後宮に咲く毒花~記憶を失った薬師は見過ごせない~

二位関りをん

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第48話 調査 獨昭媛・双貴妃編

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「申し訳ございませんが応じられません。美雪は俺の、いや、俺達の大事な仲間ですから」

 即答に美雪は驚きながら朝日へ視線を投げかける。心の中ではすこしだけぬくもりが芽生えていた。
 獨昭媛はようやく美雪の頬から手を離すとかがんだまま朝日に顔を近づける。その威圧感はとにかくすさまじい。

「なぜじゃ。わらわからの申し出を断るのか」
「さようでございます。しかしある提案は可能です」
「ほう。取引か。話してみよ」
「今から獨昭媛様をご診察いたします。そしてご希望であれば薬も処方いたします。どうでしょうか? 魅力的な提案だと俺は考えますが」

 確かに良い提案だ。美雪も反論は思い浮かばない。

(獨昭媛様の手は冷たい。もし……慢性的な冷えだとすると、子作りにはあまりよろしくないとは言えますものね……)
「美雪、獨昭媛様から顔を触れられていたが、どうだった?」
「ひんやりとしておりました。……その、獨昭媛様は冷え症でございますか?」
「言われてみればそうよのう……」

 彼女が着用している衣服は、どこからどう見ても冬用。しかも羽織は4枚ほど重ねているだろうか。私室を見渡してみると架子台の奥には火鉢らしきものがあるのに気がつく。

「獨昭媛様。ご診察いたしましょう。お子を望まれていらっしゃるのなら、早い方が良いかと」
「有無をも言わさぬ勢いだな朝日よ。わかった。わらわの負けじゃ! 早く診察を始めると良い!」
「はっ、ありがたき幸せに存じます!」

 半ば強引な診察の開始だが、美雪はようやく胸の奥で安堵の息をつく事が出来た。
 問診と触診の結果、やはり彼女は慢性的な冷えを抱えているのと、痩せすぎているのでは? と診断が下る。実際5人もの子を産んだ姜皇后はどちらかと言えばふくよかな部類。彼女と比べてみると獨昭媛の体型は爪楊枝にさえ見えてしまう程だ。

 そして月のものが定期的には来ていない事実が判明する。

「それではお子を宿す事は中々に難しいかと」
「それは我が医者団の者達も言っておった。だが具体的には何をすればよい?」
「即効性があるものですと、食事の量を増やされてはいかがでしょうか?」
「わらわはそこまで食えぬ! まぁ昔はたくさん食えていたがの」

 獨昭媛はぷいっと子供のように首を振った。ぴしゃりとした反応に、これは一筋縄ではいかなさそうだと察してしまう。

「美雪、中々手ごわそうだな」

 小さな囁きに美雪は小さく首を縦に振る。

「獨昭媛様。無理に食べるのもしんどいでしょう。普段よく頂かれていらっしゃる品々を教えていただけますでしょうか?」
「そうじゃのう、雑炊と鳥肉と、木の実は好きじゃな」
「でしたらそれらを食してみてください。鳥肉は焼いてみたり……一気に多量を口にするよりも、小刻みにお召しになるのもいかがかと」
「なるほどな……食事の回数を増やすという事じゃな?」

 さようでございます。と返すとふんふんと興味を持っていそうな反応が来た。

「そしてお休みになられる時間も重要でございます。睡眠と食事、そして軽めの運動は何よりも大事でございますからね」
「うちの医師団と申している事は殆ど変わらんな。面白くないゆえに無視してきたが……待てよ。という事は皇后様も同じ事をされていらっしゃるのか?」

 姜皇后も出来る限り規則正しい生活を送っている。いつも温かいお白湯かお茶を飲む事が多く、食事もしっかり取っているし、夜伽が無い日はかなり早い時間帯に眠っていたはずだ。
 その情報を朝日が伝えると、獨昭媛は腕組みをして考え込む仕草を見せる。

「今までは試してもすぐに効果が出んとやめる事が多かった。だからそなた達が来てくれて嬉しいと思ったのだ」
「獨昭媛様。大事なのは継続する事でございます。確かに薬にはすぐに効果が出るものもございますが。薬だけに頼るのもいけません」
(朝日さんの言う通り。薬もそうだけど、途中でやめたらそれまでになってしまう)

 朝日の説得は力強く、獨昭媛の威圧感を全く意に介していないのがひしひしと伝わって来る。

「わかった。そなたの言う通り、暮らしぶりも変えていこう」
「ちなみにですが。食が細いのはいつからでございますか?」
(確かにそうだ。さっき昔はたくさん食えていたって仰っていましたし、何かきっかけがあるはず)
「子を流産してしまってからじゃな。その前はつわりと言っても食べづわりの部類じゃった」

 わりと最近だという事が判明したので、朝日の目は更に鋭さを増す。

「他に体調の変化は?」
「獨昭媛様!」

 ここで後ろから宦官達が慌てた様子で駆けこんできた。

「陛下がこちらにお越しになるようでございます!」
「なんじゃと?! すまぬ。朝日と美雪、これからわらわは陛下からのご寵愛を受け止めなければならぬ故、ここまでじゃ。続きはまたの機会で良いか?」
「はっ。お忙しいところお話しできて感謝いたします」
「わらわも良かった。宦官達よ。この者を玄関まで送り届けてやれ!」

 結局肝心の部分が聞けぬまま話は終わってしまった。烈華殿の入り口まで宦官らに送り届けられた美雪は朝日と共に石畳の地面を踏みしめる。

「ふう。かなり収穫を得た気がするが、美雪はどうだ?」
「朝日さん……私の考えをお話してもよろしいでしょうか」
「ああいいぞ。遠慮なく言ってくれ」
「ちょっとわがままと言いますか、子供っぽいなとは感じました」

 そうだなぁ。と朝日は腕組みをしながら鼻を鳴らし始めた。嫉妬深い点はあるが、それ以外にもいくつかの側面がある。

「獨昭媛様は、予測がつかないお方だと感じました」
「俺もだ。猫の目のようにころころと変わる。それでいて嫉妬の部分は認めた」
「手ごわいお方でございますよね……」
「美雪。白雪を殺したのは獨昭媛様の仕業だと思うか?」

 少し間をおいてから、そうは思いづらい。と正直に打ち明ける。

「そうか。俺と同じだな」
「朝日さんもでございますか?」
「あぁ。まだ判断材料は乏しいが」
「まだ調べる必要がございますね……」

 よし、双貴妃様の元へ向かうとするか。と朝日は右手を差し出してくる。
 美雪は意図がわからないまま差し伸べられた手を掴んだ。

「確か……あっちだったか」

 西側の方角へ歩き出すと、大きな屋敷が目の前に現れる。
 双貴妃の屋敷は月華殿。こちらも暁華殿と外見はよく似ているし、広さもほぼ同じくらいだ。
 しかし出入口付近には多くの医師や薬師が詰めかけて宦官らと問答を繰り返している。その中には以前黄色い瞳の妃を追いかけていたらしき、鎖骨位の長さをした茶髪を持つ若い男性薬師の姿もあった。

「だめだ! 双貴妃様には会わせられない!」

 宦官らと共にそう叫び続ける彼は眉をつり上げ、明らかに怒っていた。

「どうしたんでしょう?」
「双貴妃様には会わせたくない、か……何か事情でもあるのだろうか。言ってみる」

 君は後ろに控えているんだぞ。と念を押されたので彼の言う通り、半歩後ろに位置どる。群がっている医師達を押しのけながら、茶髪の男性薬師の目の前まで近づいた。

「皇后様付きの医師団長・朝日だ。何があったんだ?」
「っ、朝日様でございますか」

 茶髪の男性薬師は美雪の視点からでもわかりやすく驚いていた。彼がここに来るとは思っていなかったのが、よくわかる。

「お初にお目にかかります。宇鐘ユーヂョンと申します」
「宇鐘、何か起きたのか?」
「双貴妃様は誰ともお会いにならない。その事をお伝えしているまででございますが……」

 その時だった。
 若い女性らしき半身が、左側の奥の隙間より美雪に向けて手招きしている。顔は隠れて見えないが、彼女が誰かすぐに察知した。

(あのお妃様でございますね……?) 
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