後宮浄魔伝~視える皇帝と浄魔の妃~

二位関りをん

文字の大きさ
19 / 79

第19話 佳賢妃

しおりを挟む
(そっか……まだ誰ともしてないのか……佳淑妃様って妹いらしたんだ)

 桃玉は茶器に入ったお茶をごくりと飲み干す。

(なんか、嬉しいと思ってる自分がいるかもしれない)

 桃玉はほんの少しだけ、安堵に似た気持ちを抱えながら女官からお茶とお菓子のおかわりを頂いたのだった。

◇ ◇ ◇

 それから後宮での諍いやあやかしが悪さをしているという話も起こらず平和な時間が流れ、そのまま数日が経過した。

「水龍表演ですか?」
「はい。大道芸人の方々が後宮で芸を披露するそうで」
「なるほど……」

 自室でお茶を飲んでいた桃玉は、女官からある話を聞いていた。
 今から1週間後に大道芸人が後宮の中庭にある広大な池・龍羽池にて、船上を舞台に演目が披露されると言う。

「ぜひとも見てみたいですねえ……」
(大道芸か……)

 桃玉は一度だけ、大道芸を見た事がある。まだ両親が健在だった幼い頃に、村にやってきて様々な芸を披露する大道芸人を遠目から見たのだった。

(なんか、輪っかを持った演技をしていたような記憶はあるかな……)
「楽しみですね」
「後宮ではよく大道芸人を招いて宴を催したりするのですよ。皇帝陛下と仲を深める良い機会でもあります」
(龍環様もいらっしゃるのね)
「桃玉!」

 突如、桃玉の部屋に佳淑妃が女官達を引き連れて現れた。

「佳淑妃様?!」

 後ろを振り向き驚きの声をあげる桃玉。焦りの表情を浮かべる佳淑妃を見て何かあったのですか? と問う。

「桃玉、妹を見たか?」 
「い、妹様でございますか?」
「桃玉様、佳賢妃様の事でございます……!」

 佳淑妃には佳賢妃と言う妹がいる。両者は双子の姉妹なのだが、容姿はあまり似ておらず性格も真逆。それに身長差もあるので、本当に双子の姉妹なのかと疑われる事もあるくらいだ。

(そういえば皇太后陛下への挨拶の場でも、たまに眠たそうにしている賢妃様が妹なのか……)
「見ました?」

 桃玉が自分付きの女官達にそう尋ねると、彼女達は首を横に振った。

「そうか、分かった。すまないな、邪魔をしてしまって」
「いえ、佳賢妃様早く見つかると良いですね」
「ああ……剣と槍の稽古となると、あいつはすぐにどこかへと逃げ出すのだ。では失礼する」

 佳淑妃は嵐のように女官達を引き連れて桃玉の部屋から出て行った。

(びっくりした……)

 桃玉がふうっと息を吐き、お茶を飲んだ。すると部屋の扉がぎぃ……と開かれる。

「あ、桃玉ちゃん。ちょっと匿わせて」
「あ、あなたは……」

 扉の前には佳淑妃と同じ黒髪と赤い瞳を持ち、四夫人の一角としてはやや地味な薄紅色の服装に身を包んだ佳賢妃が1人で立っていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

皇太后(おかあ)様におまかせ!〜皇帝陛下の純愛探し〜

菰野るり
キャラ文芸
皇帝陛下はお年頃。 まわりは縁談を持ってくるが、どんな美人にもなびかない。 なんでも、3年前に一度だけ出逢った忘れられない女性がいるのだとか。手がかりはなし。そんな中、皇太后は自ら街に出て息子の嫁探しをすることに! この物語の皇太后の名は雲泪(ユンレイ)、皇帝の名は堯舜(ヤオシュン)です。つまり【後宮物語〜身代わり宮女は皇帝陛下に溺愛されます⁉︎〜】の続編です。しかし、こちらから読んでも楽しめます‼︎どちらから読んでも違う感覚で楽しめる⁉︎こちらはポジティブなラブコメです。

後宮に咲く毒花~記憶を失った薬師は見過ごせない~

二位関りをん
キャラ文芸
数多の女達が暮らす暁月国の後宮。その池のほとりにて、美雪は目を覚ました。 彼女は自分に関する記憶の一部を無くしており、彼女を見つけた医師の男・朝日との出会いをきっかけに、陰謀と毒が渦巻く後宮で薬師として働き始める。 毒を使った事件に、たびたび思い起こされていく記憶の断片。 はたして、己は何者なのか――。 これは記憶の断片と毒をめぐる物語。 ※年齢制限は保険です ※数日くらいで完結予定

芙蓉は後宮で花開く

速見 沙弥
キャラ文芸
下級貴族の親をもつ5人姉弟の長女 蓮花《リェンファ》。 借金返済で苦しむ家計を助けるために後宮へと働きに出る。忙しくも穏やかな暮らしの中、出会ったのは翡翠の色の目をした青年。さらに思いもよらぬ思惑に巻き込まれてゆくーーー カクヨムでも連載しております。

後宮の手かざし皇后〜盲目のお飾り皇后が持つ波動の力〜

二位関りをん
キャラ文芸
龍の国の若き皇帝・浩明に5大名家の娘である美華が皇后として嫁いできた。しかし美華は病により目が見えなくなっていた。 そんな美華を冷たくあしらう浩明。婚儀の夜、美華の目の前で彼女付きの女官が心臓発作に倒れてしまう。 その時。美華は慌てること無く駆け寄り、女官に手をかざすと女官は元気になる。 どうも美華には不思議な力があるようで…?

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

後宮なりきり夫婦録

石田空
キャラ文芸
「月鈴、ちょっと嫁に来るか?」 「はあ……?」 雲仙国では、皇帝が三代続いて謎の昏睡状態に陥る事態が続いていた。 あまりにも不可解なために、新しい皇帝を立てる訳にもいかない国は、急遽皇帝の「影武者」として跡継ぎ騒動を防ぐために寺院に入れられていた皇子の空燕を呼び戻すことに決める。 空燕の国の声に応える条件は、同じく寺院で方士修行をしていた方士の月鈴を妃として後宮に入れること。 かくしてふたりは片や皇帝の影武者として、片や皇帝の偽りの愛妃として、後宮と言う名の魔窟に潜入捜査をすることとなった。 影武者夫婦は、後宮内で起こる事件の謎を解けるのか。そしてふたりの想いの行方はいったい。 サイトより転載になります。

後宮一の美姫と呼ばれても、わたくしの想い人は皇帝陛下じゃない

ちゃっぷ
キャラ文芸
とある役人の娘は、大変見目麗しかった。 けれど美しい娘は自分の見た目が嫌で、見た目を褒めそやす人たちは嫌いだった。 そんな彼女が好きになったのは、彼女の容姿について何も言わない人。 密かに想いを寄せ続けていたけれど、想い人に好きと伝えることができず、その内にその人は宦官となって後宮に行ってしまった。 想いを告げられなかった美しい娘は、せめてその人のそばにいたいと、皇帝の妃となって後宮に入ることを決意する。 「そなたは後宮一の美姫だな」 後宮に入ると、皇帝にそう言われた。 皇帝という人物も、結局は見た目か……どんなに見た目を褒められようとも、わたくしの想い人は皇帝陛下じゃない。

同窓会に行ったら、知らない人がとなりに座っていました

菱沼あゆ
キャラ文芸
「同窓会っていうか、クラス会なのに、知らない人が隣にいる……」  クラス会に参加しためぐるは、隣に座ったイケメンにまったく覚えがなく、動揺していた。  だが、みんなは彼と楽しそうに話している。  いや、この人、誰なんですか――っ!?  スランプ中の天才棋士VS元天才パティシエール。 「へえー、同窓会で再会したのがはじまりなの?」 「いや、そこで、初めて出会ったんですよ」 「同窓会なのに……?」

処理中です...