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第20話 船にて
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「か、佳賢妃様……!」
「しっ桃玉ちゃん……! あ、この棚入ってもいいかな?」
いたずらっぽく笑いながら小声で桃玉に語り掛ける佳賢妃。彼女の目つきは姉の佳淑妃とは違い、ややたれ目で優しく穏やかな雰囲気をまとっている。
「大丈夫です、お気をつけて」
「んじゃまあ、失礼しますわ」
よっこいしょ。と小声で言いながら桃玉の右側にある棚に佳賢妃は身を隠した。
(い、良いのかな……これで……でも相手は賢妃様だからあんまり強くは言えないしなあ……)
「桃玉様、どうするので?」
女官から尋ねられた桃玉は、彼女にだって、立場上逆らえないし……。と耳元で小さく答える。
「そ、そうでございますよね。お相手は四夫人の一角である賢妃様でございますから……」
「でしょ? だからこっちからは強く言えないって……」
ごにょごにょと女官と話しながら、佳賢妃の入った棚を見つめる桃玉。辺りはしん……。と静まり返っている。
(このままお昼ご飯の時間までいるのかな……)
時間は刻々と過ぎていく。しかしも桃玉が待てども待てども棚から佳賢妃が出て来る気配はないし、桃玉の部屋に佳淑妃が来る気配もない。
(……佳淑妃様の元へ言いに行こうかしら……)
「桃玉様?」
椅子からすっと立ち上がる桃玉へ、女官が目線を向ける。すると部屋の外からがやがやと誰かが話しているような声が聞こえだした。
「なんだろう……? ちょっと見に行ってきます」
桃玉がその会話が聞こえてきた方へと移動すると、そこには佳淑妃が女官達を集めて何やら話をしている場面へと遭遇する。
「もう結構時間は過ぎている。昼食の時間もあるし、早く見つけないと……」
「佳淑妃様、私も佳賢妃様をお探しいたします!」
「佳賢妃を見つけた者には褒美をとらす! 皆、よろしく頼む!」
(褒美!)
褒美という言葉に目がくらんだ桃玉は自身の部屋へと走って戻ると、佳賢妃が隠れている棚の扉を思いっきり開いた。
「なっ、なんだなんだ!」
「佳淑妃様! こちらです――!!」
「ちょ、まっ!」
桃玉が佳賢妃の右手を取り、棚から引きはがすようにして外へと出すのと同時に、佳淑妃が桃玉の部屋へと走ってきた。
「ここにいたのか!」
「桃玉ちゃん匿ってっていったじゃん――! ちょ、姉ちゃん離してって!」
「桃玉に罪はない、ほら帰るぞ! もうお昼ごはんの時間だ!」
「え、もうそんな時間?」
佳淑妃に首根っこを掴まれている佳賢妃はとぼけた様子を見せると、佳淑妃ははあ……全く。と大きなため息を吐いた。
「こんな時間まで籠城していたのだから、午前の稽古は終了だ。さっさと帰るぞ!」
「やった。お昼ご飯楽しみ――!」
「桃玉。褒美は後でつかわす」
「は、はい……」
こうして、嵐のような双子の姉妹は自室へと去っていった。
「……すごかったですね」
桃玉の呟きに女官は大きく首を縦に振った。
「そうでございますね。さすがはお2人というべきでしょうか」
◇ ◇ ◇
時は過ぎ、水龍表演が行われる日がやってきた。
「桃玉様。お時間でございます」
「わかりました。出ます」
桃玉は女官達と共に照天宮を出て、中庭の龍羽池へと歩いて向かう。道中、女官を引き連れた妃達の姿や表演をこっそり見ようとしている下女達が建物の裏に隠れて語り合う姿も見られた。
「なんだか盛り上がってますね」
「そうでございますね。皆大道芸人による表演は楽しみにしていらっしゃいますので」
基本、後宮の女達は宮中の外には出る事が叶わない。その為外部から大道芸人がやってきて芸を披露する事は彼女達からすると貴重な娯楽の1つでもあるのだ。
「ここか」
桃玉の目の前には広大な池が現れた。池の上には桃色の花を咲かせている睡蓮の姿や、睡蓮の間を飛び交う水鳥達の姿も見られる。
「桃玉」
桃玉が後ろを振り返ると、そこには宦官達を引き連れた龍環の姿があった。久しぶりの再会に桃玉はどきっと身体を震わせる。
「りゅ、あ、こ、皇帝陛下……!」
(龍環様って言おうとしてた……! こんな大勢の人達の前で言ったら怪しまれる!)
「噛んだ?」
「あ、はい……」
「なんか思ったよりかわいいね。あ、桃玉は俺と同じ船だからよろしく」
「そ、そうなのですか?」
(初めて聞いたんだけど!)
龍環は船着き場の左側に停泊している、最も大きな赤い龍を模したような船を指さした。船には屋根がついており座席も広々としている。
「桃玉、乗って」
「は、はい……」
「最近はあやかしが関係している話は聞いていない。けど油断はしないで」
「! わかりました……!」
「何かあったらすぐに言うから。じゃあ、乗って」
龍環に促されて船に乗船する桃玉。龍環の後ろ側にはひょっこりと佳賢妃の姿もあった。船に乗った桃玉の左隣に佳賢妃が座る。
「桃玉ちゃんじゃん! おはよ、元気だった?」
「はい、おかげさまで……」
「わが妹と皇帝陛下だけではなく、桃玉とも同じ船とはな」
「……佳淑妃様!」
佳淑妃も船に乗船してきた。龍環はあれ、面識あるの? とでも言いたそうな表情を浮かべている。
「皇帝陛下、李昭容とは何度か話をした仲でございます。妹は……この間李昭容に迷惑をかけましたが」
「ちょ、姉ちゃん! や、皇帝陛下。その……いじめたとかそういうのではありませんので……」
「えっ何したの……?」
結局佳賢妃が剣と槍の稽古から逃げて、桃玉の部屋の棚で隠れていた話は全て、龍環にバラされる事となったのだった。
そんなこんなでいよいよ、水龍表演開幕の時間がやってきた。大道芸人の乗ったやや簡素な船が桃玉の目の前へと現れる。
船に乗った大道芸人は、その場で肩車の体勢を取ると、肩の上に座る人物は棒と白い皿を取り出し、皿回しの芸を始める。
「しっ桃玉ちゃん……! あ、この棚入ってもいいかな?」
いたずらっぽく笑いながら小声で桃玉に語り掛ける佳賢妃。彼女の目つきは姉の佳淑妃とは違い、ややたれ目で優しく穏やかな雰囲気をまとっている。
「大丈夫です、お気をつけて」
「んじゃまあ、失礼しますわ」
よっこいしょ。と小声で言いながら桃玉の右側にある棚に佳賢妃は身を隠した。
(い、良いのかな……これで……でも相手は賢妃様だからあんまり強くは言えないしなあ……)
「桃玉様、どうするので?」
女官から尋ねられた桃玉は、彼女にだって、立場上逆らえないし……。と耳元で小さく答える。
「そ、そうでございますよね。お相手は四夫人の一角である賢妃様でございますから……」
「でしょ? だからこっちからは強く言えないって……」
ごにょごにょと女官と話しながら、佳賢妃の入った棚を見つめる桃玉。辺りはしん……。と静まり返っている。
(このままお昼ご飯の時間までいるのかな……)
時間は刻々と過ぎていく。しかしも桃玉が待てども待てども棚から佳賢妃が出て来る気配はないし、桃玉の部屋に佳淑妃が来る気配もない。
(……佳淑妃様の元へ言いに行こうかしら……)
「桃玉様?」
椅子からすっと立ち上がる桃玉へ、女官が目線を向ける。すると部屋の外からがやがやと誰かが話しているような声が聞こえだした。
「なんだろう……? ちょっと見に行ってきます」
桃玉がその会話が聞こえてきた方へと移動すると、そこには佳淑妃が女官達を集めて何やら話をしている場面へと遭遇する。
「もう結構時間は過ぎている。昼食の時間もあるし、早く見つけないと……」
「佳淑妃様、私も佳賢妃様をお探しいたします!」
「佳賢妃を見つけた者には褒美をとらす! 皆、よろしく頼む!」
(褒美!)
褒美という言葉に目がくらんだ桃玉は自身の部屋へと走って戻ると、佳賢妃が隠れている棚の扉を思いっきり開いた。
「なっ、なんだなんだ!」
「佳淑妃様! こちらです――!!」
「ちょ、まっ!」
桃玉が佳賢妃の右手を取り、棚から引きはがすようにして外へと出すのと同時に、佳淑妃が桃玉の部屋へと走ってきた。
「ここにいたのか!」
「桃玉ちゃん匿ってっていったじゃん――! ちょ、姉ちゃん離してって!」
「桃玉に罪はない、ほら帰るぞ! もうお昼ごはんの時間だ!」
「え、もうそんな時間?」
佳淑妃に首根っこを掴まれている佳賢妃はとぼけた様子を見せると、佳淑妃ははあ……全く。と大きなため息を吐いた。
「こんな時間まで籠城していたのだから、午前の稽古は終了だ。さっさと帰るぞ!」
「やった。お昼ご飯楽しみ――!」
「桃玉。褒美は後でつかわす」
「は、はい……」
こうして、嵐のような双子の姉妹は自室へと去っていった。
「……すごかったですね」
桃玉の呟きに女官は大きく首を縦に振った。
「そうでございますね。さすがはお2人というべきでしょうか」
◇ ◇ ◇
時は過ぎ、水龍表演が行われる日がやってきた。
「桃玉様。お時間でございます」
「わかりました。出ます」
桃玉は女官達と共に照天宮を出て、中庭の龍羽池へと歩いて向かう。道中、女官を引き連れた妃達の姿や表演をこっそり見ようとしている下女達が建物の裏に隠れて語り合う姿も見られた。
「なんだか盛り上がってますね」
「そうでございますね。皆大道芸人による表演は楽しみにしていらっしゃいますので」
基本、後宮の女達は宮中の外には出る事が叶わない。その為外部から大道芸人がやってきて芸を披露する事は彼女達からすると貴重な娯楽の1つでもあるのだ。
「ここか」
桃玉の目の前には広大な池が現れた。池の上には桃色の花を咲かせている睡蓮の姿や、睡蓮の間を飛び交う水鳥達の姿も見られる。
「桃玉」
桃玉が後ろを振り返ると、そこには宦官達を引き連れた龍環の姿があった。久しぶりの再会に桃玉はどきっと身体を震わせる。
「りゅ、あ、こ、皇帝陛下……!」
(龍環様って言おうとしてた……! こんな大勢の人達の前で言ったら怪しまれる!)
「噛んだ?」
「あ、はい……」
「なんか思ったよりかわいいね。あ、桃玉は俺と同じ船だからよろしく」
「そ、そうなのですか?」
(初めて聞いたんだけど!)
龍環は船着き場の左側に停泊している、最も大きな赤い龍を模したような船を指さした。船には屋根がついており座席も広々としている。
「桃玉、乗って」
「は、はい……」
「最近はあやかしが関係している話は聞いていない。けど油断はしないで」
「! わかりました……!」
「何かあったらすぐに言うから。じゃあ、乗って」
龍環に促されて船に乗船する桃玉。龍環の後ろ側にはひょっこりと佳賢妃の姿もあった。船に乗った桃玉の左隣に佳賢妃が座る。
「桃玉ちゃんじゃん! おはよ、元気だった?」
「はい、おかげさまで……」
「わが妹と皇帝陛下だけではなく、桃玉とも同じ船とはな」
「……佳淑妃様!」
佳淑妃も船に乗船してきた。龍環はあれ、面識あるの? とでも言いたそうな表情を浮かべている。
「皇帝陛下、李昭容とは何度か話をした仲でございます。妹は……この間李昭容に迷惑をかけましたが」
「ちょ、姉ちゃん! や、皇帝陛下。その……いじめたとかそういうのではありませんので……」
「えっ何したの……?」
結局佳賢妃が剣と槍の稽古から逃げて、桃玉の部屋の棚で隠れていた話は全て、龍環にバラされる事となったのだった。
そんなこんなでいよいよ、水龍表演開幕の時間がやってきた。大道芸人の乗ったやや簡素な船が桃玉の目の前へと現れる。
船に乗った大道芸人は、その場で肩車の体勢を取ると、肩の上に座る人物は棒と白い皿を取り出し、皿回しの芸を始める。
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