4 / 4
終章
しおりを挟む――それでも、選んだ先で
◆ 旅の途中(静かな共生)
旅は、長く、静かだった。
アーヴィスは剣を持たず、名を伏せた。
リュシアンは花を育て、言葉を少しずつ増やした。
二人の距離は、一定以上縮まらない。
触れれば壊れるものがあることを、互いに知っていた。
夜、焚き火を囲みながら、リュシアンが言った。
「……エリオスは、きっと怒らない」
「なぜそう思う?」
「怒る人だったら……最初から、あなたを憎めって、言ったはずだから」
アーヴィスは、その名を否定しなかった。
それが、彼に許された、唯一の敬意だった。
その夜、二人は初めて、同じ毛布を分け合った。
触れ合わないまま、背中越しに、同じ温度を知った。
◆ 変化(恋愛に至らないまま)
年月が流れた。
リュシアンは、ある辺境の町に小さな庭を持った。
子どもたちに花の名前を教え、季節を待つことを覚えさせた。
アーヴィスは、彼の影だった。
護り、働き、決して前には出ない。
ある日、誰かが言った。
「ご夫婦ですか?」
リュシアンは、即答しなかった。
「……違います」
アーヴィスは、それを受け入れた。
だが夜、リュシアンは続けた。
「でも……一緒にいる理由は、説明できない」
それは、愛ではない。
だが、共にいる選択だった。
手を取ることは、まだない。
それでも、同じ墓地に眠る未来を、否定しない程度の距離。
◆ 独白(アーヴィス)
――もしも、神がいるなら。
私は、罰を望まない。
救いも、赦しも、いらない。
ただ、この人が、
私の存在を理由に、
生を嫌いにならぬように。
それだけでいい。
私は、彼の過去を背負う資格はない。
だが、未来の重荷くらいなら、
黙って担げる。
彼が、私を選ばなくなる日が来ても、
私は、それを受け入れる。
それが、私の贖罪だ。
◆ エリオスの消失(第三者の終わり)
ある春の日。
リュシアンは、夢の中で、再びエリオスに会った。
今度は、はっきりとした輪郭を持たない影だった。
「もう、来なくていい」
リュシアンが言った。
エリオスは、少し驚いてから、笑った。
「……そうか」
「あなたは……僕の選択の中にいる。
だから、ここに縛られなくていい」
それを聞いて、エリオスは、深く息を吐いた。
「ありがとう」
それが、最後だった。
目覚めたとき、胸の痛みはなかった。
代わりに、静かな喪失だけが残った。
◆ 老い(時間の証明)
白髪が増えた。
アーヴィスの背は、少し丸くなり、
リュシアンの歩みは、ゆっくりになった。
それでも、庭には花が咲く。
ある夕暮れ。
リュシアンが言った。
「……もし、先に逝ったら」
「迎えには行かない」
即答だった。
「君が、選ばなければならないから」
リュシアンは、少し笑った。
「……それでいい」
その手が、初めて、自然に重なった。
恋人のようにではない。
長い時間を共にした者として。
◆ 看取り(選択の最終形)
リュシアンは、静かに逝った。
庭の花が咲く朝だった。
アーヴィスは、泣かなかった。
泣く資格を、最初から持っていなかった。
だが、墓を二つ並べた。
名は刻まない。
肩書も、称号も、ない。
ただ、一つの言葉だけ。
選び続けた
それが、彼らの関係のすべてだった。
◆ その後(最後の独白)
――私は、最後まで、許されなかった。
だが、
拒絶されながらも、
選ばれ続けた。
それ以上の罰も、
それ以上の救いも、
この世には存在しない。
白花は、
誰のものにもならず、
それでも、咲いた。
完
2
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
僕は今日、謳う
ゆい
BL
紅葉と海を観に行きたいと、僕は彼に我儘を言った。
彼はこのクリスマスに彼女と結婚する。
彼との最後の思い出が欲しかったから。
彼は少し困り顔をしながらも、付き合ってくれた。
本当にありがとう。親友として、男として、一人の人間として、本当に愛しているよ。
終始セリフばかりです。
話中の曲は、globe 『Wanderin' Destiny』です。
名前が出てこない短編part4です。
誤字脱字がないか確認はしておりますが、ありましたら報告をいただけたら嬉しいです。
途中手直しついでに加筆もするかもです。
感想もお待ちしています。
片付けしていたら、昔懐かしの3.5㌅FDが出てきまして。内容を確認したら、若かりし頃の黒歴史が!
あらすじ自体は悪くはないと思ったので、大幅に修正して投稿しました。
私の黒歴史供養のために、お付き合いくださいませ。
花いちもんめ
月夜野レオン
BL
樹は小さい頃から涼が好きだった。でも涼は、花いちもんめでは真っ先に指名される人気者で、自分は最後まで指名されない不人気者。
ある事件から対人恐怖症になってしまい、遠くから涼をそっと見つめるだけの日々。
大学生になりバイトを始めたカフェで夏樹はアルファの男にしつこく付きまとわれる。
涼がアメリカに婚約者と渡ると聞き、絶望しているところに男が大学にまで押しかけてくる。
「孕めないオメガでいいですか?」に続く、オメガバース第二弾です。
闇を照らす愛
モカ
BL
いつも満たされていなかった。僕の中身は空っぽだ。
与えられていないから、与えることもできなくて。結局いつまで経っても満たされないまま。
どれほど渇望しても手に入らないから、手に入れることを諦めた。
抜け殻のままでも生きていけてしまう。…こんな意味のない人生は、早く終わらないかなぁ。
記憶の代償
槇村焔
BL
「あんたの乱れた姿がみたい」
ーダウト。
彼はとても、俺に似ている。だから、真実の言葉なんて口にできない。
そうわかっていたのに、俺は彼に抱かれてしまった。
だから、記憶がなくなったのは、その代償かもしれない。
昔書いていた記憶の代償の完結・リメイクバージョンです。
いつか完結させねばと思い、今回執筆しました。
こちらの作品は2020年BLOVEコンテストに応募した作品です
当て馬系ヤンデレキャラになったら、思ったよりもツラかった件。
マツヲ。
BL
ふと気がつけば自分が知るBLゲームのなかの、当て馬系ヤンデレキャラになっていた。
いつでもポーカーフェイスのそのキャラクターを俺は嫌っていたはずなのに、その無表情の下にはこんなにも苦しい思いが隠されていたなんて……。
こういうはじまりの、ゲームのその後の世界で、手探り状態のまま徐々に受けとしての才能を開花させていく主人公のお話が読みたいな、という気持ちで書いたものです。
続編、ゆっくりとですが連載開始します。
「当て馬系ヤンデレキャラからの脱却を図ったら、スピンオフに突入していた件。」(https://www.alphapolis.co.jp/novel/239008972/578503599)
番に見つからない街で、子供を育てている
はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。
異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。
現世の記憶は失われているが、
この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。
街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、
ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。
だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。
再会は望まない。
今はただ、この子との生活を守りたい。
これは、番から逃げたオメガが、
選び直すまでの物語。
*不定期連載です。
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる