉み合いで、半分脱げかけた俺の周防と袴を素早く脱がせる。
俺はくしゃみをし、鼻をすすった。まだ寒い。自分も襦袢一枚になった忠頼が、衣をずり上げながら、俺を包むように抱きしめる。
「寒いか」
「大丈夫だ」
しかし、襦袢一枚になった俺の懐に、忠頼の手が入った途端、俺は思わず忠頼の手を掴んだ。
――そうだった。
「どうした」
「……いや」
俺が黙っていると、忠頼は俺が掴んだ手をついと持ち上げる。そしてゆっくりと、中指から手首へと、唇を優しく沿わせるように、移動させた。
「――っ」
思わず体が反応し、声が漏れる。忠頼が俺に触れる度、体がゆっくりと熱を帯びていくのが分かり、俺はどうしようもなくなる。
忠頼が、少し首をかしげるようにして、俺の眼を覗き込むように見つめた。
「――本当に『いや』なのか?」
「違……」
「なら、そのまましていい、ということだな?」
忠頼はさっき優しく唇で触れた俺の手を、軽く持ち上げた。そして、手首から肘、肘から胸へと、唇を滑らせながら、時に音を立てて吸う。忠頼の手が再び、腹の方へ延びる。
「――やっ……」
その時、俺は掴まれた反対の手で、忠頼の手を掴んだ。忠頼は顔を上げ、俺の顔を見、ぱちぱちと目を瞬く。酒で、すこしとろりとした目だ。
「――何かあったなら、言ってみろ」
少しだけ気づかわしげな声に、俺は申し訳なくなってきた。俺は恥ずかしいのを堪えながら、呻くように言った。
「――太った」
「は?」
「太ったんだよ。ここでは毎日飯が喰えるだろ。村にいたときみてえにずっと鍬を振り回してるわけでもねえし。稽古をつけてくれる師匠たちもみんなお前と一緒に行っちまうし、体は訛るわ暇だから空量が増えるわで――それで」
俺は火照った顔を背けながら、一気呵成に言った。言いながら、情けなさが込み上げる。
暫くして、忠頼が咳き込むような声を漏らした。顔を上げ、俺はおもわず口をぽかんと開けた。
忠頼は俯き、肩を震わせて笑っていた。
「――ははっ」
――忠頼が、声を出して、笑ってる。
俺が唖然としながら忠頼を見ていると、忠頼は急に、無造作に俺を押し倒した。こういう時、俺は、とっさに抵抗することができない。忠頼の方が、おれより強いからだ。
「――お前は……」
忠頼は、伸し掛かるように俺を抱きしめる。笑いをこらえているのだろう、まだ少し震えながら、言葉を発する。
「――俺はな、お前がどんな風でも、見たいし、触れたいのだ」
言いながら、首筋から胸へ、口づけの雨を降らす。手も体も押さえつけられている俺は、ただ喘ぎ、体を跳ねさせることしかできない。
「あっ……んぅ」
ふいに口づけを止め、忠頼の手のひらが、俺の髪を撫でた。掌はそのまま、俺の頬に触れる。
「お前がどんな形でも――お前が俺の、至上の喜びであることに、変わりはない」
その言葉に、俺の心臓は、ぐっと掴まれたようになる。ふいに眦から、熱い涙がぽろりと零れた。俺は慌てて、忠頼から顔を背ける。
「……そういう……言うな……っ」
俺は恥ずかしさで、そのまま顔を覆ったが、忠頼にすぐにそれを避けられる。忠頼はそのまま、俺を抱き起して、胡坐をかいた膝の上に抱えてしまう。
「だめだ。見せてくれと言ったろう。お前の羞恥も悦びも、全て」
忠頼は俺の涙を拭うように、眦に口づける。右頬に触れていた指先が、滑るように唇に触れる。
と、忠頼の指が、ふたたび俺の口の中を侵す。忠頼の指は、俺の上の歯の裏をざらりと撫でた。
「――っんぁ」
くすぐったいような快感に、俺の腰がびくりと跳ねた。俺はじんじんと熱を帯びていく体を捩らせながら、忠頼の指を夢中で舐る。俺は無意識に、忠頼の手を掴んでいた。
濡れた音が響く。忠頼の硬い指先は、少しだけひんやりとして、己の熱い舌に心地がよかった。
いつの間に解かれていた、忠頼の右の手が、俺の腹の下方――一番熱い場所にするりと移動する。
「――っ!」
俺は体をのけぞらせると、、逃げるように腰を捻った。熱く敏感になったそこは、僅かな刺激にも、大袈裟なくらい反応してしまう。
しかし、忠頼は逆に、そこから逃がさない、とでもいうように俺の腰をより近くに抱き寄せる。忠頼のものと、俺のものが、ぴったりと触れ合った。
「ひぅ……っ―――」
二人のものを、忠頼の手の掌が、包むように摺り上げる。
互いの、息が詰まりそうな呼吸音も、熱い肌が触れあう感覚も、そのどれもが、どうしようもなく、互いの感覚を昂らせるのが分かった。
「――っ」
俺はすぐに達してしまった。忠頼がゆっくりと、そこから手を離す。俺は喘ぎながら、息を整えた。だが。
「やめろっ」
俺はまだ脱力している体を、何とか起こした。
忠頼が己の手に架かったものを舐めようとしているのを、すんでのところで止める。
「なぜだ」
と、忠頼は少し意地の悪い笑みを浮かべる。
――この野郎。分かってやってやがる。
俺は自分の肩に襦袢をひっかけると、忠頼の下腹に手を伸ばす。まだ熱いままのそれを、ゆっくりと手で包み込む。
「こっち、してやるから」
「無理をしないでも、いいんだぞ」
忠頼がいつもより優しい声でそう言い、俺の髪をぐるぐると掻きまわすように撫でる。
その無造作加減が、やけに心地よくて、空っぽになったはずの俺の体が、再びずくりと疼く。
――酔った忠頼は、始末に追えねえ。
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