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青年期
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「さ、ここが俺の家だよ。小さいけど二人なんだからいいよな」
視線を下ろし、ネロを見ると、やはり表情は変わらない。
そんなネロに苦笑しつつ、家の扉を開ける。
内心、家の前に知らない人がいたらどうしようかと、身構えていたんだが杞憂だったようだ。
ネロを先に入れ、扉を閉める。
思ったより大きな音がバタンと響いた。
その音にネロがピクッと反応する。
…大きな音が怖いんだろうか。
気を付けないとな。
しゃがみ込んでネロと視線を合わせる。
「ネロ、これから俺がお前の親代わりとして育てる。だから、安心してくれ。お前が大人になるまで俺が守るからな」
ネロの瞳が丸くなっていっそう猫のようになった。
「あ、一つ注意してほしいんだが、俺は魔力を吸い取ってしまう体質なんだ。だから、よっぽどのことがない限り絶対に触れるなよ」
昨日言えばよかったなと思いながら袖をまくる。腕についているのは、ずっとつけている魔道具だ。
魔力を吸わないようにするやつな。
魔道具を見せると、ネロの体がびくりと跳ねた。
あ、そうだ。ネロにもこれと似たようなのがつけられていたんだったか。
しまった、トラウマともいえるようなものを目の前に出してしまった。
すぐに袖を下ろし魔道具を隠す。
「すまん、…まあ、そういうことだから気を付けてくれ」
「これから、ご飯を食べさせたい…ところなんだが、すまない。家にはない。見たらわかると思うんだが、俺は昨日ここに越してきたばかりなんだ。だからこれから街に行っていろいろ調達して来ようと思ってる。一緒に来てくれるか?」
うなずいてくれるだろうか。
連れて行くと決めたものの、ネロが行きたくないと言えば無理やりに連れていく気はない。
無理に連れて行って外を怖がるようになったら行けないからな。
「…行く」
おお、良かった。そうだよな。知らんところで一人は嫌だよな。
「よし、そうと決まれば…とりあえず綺麗にするか」
すすけた顔を見て鞄から水の入ったバケツを取り出した。
――
(ネロサイド)
寝ころんだものの到底眠ることもできなくて隣の彼を凝視する。
瞳を閉じたその姿はまるで天使が眠っているようで生きている人間と思えない。
飽きることもなくその姿を見続ける。
目を閉じれば消えてしまうのではないかと怖かった。
いつの間にか太陽が空に昇っていた。
彼が身じろぎする。
どうやら、一夜が明けたらしい。
結局一睡もせず見つめていた彼が、こちらを向いた。
瞳を見たくて目元を注視する。
心臓がバクバクと音を立てた。
彼にも聞こえていたのかもしれない。
その瞳が開いたとき引きつった声が彼から洩れた。
屋敷にいたときにもよく聞いていたので驚かない。
引きつった顔のまま「おはよ」と声をかけてくる。
その声に返すこともできなくて無言のままうなずく。
彼は「シルヴァ」というらしい。
シルヴァ、シルヴァ。心の中で何度も反すうして刻み込む。
綺麗な彼にぴったりの名前なのだろう。
次いで聞かれたのは自分の名前。
記憶をひっくり返してみてもそれらしい名前で呼ばれたことはない。
おい、とか、お前とか。到底名前とは言えないようなことを言われてきた。
だけども、悲しくはなかった。どうでもよかったから。
それなのに彼、シルヴァが名前を付けてくれるという。
胸にじんわりと何かが広がった。
「ネロ」
彼が発した瞬間、全身が心臓になったみたいに胸が震えた。
何物でもなかった自分が「ネロ」という個になった瞬間だった。
喜びの感情があふれ出して、機能していなかった顔にまで現れていると、気づいたのはシルヴァが俺を見て優しく笑っていたから。
慈愛に満ちた顔。
初めて向けられた感情にどうすればいいのかわからなくなってうつむく。
自分にこんな感情があったことに驚いた。
恐れ、孤独、痛み。
そんな感情さえ忘れていたのに、シルヴァに会っただけでこんなにもいろんな感情が溢れてくる。
次いで言われた言葉に体が硬直した。
家へ。
夢ではなかったの?本当に一緒に行ってもいいのだろうか。
こんな自分が?
どうした?とでも言うようにシルヴァが先を行こうとするから、慌ててついていく。
頭の中は未だ、喜びと恐怖が綯い交ぜになったようにぐるぐるしている。
シルヴァととなりあって歩いていると、昨日はいつまでもたどり着けなかった森の端に出た。
ほとんど歩いていないのに一瞬で着いたから不思議だった。
目の前には、ぽつんと小さな家がある。
そこに向かってシルヴァはずんずん歩いていく。
どうやらここに住んでいるらしい。
家の中に入ると、まるで生活感がなかった。
ぼうっと室内を見渡しているとシルヴァが隣にしゃがみ込み、目線を合わせてくる。
星のようなきれいな瞳がこちらを映し、その瞳に黒が映る。
そのことに、ゾクリとしたしびれが走った。
?なんだろう。
疑問に思いながらも続くシルヴァの言葉に意識が移る。
親代わり、大人になるまで。
シルヴァがそう言った。
シルヴァが親?
シルヴァも、大人のようには見えないけど育てると言っている。
大人になるまで?
その後は?
その後はどうなるのだろう。
その続きを聞きたかったのに、シルヴァはそれ以上言ってはくれなかった。
そうしてシルヴァに触れるなと言われた理由を知った。
自分がつけていた魔道具と同じようなものをつけている。
そのことを嘆くでもなく、当たり前のような顔をして笑っている。
魔力を吸う。
だから、シルヴァには触れない。
そのことにひどく気分が落ち込んだ。
触れられない、そう思えば思うほど、触れたくなる。
視線を下ろし、ネロを見ると、やはり表情は変わらない。
そんなネロに苦笑しつつ、家の扉を開ける。
内心、家の前に知らない人がいたらどうしようかと、身構えていたんだが杞憂だったようだ。
ネロを先に入れ、扉を閉める。
思ったより大きな音がバタンと響いた。
その音にネロがピクッと反応する。
…大きな音が怖いんだろうか。
気を付けないとな。
しゃがみ込んでネロと視線を合わせる。
「ネロ、これから俺がお前の親代わりとして育てる。だから、安心してくれ。お前が大人になるまで俺が守るからな」
ネロの瞳が丸くなっていっそう猫のようになった。
「あ、一つ注意してほしいんだが、俺は魔力を吸い取ってしまう体質なんだ。だから、よっぽどのことがない限り絶対に触れるなよ」
昨日言えばよかったなと思いながら袖をまくる。腕についているのは、ずっとつけている魔道具だ。
魔力を吸わないようにするやつな。
魔道具を見せると、ネロの体がびくりと跳ねた。
あ、そうだ。ネロにもこれと似たようなのがつけられていたんだったか。
しまった、トラウマともいえるようなものを目の前に出してしまった。
すぐに袖を下ろし魔道具を隠す。
「すまん、…まあ、そういうことだから気を付けてくれ」
「これから、ご飯を食べさせたい…ところなんだが、すまない。家にはない。見たらわかると思うんだが、俺は昨日ここに越してきたばかりなんだ。だからこれから街に行っていろいろ調達して来ようと思ってる。一緒に来てくれるか?」
うなずいてくれるだろうか。
連れて行くと決めたものの、ネロが行きたくないと言えば無理やりに連れていく気はない。
無理に連れて行って外を怖がるようになったら行けないからな。
「…行く」
おお、良かった。そうだよな。知らんところで一人は嫌だよな。
「よし、そうと決まれば…とりあえず綺麗にするか」
すすけた顔を見て鞄から水の入ったバケツを取り出した。
――
(ネロサイド)
寝ころんだものの到底眠ることもできなくて隣の彼を凝視する。
瞳を閉じたその姿はまるで天使が眠っているようで生きている人間と思えない。
飽きることもなくその姿を見続ける。
目を閉じれば消えてしまうのではないかと怖かった。
いつの間にか太陽が空に昇っていた。
彼が身じろぎする。
どうやら、一夜が明けたらしい。
結局一睡もせず見つめていた彼が、こちらを向いた。
瞳を見たくて目元を注視する。
心臓がバクバクと音を立てた。
彼にも聞こえていたのかもしれない。
その瞳が開いたとき引きつった声が彼から洩れた。
屋敷にいたときにもよく聞いていたので驚かない。
引きつった顔のまま「おはよ」と声をかけてくる。
その声に返すこともできなくて無言のままうなずく。
彼は「シルヴァ」というらしい。
シルヴァ、シルヴァ。心の中で何度も反すうして刻み込む。
綺麗な彼にぴったりの名前なのだろう。
次いで聞かれたのは自分の名前。
記憶をひっくり返してみてもそれらしい名前で呼ばれたことはない。
おい、とか、お前とか。到底名前とは言えないようなことを言われてきた。
だけども、悲しくはなかった。どうでもよかったから。
それなのに彼、シルヴァが名前を付けてくれるという。
胸にじんわりと何かが広がった。
「ネロ」
彼が発した瞬間、全身が心臓になったみたいに胸が震えた。
何物でもなかった自分が「ネロ」という個になった瞬間だった。
喜びの感情があふれ出して、機能していなかった顔にまで現れていると、気づいたのはシルヴァが俺を見て優しく笑っていたから。
慈愛に満ちた顔。
初めて向けられた感情にどうすればいいのかわからなくなってうつむく。
自分にこんな感情があったことに驚いた。
恐れ、孤独、痛み。
そんな感情さえ忘れていたのに、シルヴァに会っただけでこんなにもいろんな感情が溢れてくる。
次いで言われた言葉に体が硬直した。
家へ。
夢ではなかったの?本当に一緒に行ってもいいのだろうか。
こんな自分が?
どうした?とでも言うようにシルヴァが先を行こうとするから、慌ててついていく。
頭の中は未だ、喜びと恐怖が綯い交ぜになったようにぐるぐるしている。
シルヴァととなりあって歩いていると、昨日はいつまでもたどり着けなかった森の端に出た。
ほとんど歩いていないのに一瞬で着いたから不思議だった。
目の前には、ぽつんと小さな家がある。
そこに向かってシルヴァはずんずん歩いていく。
どうやらここに住んでいるらしい。
家の中に入ると、まるで生活感がなかった。
ぼうっと室内を見渡しているとシルヴァが隣にしゃがみ込み、目線を合わせてくる。
星のようなきれいな瞳がこちらを映し、その瞳に黒が映る。
そのことに、ゾクリとしたしびれが走った。
?なんだろう。
疑問に思いながらも続くシルヴァの言葉に意識が移る。
親代わり、大人になるまで。
シルヴァがそう言った。
シルヴァが親?
シルヴァも、大人のようには見えないけど育てると言っている。
大人になるまで?
その後は?
その後はどうなるのだろう。
その続きを聞きたかったのに、シルヴァはそれ以上言ってはくれなかった。
そうしてシルヴァに触れるなと言われた理由を知った。
自分がつけていた魔道具と同じようなものをつけている。
そのことを嘆くでもなく、当たり前のような顔をして笑っている。
魔力を吸う。
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