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第47話 調査・獨昭媛編②
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姜皇后の語った通り、架子台にちょこんと腰掛けている妃……獨昭媛は枯れ枝のような華奢な身体つきをしている。
猫のような目も印象深い。深い緑色の衣はまるで翡翠が輝きを放っているかの如き美しさを感じさせてくれる。
「わらわが獨じゃ。ふたりともよくぞ参った」
動作と声から放たれていく尊大な空気を肌でひしひしと感知する。
(何もかもが皇后様とは正反対……迂闊には動けない)
「獨昭媛様。こちらこそ急な申し出を受け入れてくださり感謝いたします」
恭しい朝日の態度が心地良いのか、獨昭媛はにんまりと笑う。まるで猫が歯茎を出して笑っているようで、不気味さを少しだけ感じた。
「当たり前よ。皇后様の医師長と薬師からの申し出を断る訳があるまい」
「恐悦至極に存じます」
(この空気……冷たい。ひりひりとしていて、痛みすらも感じてしまって……)
「朝日とやら。わらわは常日頃からそなたの事が気になっておったのよ」
獨昭媛は架子台から立ち上がると、跪く朝日の元に近寄り、彼の下顎に手を添える。
その様子を視界にとらえた瞬間、ばちばちと美雪の身体に凄まじい緊張感が走り出した。そのせいか、足の指先と手が小刻みに震え出す。
「皇后様は5人ものお子達をお産みになっておるじゃろう? しかしわらわには未だ子がおらん……」
(なるほど。朝日さん……私達のお力をお借りしたいと仰りたいのでしょうか)
美雪の推察は的中する。
「そなた達の叡智をわらわにももたらして欲しいのじゃ」
「ふむ。獨昭媛様は、今すぐにでもお子が欲しいのでございますね?」
「当たり前の事を抜かすでない。朝日。わらわは子を産まなければ、望むものは手入らんのだ」
ここで一瞬だけ獨昭媛の眉が八の字に下がったのを、美雪は見逃さなかった。考えるよりも緊張感よりも早く声がぽんと口から飛び出た。
「おそれながら獨昭媛様」
「そなたは……」
「お初にお目にかかります。美雪と申します」
「美雪か。申してみよ」
しかし抜け出てきたはずの緊張感が喉を締め付け、声が出なくなる。それをぐっとこらえながら、私は……と切り出した。
「家族がいてこそ、得られるやすらぎもある。という事でしょうか?」
「……ほほう。そなた……」
「私は、姉を失いました。それにこれまで家族を殺された者も見てまいりました……」
獨昭媛がじっと大きな瞳を美雪へ移す。そして朝日の下顎に添えていた手で彼女の右頬に触れた。
(ぬくもりが、ない……)
獨昭媛の指は冷たく、ひんやりとしている。熱がどこにも感じられない。それにどこか冷たさの奥には寂しさも籠っているような気がしてしまう。
本当に嫉妬深い妃であるとするならば、この寂しさを紛らわす為のものではないか……考えを巡らせ始めた途端、もう片方の手も頬に触れた。
「そなた、おもしろいな」
「へ?」
両手で頬をむぎゅっと抑えられた。そのせいで美雪の口は金魚のように突き出た格好になってしまう。
「わらわの痛い所を衝くとは想像しておらなんだ。逆に問おう。そなた、わらわの事をどう感じている?」
「獨昭媛様の事でございますか?」
「そうじゃ。わらわは……嫉妬深い妃。そなたもそう見えているのであろう?」
「あ……」
仕返しと言わんばかりに核心を貫かれた。このままはっきりと認めた方が良いのか、それとも嘘をついて彼女の機嫌取りを優先した方がいいのか。考えた結果、美雪は大きく首を縦に振った。
「申し訳ございません。私は獨昭媛様の事をよく存じておりませんでした。それゆえに嫉妬深いと言うお話だけしか……」
じろり。と蛇のような鋭い視線を浴びる。
「わらわは確かに嫉妬深いと自分でも思う。子を孕んだ妃は殺してやりたい程に憎い……! ここだけの話、嫌がらせをした事もある。数え切れないほどに」
ぎり。と歯と歯が擦れて生じる不協和音が鼓膜を揺らした。
(やはり、噂通り……!)
「だが…なるほどな。確かに暁華殿から烈華殿まではかなりの距離がある。わらわの事を知らんのも不思議ではないか。しかし」
(機嫌を損ねてしまったら……獨昭媛様は何をなさるか読めない。斬首と言われても……)
湧き上がって来る恐怖に耐え切れず、瞼をぎゅっとつむり、震える両手を握りしめる。すると朝日が小さな声で自分の名前を呼んだ気がした。
「よろしい」
「え……?」
「正直者でよい。そなたはそなたの罪を認めた。ならばわらわも赦そう」
まるで皇帝となったかの如き尊大な空気と共に、緊張感が緩んでいくのを感じる。だが未だに両手で頬を挟まれているので、大きく息を吐いたりは出来ないが。
「朝日よ。この薬師をわらわに寄越せ」
「え、あ、はい?」
猫のような目も印象深い。深い緑色の衣はまるで翡翠が輝きを放っているかの如き美しさを感じさせてくれる。
「わらわが獨じゃ。ふたりともよくぞ参った」
動作と声から放たれていく尊大な空気を肌でひしひしと感知する。
(何もかもが皇后様とは正反対……迂闊には動けない)
「獨昭媛様。こちらこそ急な申し出を受け入れてくださり感謝いたします」
恭しい朝日の態度が心地良いのか、獨昭媛はにんまりと笑う。まるで猫が歯茎を出して笑っているようで、不気味さを少しだけ感じた。
「当たり前よ。皇后様の医師長と薬師からの申し出を断る訳があるまい」
「恐悦至極に存じます」
(この空気……冷たい。ひりひりとしていて、痛みすらも感じてしまって……)
「朝日とやら。わらわは常日頃からそなたの事が気になっておったのよ」
獨昭媛は架子台から立ち上がると、跪く朝日の元に近寄り、彼の下顎に手を添える。
その様子を視界にとらえた瞬間、ばちばちと美雪の身体に凄まじい緊張感が走り出した。そのせいか、足の指先と手が小刻みに震え出す。
「皇后様は5人ものお子達をお産みになっておるじゃろう? しかしわらわには未だ子がおらん……」
(なるほど。朝日さん……私達のお力をお借りしたいと仰りたいのでしょうか)
美雪の推察は的中する。
「そなた達の叡智をわらわにももたらして欲しいのじゃ」
「ふむ。獨昭媛様は、今すぐにでもお子が欲しいのでございますね?」
「当たり前の事を抜かすでない。朝日。わらわは子を産まなければ、望むものは手入らんのだ」
ここで一瞬だけ獨昭媛の眉が八の字に下がったのを、美雪は見逃さなかった。考えるよりも緊張感よりも早く声がぽんと口から飛び出た。
「おそれながら獨昭媛様」
「そなたは……」
「お初にお目にかかります。美雪と申します」
「美雪か。申してみよ」
しかし抜け出てきたはずの緊張感が喉を締め付け、声が出なくなる。それをぐっとこらえながら、私は……と切り出した。
「家族がいてこそ、得られるやすらぎもある。という事でしょうか?」
「……ほほう。そなた……」
「私は、姉を失いました。それにこれまで家族を殺された者も見てまいりました……」
獨昭媛がじっと大きな瞳を美雪へ移す。そして朝日の下顎に添えていた手で彼女の右頬に触れた。
(ぬくもりが、ない……)
獨昭媛の指は冷たく、ひんやりとしている。熱がどこにも感じられない。それにどこか冷たさの奥には寂しさも籠っているような気がしてしまう。
本当に嫉妬深い妃であるとするならば、この寂しさを紛らわす為のものではないか……考えを巡らせ始めた途端、もう片方の手も頬に触れた。
「そなた、おもしろいな」
「へ?」
両手で頬をむぎゅっと抑えられた。そのせいで美雪の口は金魚のように突き出た格好になってしまう。
「わらわの痛い所を衝くとは想像しておらなんだ。逆に問おう。そなた、わらわの事をどう感じている?」
「獨昭媛様の事でございますか?」
「そうじゃ。わらわは……嫉妬深い妃。そなたもそう見えているのであろう?」
「あ……」
仕返しと言わんばかりに核心を貫かれた。このままはっきりと認めた方が良いのか、それとも嘘をついて彼女の機嫌取りを優先した方がいいのか。考えた結果、美雪は大きく首を縦に振った。
「申し訳ございません。私は獨昭媛様の事をよく存じておりませんでした。それゆえに嫉妬深いと言うお話だけしか……」
じろり。と蛇のような鋭い視線を浴びる。
「わらわは確かに嫉妬深いと自分でも思う。子を孕んだ妃は殺してやりたい程に憎い……! ここだけの話、嫌がらせをした事もある。数え切れないほどに」
ぎり。と歯と歯が擦れて生じる不協和音が鼓膜を揺らした。
(やはり、噂通り……!)
「だが…なるほどな。確かに暁華殿から烈華殿まではかなりの距離がある。わらわの事を知らんのも不思議ではないか。しかし」
(機嫌を損ねてしまったら……獨昭媛様は何をなさるか読めない。斬首と言われても……)
湧き上がって来る恐怖に耐え切れず、瞼をぎゅっとつむり、震える両手を握りしめる。すると朝日が小さな声で自分の名前を呼んだ気がした。
「よろしい」
「え……?」
「正直者でよい。そなたはそなたの罪を認めた。ならばわらわも赦そう」
まるで皇帝となったかの如き尊大な空気と共に、緊張感が緩んでいくのを感じる。だが未だに両手で頬を挟まれているので、大きく息を吐いたりは出来ないが。
「朝日よ。この薬師をわらわに寄越せ」
「え、あ、はい?」
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