後宮の手かざし皇后〜盲目のお飾り皇后が持つ波動の力〜

二位関りをん

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第22話 変わり始めた流れ

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「や、休まれないのですか?」

 という李賢妃からの問いに美華ははい。と即答した。

「あなた……倒れたらどうするのですか……!」

 以前の虎脱走事件の時のやりとりを思い出した美華は困ったなあ……。と頭を掻く。

「休憩取った方がいいんでしょうけど、やっぱり見捨てられないんですよね」
「流石に皇后様なのですから厠いったりとか……それくらいは許してくれるでしょう」
「ふむふむ……」

 列に並んでいる患者達からは皇后様! 俺らに構わず休んでください! という声があがったのを聞いた美華は少しだけ考えた後に、それではお言葉に甘えて少しご飯食べてきます……! と返事をしたのだった。

「李賢妃様。よろしければご飯ご一緒しませんか?」
(えっいいの? さすがに断りにくいったら……)
「わ、わかりました……」

 治療院の空きスペースにて、早速美華は雑炊と鶏肉と野菜を炒めたものをもそもそと食べ始めた。
 李賢妃は美華からどのような品を食べますか? と聞かれ、彼女の事を理解する為にもここは同じ品を食べようと決めたのである。

(味は普通ね。それにしても皇后とは思えないくらい質素だわ……庶民と大差ないじゃない)
「皇后様は……ああ、お昼は召し上がらないのでございましたか」
「言われてみれば久しぶりのお昼ですねえ。これでもちょっと豪華な方だと思います」
(豪華? 皇后様は五大名家のひとつである雪家の出身だったはず)

 そう。美華は雪家の出身である。雪家は李賢妃の実家とは比べ物にならない程の名家のはずだ。それなのにこの品々で豪華な方だと言った美華のおかしさに李賢妃は首を傾げるばかりである。

(おかしいわ。皇后様の言っている事と、皇后様の出身が話に合わない。でもこんな事聞いていいのかしら……)
「皇后様。ご実家ではどのようなお食事をお召し上がりになられていたのでございますか?」

 意を決して聞いてみた李賢妃に、美華はああ~……と微笑んだ口元のまま、何か悩む姿を見せる。

「そうですねえ……おかゆがほとんどでした。鈴おばさまの所に行ったらたまぁに野菜の煮炊きとかもらってたんですけど」
「えっ」
「あっこれ以上は話しちゃだめって弟から言われてますので……! という訳でこの話は無かったことにしてくださいね?」
(皇后様だから、無かった事にせざるを得ない……か)

 いつの間にか完食していた美華は、では戻ります! と言って再び患者の前に現れたのだった。まだ三分の二ほど食材を残している李賢妃は、少しだけ焦りながら食事を口にして、また彼女の支援に回る。

(……まさか、あまり待遇は良くなかったのかしら。あと確か雪家には嫡男がいるけど、皇后様が弟と言ったのはその方ね)

 だが、仕事に戻ればそちらに集中しなければならない。美華並びに雪家への疑問は李賢妃の中からあっという間に消えていったのだった。

◇ ◇ ◇

 日没と共に、今日の治療院での業務は終了となる。終わりました! という美華の言葉を聞いた李賢妃は終わった……! と足から崩れ落ちていく。

「やっと終わった……思ったより激務でございましたね」
「そうでしたか?」
(冗談じゃないったら! というか、1日やってみて結構改善点が見えてきた気もするわね。今のままでは納得できない部分もあるわ)
「あの、よかったら今から夕食をご一緒しませんか? 治療院の改善点をお話ししたいのです」

 李賢妃の発案の元、鶴龍殿にて夕食を取りながら治療院の改善点について話し合う事が決まった。次々と女官らによって品々が運び込まれてくる中、李賢妃はさっさと話しましょうと言いながら、治療院が記された図面を机に広げた。

「皇后様には今お手元にある小さな模型を握ってもらいながら説明させていただきます」
「李賢妃様、これですね――!」
「そうです。まずはひとつめ。やはり治療院は狭いと考えます」

 ずばっと核心をついてきた李賢妃の言葉に、配膳中の女官達の手が止まった。

「元は皇帝陛下の命により、使わなくなった馬小屋を改装したとお聞きしましたがそれでも狭すぎます!」
「ほほう……狭いですか。私にはわかりませんでした。目が見えないので」
「いやまあ……そこは仕方がありませんよ。とはいえ、あの患者の数を裁くには、もっと倍は広げないといけないかと存じます」
「陛下から……許しを得られますかねえ」

 美華の顔が、李賢妃の方へと向いている。まるで美華からじっと見つめられているような気がした李賢妃はえっこれ私が陛下へ直訴しなければならないの? と察したが、どうやら時すでに遅しのようだった。

「って事で……お願いできますかね?」
「いや待ちなさいったら! あなた私より位が高いじゃないの!」
「でも私はお飾りなので~」
「~っ! ああ、もうわかりましたわよ! 私が頼んできます!」

 ああ、李賢妃様だけでは心細いから他の妃達からの推薦も欲しい所ですねえ……。とわざとらしく腕組みする美華へ、李賢妃はそれはあなたがやってください……。と肩を下げながら答えたのだった。

(大変な事になってしまったわ……でも皇后様から直々にお願いされたし、仕方ないか)
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