魔王の息子を育てることになった俺の話

お鮫

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青年期

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「彼」の視線から逃れるように寝ころんだ姿勢から上半身を起こす。
ビ、ビビってなんかないんだからな。


気を取り直して、まずは挨拶だ。
挨拶は社会人の基本だからな。

無表情で起き上がった「彼」に向き合う。
「改めて俺はシルヴァだ。よろしくな」
自己紹介しても、俺の顔をジッと見つめたままだ。

こちらも負けじと見つめ返す。

おお、明るいところで見ると本当に真っ黒だ。
体の半分ほどまで伸びている黒髪に光を反射しないほどの黒い瞳。
座っているから、その長髪が地面についてしまっている。
あとで、綺麗にしてやらないとな。


「それで、君は何というんだ?」
返答がないので名前を聞くことにする。
そういや、ステラからも聞いてなかったな。
「彼」としか言ってなかった。

警戒されないように、にっこり笑いながら聞くと、「彼」は居心地悪げに身じろぎした。

「…ない」
ぽつりとつぶやかれた声は、感情の乗らない声だった。
悲しみも寂しさも感じさせない、そんな声。

ない、名前がない?

名前すら付けないとは本当にあいつらは…誰だか知らないけど!

よしっ!
俺がかっこいいのつけてやる!

と、意気込んだはいいものの、名前というのは簡単につけられるものではない。
これから一生使うのだ。
前世では生まれて初めてもらう贈り物だと言われているくらいなのだから。
…いや、「彼」にとっても初めての贈り物になるのだろう。

ふむ、黒、闇、夜空。
…うーん。
顎に手を置いて考える。

クロウ、レイヴン、ノクス…
うーん、悪くはないがなんというか可愛くない。
「彼」には似合わないな。もう少し丸みのある…


考えること数分、俺の頭にポンと名前が浮かんだ。

「…そうだな、お前真っ黒だから…ネロとかどうだ?」
我ながらいい名前だと思うんだがどうだろう?
呼びやすいし、覚えやすい。これ大事。
どっかの国の言葉で黒…みたいな意味だった気がするし。
似合うんじゃなかろうか。


「…ネロ…ネロ」
わずかに見開かれたその瞳は先ほどより和らいだように感じる。

口をもごもごと動かし反芻する「彼」ネロに、俺は心臓を抑える。

か、可愛いじゃないか。

口の端がわずかに持ち上がり頬も上気したように赤くなっている。
元が白いから分りやすい。

どうやら気に入ってもらえたらしい。
「くっ、可愛いなお前…いや、ネロ」

わしゃわしゃと頭を撫でたい衝動にかられる。
まるで真っ黒のワンちゃんみたいなネロに、すでに親ばかになりそうな予感がする。

え?兄じゃないのかって?

…だって、外見は18歳だけど、俺の精神年齢前世合わせると50のおっちゃんだぞ。
10歳の男の子に向かって俺が「お前のお兄ちゃんだぞ」とか言えるか。

犯罪の臭いがするわ。


さ、それではお腹も空いたのでそろそろ我が家に招待しようじゃないか。

「行こう、ネロ」
不安げに揺れる瞳に手をつないであげたいが、すまん、お前の魔力を吸いたくないんだ。
あいつらと同じになってしまうからな。


いざ、わが家へ。


来た道を二人並んで歩く。

魔物を警戒していたのだが、姿も声も聞こえない。
夜行性なんだろうか。
静まり返っているのが逆に怖いくらいだ。

ネロを横目に歩く。
相変わらずの無表情である。
先ほどは少し表情の変化が見られたのだが今は、スンとしている。

俺はゲームのリュカのようにお喋りではないので、道中は無言だ。
それでも、気まずさはない。

というのも、俺は不安なのである。

 俺の家、なんもないんだよなぁ。

引っ越し二日目にして、ネロを家に迎えるとは思わなかった。
何なら、実質0日と言ってもいいと思う。
一晩も過ごしてないからな。
荷物を置きにちょっと寄っただけだ。

かろうじて昨日届けてもらったテーブルや椅子はあるが、ベッドは一つしかない。
さらには食材だってない。ということは家に帰っても飯にありつけない。
服もだ。ネロが着ている…着ているとも言えないようなものも今すぐ脱がせたいところだがネロの体に合うサイズは持ち合わせていない。


家…の前に買い物か。

だが、問題が一つ。
ネロを連れていくか、置いていくか。

ネロの姿を見られたら悪いやつに見つかってしまうかもしれない。

置いていく場合、初めての場所に1人でいるネロの姿を想像する。
街から近いのであればいいのだが、あいにく街まで行ってすぐ帰ってこられる場所ではない。

かといって連れて行っても…
認識阻害のかかったマントは一つしかない。

いや、俺は別にいいか。魔法が使えないことがバレて絡まれやすくなるだけだろう。
俺も、ただではやられる気はないのでちゃんと返り討ちにする気満々だがな。

俺は、見られても問題はないがネロの方はダメだろう。
こんなにも黒いのだ。夜なら紛れるには最適だが、明るいところでは逆に目立つ。

ステラによると王族までもかかわっているネロの監禁。
貴族ですらない俺がどうあがいても勝てない相手だ。
だから、どうにか見つからないように隠れるしかない。

…やはり、ネロは連れて行こう。
俺の留守の間に、家に誰か来たら怖いし。
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