52 / 75
青年期
51
しおりを挟む
紫の絨毯で見たその人は、遠目から見てもわかるほどにきれいだった。
この世のものではないのかもしれない、そう思うほどに。
初めて見る、白。
真逆の色を持つ人。
背中には翼を隠し持っているに違いない。
きれい、美しい、…触れたい。
そんな感情を抱いたのが初めてで、そんな自分に戸惑った。
まだ、自分に感情が残っていたのかと。
きっと、触れたら消えてしまう。
いや、触れられたとて、自分が触ったらだめだ。
黒く汚れてしまうに決まっている。
みんなそうだった。
真っ黒の髪、真っ黒の瞳。
膨大な魔力を目の当たりにすると人は、本性をむき出しにする。
会う人みんな、おかしくなった。
最初は、優しく接してきた人もしばらくすると欲を出す。
美しい容姿ね。美しい魔力だ。こんな漆黒は見たことがない。
いくらならいい?
魔力を少しだけ…もう少しだけ。
魔力を、もっと、もっと。
もっと。
留まることを知らないように。
吐き気がする。
辛くてたまらなかった。
逃げ出したかった。
あの牢獄から。
だけど、手足には鎖がついていて魔法を使おうにも使い方が分からない。
というよりも、力が出ない。
まるで、首輪をつけられて飼われている気分だった。
実際、そうなのだろう。
飼われていた。鎖につながれ自由のない部屋で。
毎日、体が重たくて動くのさえ億劫だった。
逃げられたとしても…その先はどうする?
どこに行けばいいの。
外の世界を知らないのに。
きっと外に出られたって同じこと。
また、他の誰かに捕まる。
また、閉じ込められる。
また、魔力を取られる。
もう、嫌だ。
1年、2年…5年……10年。
月日だけが流れていく。
状況は何も変わらない。
涙はいつの間にか出なくなった。
声も出さなくなった。
誰にも届くことのない声を出すことに意味なんてないのだから。
もう、どうでもいいや。
見るもの全てが真っ黒で、光なんてどこにもない。
何も考えなければつらくない。
未来を想像しなければ怖くない。
期待しなければ裏切られない。
そう思っていたのに、急に重さがなくなった。
鎖にひびが入っていた。
誰もそのことに気づかない。
それでも、魔力は流れ続ける。
限界だった。
そこらじゅうから音がした。
屋敷全体が揺れた。
次いで聞こえたのは人の声。怒声、悲鳴、泣き声、叫び声。
それらを通り過ぎて…気が付けば外に出ていた。
初めての外、いざ出てみても、心は動かなかった。
なのに、今はいろんな感情が体の中から出ようと沸き出してくる。
天使が近づくにつれその輪郭ははっきりしてくるのにいまだ本当に存在するのかと疑ってしまう。
夢だと言われた方があっさりと信じるだろう。
まだ、自分はあの屋敷でただ、日々を浪費しているのだと。
それか、死んだのかもしれない。
あっさりとその思考にたどり着き納得する。
安心感さえ感じた。
やっとだ、やっと解放されたのだ。
どれだけこの時を待ちわびたか。
ああ、そうだ、きっと死んだのだ。
ずっと森の中を歩き回って魔物に殺されたのだろう。
それでもいい。最後にこんな景色が見られたのなら。
ここまで、生きていたかいがあるというものだ。
消えてしまう前に目に焼き付けるように瞬きもせず見つめ続けた。
心臓がバクバクと耳に響いた。
喜びからか、興奮からか、恐怖からか。
だというのに、目の前の光景はずっと消えてなくならなかった。
真っ白なあの人はいつの間にか触れられる距離まで近くにいた。
消えない?
本当に?
誰なのだろう?
夢ではないの?
どうして助けてくれたのだろう?
疑問は尽きないのにそれらが口から出ることはなかった。
白い彼はどうやら天からのお迎えではないらしい。
色が濃いほど魔力が濃いと聞いたことがある。
なら、彼は?
同じ人なのだろうか?
にこにこと笑い、水色の小瓶を持たせてくる。
魔力、回復、傷。…家。
家?
彼の言った単語が頭の中を回り自分の中で何かが落ちるのが分かった。
この人も魔力目当てなのだろうか?
今度は、この人に監禁される?
…それでもいいか。
この人になら飼われてもいい。
胸に残ったのは、高揚感と喜びだった。
触れたことのない感情をどう処理しようかと、考えていると突然彼は寝っ転がった。
?!
さらには、隣を叩きここに寝ろと言う。
近くにいっていいのだろうか?
手を伸ばせば触れられる距離だ。
無意識に手が伸びそうになった時、「触れないように」という声が聞こえた。
その声に自身の伸びていた手に気が付いた。
やはり、触れたら汚れてしまうのだ。
彼の隣に寝ころぶ。
眠くはなかった。
むしろ意識ははっきりと覚醒している。
――
おはよう!
日に照らされまどろみながら目覚めれば目の前には青空が。
ああ、そういや、野宿したんだっけか。
寒くなくって良かったなぁ。
そう考えながら横を向くと…
「ヒッ!」
思わずひきつった悲鳴が漏れた。
隣に「彼」がいるのは良い。
目を閉じているのであれば俺もビビらなかっただろう。
真っ黒な目がこちらを凝視しているのである。
眠気なんか速攻吹き飛んだ。
瞬きもせずこちらを見据える「彼」にさすがに恐怖を感じる。
感情のない顔で見てくるのでとても怖い。
「お、おはよ」
震える声でそれだけ言うのが精いっぱいだった。
この世のものではないのかもしれない、そう思うほどに。
初めて見る、白。
真逆の色を持つ人。
背中には翼を隠し持っているに違いない。
きれい、美しい、…触れたい。
そんな感情を抱いたのが初めてで、そんな自分に戸惑った。
まだ、自分に感情が残っていたのかと。
きっと、触れたら消えてしまう。
いや、触れられたとて、自分が触ったらだめだ。
黒く汚れてしまうに決まっている。
みんなそうだった。
真っ黒の髪、真っ黒の瞳。
膨大な魔力を目の当たりにすると人は、本性をむき出しにする。
会う人みんな、おかしくなった。
最初は、優しく接してきた人もしばらくすると欲を出す。
美しい容姿ね。美しい魔力だ。こんな漆黒は見たことがない。
いくらならいい?
魔力を少しだけ…もう少しだけ。
魔力を、もっと、もっと。
もっと。
留まることを知らないように。
吐き気がする。
辛くてたまらなかった。
逃げ出したかった。
あの牢獄から。
だけど、手足には鎖がついていて魔法を使おうにも使い方が分からない。
というよりも、力が出ない。
まるで、首輪をつけられて飼われている気分だった。
実際、そうなのだろう。
飼われていた。鎖につながれ自由のない部屋で。
毎日、体が重たくて動くのさえ億劫だった。
逃げられたとしても…その先はどうする?
どこに行けばいいの。
外の世界を知らないのに。
きっと外に出られたって同じこと。
また、他の誰かに捕まる。
また、閉じ込められる。
また、魔力を取られる。
もう、嫌だ。
1年、2年…5年……10年。
月日だけが流れていく。
状況は何も変わらない。
涙はいつの間にか出なくなった。
声も出さなくなった。
誰にも届くことのない声を出すことに意味なんてないのだから。
もう、どうでもいいや。
見るもの全てが真っ黒で、光なんてどこにもない。
何も考えなければつらくない。
未来を想像しなければ怖くない。
期待しなければ裏切られない。
そう思っていたのに、急に重さがなくなった。
鎖にひびが入っていた。
誰もそのことに気づかない。
それでも、魔力は流れ続ける。
限界だった。
そこらじゅうから音がした。
屋敷全体が揺れた。
次いで聞こえたのは人の声。怒声、悲鳴、泣き声、叫び声。
それらを通り過ぎて…気が付けば外に出ていた。
初めての外、いざ出てみても、心は動かなかった。
なのに、今はいろんな感情が体の中から出ようと沸き出してくる。
天使が近づくにつれその輪郭ははっきりしてくるのにいまだ本当に存在するのかと疑ってしまう。
夢だと言われた方があっさりと信じるだろう。
まだ、自分はあの屋敷でただ、日々を浪費しているのだと。
それか、死んだのかもしれない。
あっさりとその思考にたどり着き納得する。
安心感さえ感じた。
やっとだ、やっと解放されたのだ。
どれだけこの時を待ちわびたか。
ああ、そうだ、きっと死んだのだ。
ずっと森の中を歩き回って魔物に殺されたのだろう。
それでもいい。最後にこんな景色が見られたのなら。
ここまで、生きていたかいがあるというものだ。
消えてしまう前に目に焼き付けるように瞬きもせず見つめ続けた。
心臓がバクバクと耳に響いた。
喜びからか、興奮からか、恐怖からか。
だというのに、目の前の光景はずっと消えてなくならなかった。
真っ白なあの人はいつの間にか触れられる距離まで近くにいた。
消えない?
本当に?
誰なのだろう?
夢ではないの?
どうして助けてくれたのだろう?
疑問は尽きないのにそれらが口から出ることはなかった。
白い彼はどうやら天からのお迎えではないらしい。
色が濃いほど魔力が濃いと聞いたことがある。
なら、彼は?
同じ人なのだろうか?
にこにこと笑い、水色の小瓶を持たせてくる。
魔力、回復、傷。…家。
家?
彼の言った単語が頭の中を回り自分の中で何かが落ちるのが分かった。
この人も魔力目当てなのだろうか?
今度は、この人に監禁される?
…それでもいいか。
この人になら飼われてもいい。
胸に残ったのは、高揚感と喜びだった。
触れたことのない感情をどう処理しようかと、考えていると突然彼は寝っ転がった。
?!
さらには、隣を叩きここに寝ろと言う。
近くにいっていいのだろうか?
手を伸ばせば触れられる距離だ。
無意識に手が伸びそうになった時、「触れないように」という声が聞こえた。
その声に自身の伸びていた手に気が付いた。
やはり、触れたら汚れてしまうのだ。
彼の隣に寝ころぶ。
眠くはなかった。
むしろ意識ははっきりと覚醒している。
――
おはよう!
日に照らされまどろみながら目覚めれば目の前には青空が。
ああ、そういや、野宿したんだっけか。
寒くなくって良かったなぁ。
そう考えながら横を向くと…
「ヒッ!」
思わずひきつった悲鳴が漏れた。
隣に「彼」がいるのは良い。
目を閉じているのであれば俺もビビらなかっただろう。
真っ黒な目がこちらを凝視しているのである。
眠気なんか速攻吹き飛んだ。
瞬きもせずこちらを見据える「彼」にさすがに恐怖を感じる。
感情のない顔で見てくるのでとても怖い。
「お、おはよ」
震える声でそれだけ言うのが精いっぱいだった。
405
あなたにおすすめの小説
妖精です、囲われてます
うあゆ
BL
僕は妖精
森で気ままに暮らしていました。
ふと気づいたら人間に囲まれてました。
でもこの人間のそばはとても心地いいし、森に帰るタイミング見つからないなぁ、なんて思いながらダラダラ暮らしてます。
__________
妖精の前だけはドロ甘の冷徹公爵×引きこもり妖精
なんやかんやお互い幸せに暮らします。
異世界オークションで売られた俺、落札したのは昔助けた狼でした
うんとこどっこいしょ
BL
異世界の闇オークションで商品として目覚めた青年・アキラ。
獣人族たちに値踏みされ、競りにかけられる恐怖の中、彼を千枚の金貨で落札したのは、銀灰色の髪を持つ狼の獣人・ロウだった。
怯えるアキラに、ロウは思いがけない言葉を告げる。
「やっと会えた。お前は俺の命の恩人だ」
戸惑うアキラの脳裏に蘇るのは、かつて雨の日に助けた一匹の子狼との記憶。
獣人世界を舞台に、命の恩人であるアキラと、一途に想い続けた狼獣人が紡ぐ、執着と溺愛の異世界BLロマンス。
第一章 完結
第二章 完結
『悪の幹部ですが、正義のヒーローの愛が重すぎて殉職しそうです』
るみ乃。
BL
世界を脅かす悪の組織『デッド・エンド』。
その幹部として恐れられる「冷徹な死神」シャドウ……
しかしその正体は、組織壊滅を目的に潜入中の捜査官・瀬戸だった。
悪役を演じつつ任務に励む日々の中、彼の前に立ちはだかる最大の難敵は、正義のヒーロー「ルミエール」こと天道光希。
敵同士のはずなのに、なぜか光希は瀬戸を命がけで守り、
命がけで溺愛してくる。
爽やかさゼロ、純度100%、とにかく重い愛情に振り回されながら、
瀬戸は今日も正義と悪の狭間で右往左往。
これは、逃げたいのに逃げられない潜入捜査官と、愛が重すぎるヒーローが織りなす、甘くて騒がしいBLラブコメ。
平凡な俺が完璧なお兄様に執着されてます
クズねこ
BL
いつもは目も合わせてくれないのにある時だけ異様に甘えてくるお兄様と義理の弟の話。
『次期公爵家当主』『皇太子様の右腕』そんなふうに言われているのは俺の義理のお兄様である。
何をするにも完璧で、なんでも片手間にやってしまうそんなお兄様に執着されるお話。
BLでヤンデレものです。
第13回BL大賞に応募中です。ぜひ、応援よろしくお願いします!
週一 更新予定
ときどきプラスで更新します!
囚われた元王は逃げ出せない
スノウ
BL
異世界からひょっこり召喚されてまさか国王!?でも人柄が良く周りに助けられながら10年もの間、国王に準じていた
そうあの日までは
忠誠を誓ったはずの仲間に王位を剥奪され次々と手篭めに
なんで俺にこんな事を
「国王でないならもう俺のものだ」
「僕をあなたの側にずっといさせて」
「君のいない人生は生きられない」
「私の国の王妃にならないか」
いやいや、みんな何いってんの?
魔王様の執着から逃れたいっ!
クズねこ
BL
「孤独をわかってくれるのは君だけなんだ、死ぬまで一緒にいようね」
魔王様に執着されて俺の普通の生活は終わりを迎えた。いつからこの魔王城にいるかわからない。ずっと外に出させてもらってないんだよね
俺がいれば魔王様は安心して楽しく生活が送れる。俺さえ我慢すれば大丈夫なんだ‥‥‥でも、自由になりたい
魔王様に縛られず、また自由な生活がしたい。
他の人と話すだけでその人は罰を与えられ、生活も制限される。そんな生活は苦しい。心が壊れそう
だから、心が壊れてしまう前に逃げ出さなくてはいけないの
でも、最近思うんだよね。魔王様のことあんまり考えてなかったって。
あの頃は、魔王様から逃げ出すことしか考えてなかった。
ずっと、執着されて辛かったのは本当だけど、もう少し魔王様のこと考えられたんじゃないかな?
はじめは、魔王様の愛を受け入れられず苦しんでいたユキ。自由を求めてある人の家にお世話になります。
魔王様と離れて自由を手に入れたユキは魔王様のことを思い返し、もう少し魔王様の気持ちをわかってあげればよかったかな? と言う気持ちが湧いてきます。
次に魔王様に会った時、ユキは魔王様の愛を受け入れるのでしょうか?
それとも受け入れずに他の人のところへ行ってしまうのでしょうか?
三角関係が繰り広げる執着BLストーリーをぜひ、お楽しみください。
誰と一緒になって欲しい など思ってくださりましたら、感想で待ってますっ
『面白い』『好きっ』と、思われましたら、♡やお気に入り登録をしていただけると嬉しいですっ
第一章 魔王様の執着から逃れたいっ 連載中❗️
第二章 自由を求めてお世話になりますっ
第三章 魔王様に見つかりますっ
第四章 ハッピーエンドを目指しますっ
週一更新! 日曜日に更新しますっ!
俺がこんなにモテるのはおかしいだろ!? 〜魔法と弟を愛でたいだけなのに、なぜそんなに執着してくるんだ!!!〜
小屋瀬
BL
「兄さんは僕に守られてればいい。ずっと、僕の側にいたらいい。」
魔法高等学校入学式。自覚ありのブラコン、レイ−クレシスは、今日入学してくる大好きな弟との再会に心を踊らせていた。“これからは毎日弟を愛でながら、大好きな魔法制作に明け暮れる日々を過ごせる”そう思っていたレイに待ち受けていたのは、波乱万丈な毎日で―――
義弟からの激しい束縛、王子からの謎の執着、親友からの重い愛⋯俺はただ、普通に過ごしたいだけなのにーーー!!!
冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される
マンスーン
BL
王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。
泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる