後宮の手かざし皇后〜盲目のお飾り皇后が持つ波動の力〜

二位関りをん

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第28話 どっちが大事なんだろう

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「皇后様、ご返信はいかがなさいますか?」
「う――ん……」

 ちなみに文の内容には美華が波動の力で人々の病を治している……という部分については触れられていない。福勝が本当に知らないのか、知っているけど黙っているのかまでは美華には判断がつかなかった。

「とりあえず、精のつく薬を文と一緒に送っておくべきか、返信だけですますか悩みますねえ」
「……皇后様の力を使ってほしいとは、記されていませんでしたものね」
「そうなんですよ。だから迷っています」
(仮に福勝から言われても、使いたくないけどね……)

 悩んだ末、栄養剤と共に無難な返信内容を女官に記してもらい、女官と宦官を介して専用の役人に福勝の所に送り届けてもらった。
 それから美華は湯殿で身を清め、迎えに来た宦官に裸のまま布団で身体を覆われた状態で浩明と夜を過ごす閨へと移動する。

「ふう、久しぶりですね。このふっかふかな感覚」

 美華が閨に敷かれた敷き布団の感触に癒されていると、宦官を引き連れた浩明が現れた。

「美華、入るぞ」
「あっ陛下。参りました」
「今日は君の方が……早かったのな」
「そうみたいですね。でも陛下も早かったです」

 浩明が人払いをするとささっと宦官達が消えて、閨にはふたりっきりとなる。美華は布団にくるまれたままなので、浩明が解いてあげた。
 だが何も着ていない美華にはさすがに己の目線が行こうとしない。なので彼女の上にくるまっていた布団をかけてあげる。

「ありがとうございます。あたたかいです。陛下は大丈夫ですか?」
「俺は気にするな。こっちにも布団がある」
「よかったです。……今日の陛下はなんだか優しいですね」
「君からそう言われると何だかむずがゆいな」

 むずがゆいの意味が分からないのか、ふむ……と呟くだけ呟いて、他は何も言わない美華。閨には沈黙が広がる。

「……どうかしたか?」
「あっいや……私は大丈夫です」
「緊張とかしていないのか?」
「緊張は……今は無いですね。陛下と一緒に寝られるなら、まあなんて言うのかな……」

 浩明が落ち着くとか、寂しくないとかそういったものか? と声をかけると、美華はそうです。そんな感じです。と返事をする。

「言葉にしてくださってありがとうございます」
「いや、感謝されるほどのものでもないな」
「そうですか? それにしてもここの皆さんは皆優しい人達ばかりで嬉しいです」
(まるで、実家はそうではないかのような物言いだな……)

 試しに浩明は、雪家ではそうでもなかったのか? と尋ねると美華はう~ん……とうなり始めた。

「……鈴おばさまとか、優しい方はいました」
「鈴おばさま、か」
「巫女の方なんです。占いや予言は百発百中で、すごい方なんです!」

 むふっ! と鼻息を荒くする美華に、そんなに彼女はすごい人物なのか? と浩明は返すと美華はええそれはもちろん! と更に勢いを増した。

「実は、私が波動の力を手に入れると、予言した方でもあります。今思い出すとね」
「そうなのか?」
「私は、人々を治し助ける存在となる。それが私の存在意義となる。と占いの結果で出ました。だから私の存在意義は、この力で人々を治していく事にあるんです」

 この瞬間、浩明の心の中で、美華が遠くへと羽ばたこうとしているような焦りと何かが割れたかのような音がした。

「……美華。もし俺が病に倒れたら、その時は治してくれるか?」
「勿論です。分け隔てなく助けます」
「本当か? 本当に助けてくれるのか?」

 無意識にすがるような目つきとなった浩明の手を握りながら、美華は必ず助けます。と答えた。彼女の手のひらは波動の力が流れているせいか、温かく感じる。

「……わかった。それなら……その時が来たら助けてくれ」
「ええ、いつでもはせ参じますよ」

 2人はこうして、目を閉じたのである。

◇ ◇ ◇

 夜明け。起床と共に浩明はもっと話したいな……と欲が出たのをきっかけに、美華を夕食の場に誘ってみた。

「ありがとうございます。治療院が終わってからになりますが……」
「それで結構だ」
「わかりました。では、のちほどお会いしましょう」
「ああ、待っているぞ」

 一度鶴龍殿で衣服の着替えと髪結いに化粧を済ませてから、治療院へと赴く。治療院では先に来ていた妃や薬師などが、昨日浩明と夜を共にした美華に注目のまなざしを投げかけていた。
 だが、当然ながらこのまなざしは美華には見えない。

「おはようございます。今日はどうなさいましたか?」

 早速治療院での仕事が始まる。分級がなされ、美華の力が必要だと判断された患者が美華の元に現れ
る。その頃、浩明は空の彼方を見つめていた。

(美華は……皇后として俺のそばにいるのと、今の治療院での仕事……どっちが大事なんだろうか)

 聞いてみたい気持ちと、どうせ後者……治療院での仕事の方が大事に決まっているだろうと言う一種のあきらめにも似た感情が、浩明の身体の中でせめぎあっていた。
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